第九話 訪問
「はあ……今日も美味しかった」
朝食後、私は満足感を味わいながら部屋へと戻ってきた。因みに、部屋から出た時に私を呼ぶために来ていたお母さんと鉢合わせており、ゴドフリーさんとの会話も少し聞かれていたようだった。
だけど、私が新しく出来た外国の友達とゲームの話をしていただけだと話すと、それには驚かれたものの、お母さん達は新しい友達が出来た事自体は喜んでくれ、機会があったら紹介して欲しいと言われてしまった。
「会わせたい気持ちはあるけど、異世界の人だしやっぱり難しいよね……」
その上、ゴドフリーさんと会わせるなら、ティアさんや神庭の事についても話さないといけない。お母さん達も頭ごなしに否定はしないだろうけど、異世界との繋がりについてはあまり良い顔をしない気がする。どんな危険が及ぶかはまったく想像がつかないのだから。
「……とりあえずゴドフリーさんの事についてはさっき話したようにしよう。さてと、それじゃあそろそろ神庭の事について考えようかな。今日の配信も夜にやる予定だし」
独り言ちながら私はベッドの上に置いたガーデンコントローラーに視線を向ける。そして手に取って電源を入れると、私はある事に気づいた。
「……あれ? なんだろ、この手紙のマーク……?」
見ると、画面の右上には手紙のマークが表示されており、私は不思議に思いながらもそれをタップした。
すると、それはゴドフリーさんから送られてきたメッセージであり、早速色々試してるなと思いながら私はゴドフリーさんからのメッセージを読み始めた。
「えっと……時間があるなら一度神庭に来て欲しい、か……」
時間自体は普通にあるし、もう少し神庭の今後について話したいと思っていたところだったため、私は神庭に行く事を決めた。
そして私はメニューの神庭に出発するを選んだ。すると、ガーデンコントローラーの画面が白い光を放ち始め、気づいた頃にはガーデンコントローラーを持ったままで神庭に立っており、姿も神野和の物になっていた。
「そういえば、ここに来る時はいつもこの神野和の姿になるのかな?」
「なりますよ」
「え?」
その声に驚きながら振り返ると、そこには微笑みながら私を見るティアさんの姿があった。
「ティ、ティアさん……」
「おはようございます、和さん。驚かせてしまい申し訳ありません」
「い、いえ……でも、どうして姿は神野和の物になるんですか? やっぱり神様達の力を使うために必要だからですか?」
「その通りです。和さんがご自身で設定したように和神VTuberの神野和は貴女の世界のあらゆる神々が司る物に関連した力を有しており、その姿だからこそ力を使えるのです」
「まあたしかに私自身には神力なんてないですもんね……」
あれば良いかなとは正直思う。でも、そんなのは私には過ぎた力だし、過ぎた力は自分の身を滅ぼす事にもなる。だから、この神野和の時だけでたぶん良いんだ。
「ところで、ゴドフリーさんを知らないですか? ゴドフリーさんから送られてきたメッセージを見てここに来たんですけど……」
「ゴドフリーさんならお家にいますよ」
「わかりました。それじゃあちょっと行ってきます」
「はい。それと……和さん」
「はい、なんですか?」
私が不思議に思いながらティアさんに視線を向けると、ティアさんは微笑みながら口を開いた。
「ゴドフリーさんの印象はどうですか? まだ出会って一日も経ってない中で聞くのはあれですが」
「そうですね……ちょっとのんきな人で、楽観的な感じなのかなと思います。でも、律儀そうなところもあるし、悪い人ではないとも思ってます。そもそも悪い人だったらティアさんも力を貸そうとは思わないでしょうし……」
「ええ、とても気持ちのよい方ですからね。たしかに少しのんきなところはありますが、それでもしっかりとやる事はこなす方ですし、あの元気のよさには私も元気をもらってますよ」
「たしかに元気な感じですよね。でも、そんなゴドフリーさんの事を裏切った人達がいたなんて……」
その言葉を聞いてティアさんの表情が曇る。
「金銭や地位、そういった物に釣られた事でゴドフリーさんはかつての仲間達から裏切られました。それぞれの理由はあったかもしれませんが、それでもそれらに釣られてゴドフリーさんを裏切った事は事実です。
本人は気にしていないようですが、裏切られたという事実は本人が気づいていないところで心の傷になっている可能性があります。そして、それが予想していないタイミングで強く痛み、ゴドフリーさんの精神に影響を与える事も容易に考えられます」
「そうですね……私は普段からあまり人と関わらないのでそういう経験は無いですけど、いざそうなったら本当に辛くなると思います」
「そうならないのが一番ですけどね。和さんもそうですが、もしもゴドフリーさんがそれを気にしている様子であれば、お話を聞いてみてあげてください。ゴドフリーさんも中々話しづらいとは思いますが、話したいと思うタイミングはあると思いますから」
「わかりました。それじゃあそろそろ行きますね」
「はい。呼び止めてしまいすみませんでした」
「いえいえ」
ティアさんの言葉に答えた後、私はゴドフリーさんの家に向かって歩き始めた。そしてノックをすると、中からゴドフリーさんの声が聞こえてきた。
「お、来たか。勝手に入ってきてくれ」
「わかりました」
返事をした後、私はゴドフリーさんの家に入った。どんな物かと思っていたけれど、ゴドフリーさんの家の中は思っていたよりもしっかりとした木造で、玄関から入ってすぐにあったリビングにもセンスの良い家具が多く置かれていた。
「スゴい……こんな家が出来ちゃってたんだ」
「へへ、スゴいよな。さて、来てもらったわけだし、早速始めていくか」
「始めるって一体何を──」
疑問を抱く私にゴドフリーさんが近づいたかと思うと、その距離は一気にゼロになった。
「え……ええ!?」
困惑する私がされていた事。それはゴドフリーさんからの少し強めのハグだった。