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第三話 勇者

「……きて、くだ……」

「う、うーん……」

「起きて下さい、神野和さん」



 そんな凛とした声が聞こえ、私の意識は静かに覚醒していった。そしてゆっくり目を開けると、そこは多くの綺麗な花が咲く野原のような所であり、その雄大さと景色の良さに私は思わず声が出てしまった。



「綺麗……こんなとこ、夢の中じゃないと絶対に来れないよ。でも、ここは一体……?」



 そう言いながら私は辺りを見回す。けれど、今いる場所に来たり何かで見たりした記憶はなく、私は首を傾げるしかなかった。


 そうしている内に近くにとても澄んだ水が流れる小川を見つけ、何か泳いでないかと思いながら近づくと、水面に写った姿に私は驚いてしまった。



「……えっ!? か、神野和!?」



 水面に写っていたのはVTuberとしての私であり、リアルになったその姿に驚きはしたけれど、自分がデザインまでした姿がこうして現実の物として見られるのは心から嬉しかった。



「でも、どうして神野和の姿になってるんだろ……もしかして、これがライトノベルでよくある異世界転生ってや──」

「どちらと言うならば、異世界転移と言ったところでしょうか」

「え?」



 目覚めた時と同じ凛とした声が後ろから聞こえ、私が驚きながら振り返ると、そこには綺麗な藍色の着物姿の女性が立っていた。


 その人はとても綺麗な長い金髪にサファイアのような輝きを宿した目をしており、絹糸のようなキメ細やかでシミ一つない白い肌も相まって同性である私も思わず見惚れてしまった。



「あ、貴女は……?」

「私は……そうですね、ティアと呼んでください。神野和さん、先程は私の話を聞いて頂き本当にありがとうございました」

「ティアさんのお話……え、もしかして視聴者さんの中のお一人なんですか!?」

「はい、最後にお話を聞いてもらった者です」

「そうだったんですね……」



 視聴者さんとのまさかの出会いに驚きながらも嬉しさを感じた後、私は辺りを見回しながらティアさんに話しかけた。



「それで、ここはどこなんですか? ティアさんが私をここに連れてきたんですよね?」

「その通りです。ここは神庭(かにわ)という名前で、私が貴女に差し上げようとしている場所です」

「神庭……でも、どうして私に?」

「ここを拠点にして配信の際に私がお話をした方の支援をして頂きたいからです」

「支援……そういえば、お悩みの内容はお知り合いが不当な扱いをされているという物でしたね」

「はい。いきなりこう言っても貴女は中々信じられないかもしれませんが、その方は正確には知り合いというよりは私が祝福を与えた勇者なのです」



 その言葉を聞いて私は心から驚いた。



「ゆ、勇者……!? 勇者ってあの魔王と戦うあのですよね!?」

「その勇者です。勇者である彼は別に王族であったり古の勇者の子孫であったりはしないのですが、とても前向きな性格をしていて勇者として選ぶに相応しいと感じたので祝福を与えて勇者になってもらったのです。

そして努力を重ねてその強さを増していき、仲間も増やしながら人助けも苦にせずに行ってきたのですが、彼がただの平民であるのにも関わらず勇者に選ばれた事を疎ましく思った人間も少なからずいました」



そう言うと、ティアさんは哀しそうに俯く。



「その人達に陥れられて勇者は不当な扱いを受けているという事ですか?」

「はい。勇者である彼にはその印があるのですが、あろうことかその愚か者達は印がなくとも勇者になれると言い始めました。

その後、一度勇者達を城へ呼び出した際に仲間だった者達を金銭や地位を与える事で懐柔し、全員で彼から勇者の地位を奪い取り、作物も中々育たないような僻地(へきち)へと追いやってしまったのです」

「酷い……私の世界の物語ではよくある展開だけど、本当にそんな事が……」



 そこまで話を聞いた時、私は目の前にいるティアさんの正体に気づいた。



「まさかティアさんって……女神様なんですか?」

「はい、その通りです。少しではありますが、私は異世界にも干渉出来るのでどなたか力を貸して頂けないかと考えていた時に貴女の配信を見つけ、声をかけさせて頂きました」

「女神様の力ってスゴいんですね……」

「ふふ、貴女もそうではありませんか。女神である神野和さん」



本物の女神様からの言葉を聞いて私は少しだけ誇らしさを感じたけれど、それと同時に気恥ずかしさを感じていた。



「それはあくまでも設定で……でも、ティアさんが勇者を助けたいと心から思ってるのはわかりました。私みたいな異世界の存在に助けを求めたのもティアさん自身が直接手を出せないからなんですもんね」

「真に悔しいですがね。自分が管理をする世界に対して過ぎた干渉が出来ないという制約があるため、私が勇者に対して出来るのは祝福を与える事や真の勇者にのみ使用出来る装備のありかを報せる事くらいなのです。そうでなければ、あの王国や愚か者達など私の力で……!」



 ティアさんは本当に悔しそうな顔をしており、勇者を裏切った王国や勇者の仲間達を憎んでいる事がハッキリとわかった。



「それくらいティアさんは勇者の事を気に入っているんですね」

「……そうですね。私もこれまで様々な勇者を見てきましたが、彼ほどに気持ちの良い勇者は見た事がないので、どうにか助けたいのです。神野和さん、無理にとはいいません。どうか勇者の事を助けては頂けませんか?」

「私が勇者を……」



 正直な事を言えば自信はまったくなかった。私はVTuberとしてなら様々な神様の力を使える女神になれるけれど、本当の私は何の力もないただの人間なのだから。


 けれど、隔たれた世界を越えてまで私を見つけ、こうして直接頼んでくれているティアさんのために頑張りたいのも本音だ。だったら、出来る限りの事をするのが一番だと思う。


 結論を出した私が口を開こうとしたその時、私の隣に突然青い渦が現れ、その中から目を瞑った一人の男の子が姿を現した。



「え、え?」

「来てくれましたね、彼が」

「彼って、もしかして……」

「はい。彼が勇者であるゴドフリー・ガードナーです」



 目を瞑りながら静かに立っている男の子を指し示しながらティアさんは嬉しそうに言った。

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