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EP.1:起

この文章作成時の歴史に基づいた内容の話です。読む時期によっては内容に齟齬があるかもしれませんがご容赦ください。

 大永三年(1523年)4月23日、甲斐国の戦国大名武田信虎に仕える飯富虎昌のもとに一人の少女が生まれた。

 その少女は千代と名付けられ、後継ぎとして大切に育てられた。


 (待て待て!飯富虎昌の子供といえば古屋昌時と藤蔵の二人で、女の子は真田に嫁いだとされてるはずじゃねぇのかよ!?何であたしが長女なんだ!?)


 千代は非常に大人びた子だった。

 千代が5歳になるころには読み書き算術、基礎的な剣技を会得していた。

 また、彼女には魔法の才能があったため飯富家の将来は安泰だと思われた。

 この世界において総人口の約一割ほどしか有することのできなかった魔法の才は、身分関係なく発芽した本人の将来の安定を確約させるものだった。

 魔法には3つの種類があり、うち2つの戦闘系・回復系は戦場でも重宝されていた。

 残る1つの生活系魔法は多種多様で、所有者ごとに少しずつ内容が異なり、個人魔法とも呼ばれる。

 この3つの中で千代が発芽させたのは戦闘系の身体強化だった。


(んよこれ。これじゃあ前線送り確定じゃねぇかよ。)


 千代は秀才として遊びに来た武田の家臣団からもかわいがられた。

 武田信虎の次男武田晴信が千代の3つ上だったためか、家の近くの寺などで千代は何度か晴信に会うことがあった。

 魔法が使えるか聞いてみると、晴信は生活系魔法の知能強化を使えると答えた。

 千代は何度か晴信と話すうちに少しずつこの世界の情勢を聞き出すことに成功した。

 室町幕府が現在も続く応仁の乱によって大きく衰退し、各地の守護大名や有力国人が鎬を削っているのが現状である。

 中でも、九州地方北部から中部地方全土にわたってその支配領域を広げる大内氏、四国地方で熾烈な争いを繰り広げる三好氏と長曾我部氏、近年頭角を現し始めた織田氏、北陸地方を統一した上杉氏、関東地方統一に向けて鎌倉公方との戦いに王手を掛けようとしている北条氏、東北地方の小大名を束ねつつある伊達氏が有力であると聞かされた。


(おいおい、、!時代背景めちゃくちゃじゃねぇかよ、、!応仁の乱が現在まで!?大内が中国地方を!?どういうことだよこれはァ!)


「ところで千代殿?君は武田の天下統一に仇なす者は誰だと思う?」


「そうだな、、。1つ懸念があるとすれば塩だな。ここ甲斐国は内陸国。今は今川氏との交易を断絶している最中。越後や関東の商人から塩を買うことで何とか成り立っている。しかし、今川の手が北条や長尾にまで及んだとき、我々との塩の取引がほぼ全て無くなってしまう。そうなれば我々武田家の勝ち目は薄くなる。よって、天下より先に安定して塩を生産できる海を目指すべきだと思うのだが、、。」


「ならばどうするのが良いと?」


「織田、松平氏は未だ新興勢力。今川と同盟を結び、可能な限り早いうちに刈り取るのが良いかと。」


 晴信がなるほどとつぶやきながら少しうつむく。


「そうなると、同盟はどのようにすれば?」


「今関東地方で覇権を握るのがほぼ確定な北条氏と3氏で姻戚関係を結べばよいのでは?」


 千代の発言に晴信は納得したようだった。


(おいおい、、、!これじゃぁあたしが歴史改変に手ぇ貸してるようなモンじゃねぇか!)


 史実では天文23年(1554年)に行われた三国同盟の内容を彼女は軽々しく口にしてしまったことに気が付く。

 晴信はその事実を知る由もないのだが、一抹の不安を拭いきれない。


(ま、まあ?永禄3年(1560年)に独立するはずの松平氏が永禄8年(1565年)に尾張を統一するはずの織田氏とともに同盟を結んでいるんだし?特に問題は、、、、)


 などと地震に言い訳をしているうちに千代が大きな相違点に気が付いた。


「桶狭間!桶狭間での戦いはどうなったんだ!?」


「桶狭間?そんなところで合戦が行われただなんて話は聞いたことがないぞ?」


 いきなり後ろから声がして千代は意表を突かれた表情をした。


「父上!?」


 後ろにいたのは飯富虎昌だった。

 道理で先ほどから晴信が少しニヤニヤしていたなと今になって気づいた。


(ヤバイ!何で桶狭間で戦いが起こったのかのように質問したのかって聞かれたら確実に詰む!)


 千代が心の中で焦っていると虎昌は不思議そうな顔で口を開く。


「なぜ桶狭間で戦いがあったと思ったんだい?」


(前世ではそうだったんで!とか言えるわけがねぇ!かといってほかの戦いと勘違いしたって言うのもリスクが高すぎる!この世界で調べることなく人に聞いたのが悪かったか、、、!)


 千代の背中にいやな汗が流れる。

 斜陽が焦る千代の顔だけを照らす。


(小豆坂の戦いはあったのか!?それとも野良田の戦いか!?どっちだ!?どっちとも無かったのか!?いや、どれもリスクが高すぎる、、!つまりここは、、!)


「父上、織田氏と松平氏が今の支配体制を築く決定的な戦いが知りたいのです。勝手ながら予想として桶狭間あたりで戦いがあったのではないかと、、。」


「なるほどな、、。晴信様はご存じですか?」


「当たり前だ。何といっても小豆坂・野良田の戦いは軍記にもなるほどの激戦だからな。俺はあの境川での魔法を巧みに利用した細川、斯波連合軍の撃破は天下一だと思うぞ!」


「まるほど。やはり、晴信様はこの戦いをご存じでしたか。」


(いろいろと史実とは異なりすぎているな。この後書庫でも調べてみるか、、、。)


「千代。お前ももう少し勉強しないとだな。」


 虎昌は屈託のない笑顔を浮かべた。

 その頃には夕照された三人の顔がはっきりと見えるようになっていた。


「そうですね。あたしも一度部屋に戻ったら少し書庫で書物でも読もうかと思います。」


 千代はため息交じりに答える。

 この時、千代は思いもしなかった。

 この会話が父との最後の会話になるということを。

今回掲載されている話はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

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