華奈の過去
今回は、華奈目線のお話です。
3話 華奈の過去
私の名前は山中華奈。お父さんとお母さんがつい先日離婚して、同級生、花梨の母親と結婚した。私はそれが許せなかったから、お母さんのあの笑顔を取り戻すために、お父さんを取り返す事にした。
だから同級生の花梨を徹底的に追い詰めることにした。
わざと転ばせた。
階段から蹴り落とした。
呼び出して殴った。
ランドセルと机に落書きをした。
あいつが休んだ。虐めたかいがあった。
教科書とノート全部捨ててあげた。
ロッカーに閉じ込めてあげた。
家の壁にキモイ落書きをしてあげた。
あいつの体操着を燃やした。
あれ?こんなに楽しかったっけ…
夜に忘れ物を取りに来た。
そしたらあいつが変な儀式をしていた。
異世界に連れて行ってください、とか言ってるし。
せっかくの夜の学校だし、殴りに行こう。
いつもよりマシマシで。
入ったら、白い光に包まれ私たちは謎の場所に飛ばされた。
…視界の端に嫌なものが映った。
花梨「えっほんとに異世界来ちゃった…」
花梨「自由だー!」
逃げようとするから1回苦しめよう。
一緒に行動させよう。
死ぬまで殴ってやりたいとこだけど、ここは異世界。しかもここは公の場。殴れるわけが無い。
───でも、この世界から帰れなかったら?
迷いながらも、私たちは異世界の大きな街にたどり着いた。空気はどこか冷たくて、遠くの塔から鐘の音が響いている。花梨は無邪気そうにきょろきょろして、私の顔なんて見もせずに歩き出した。
「ねえ、華奈。なんか、美味しそうなもの売ってるよ!」
いつもなら、その声にイラッとしたのに──この世界の空気のせいか、あまり感情が動かなかった。私は花梨の後ろから静かに歩く。何も知らず、誰の痛みも気づかず、前を歩く花梨の背中。
(このまま、ずっと一緒にいなきゃいけないのかな)
頭の中がぐるぐるしていた。憎しみと、不安と、空っぽなもの。
……異世界は、不思議な出来事ばかりだった。話をすればどんな願いも叶うという神殿。空を歩く鳥の兵士たち。出会った人はみんな、本当の自分の心を隠しているように見えた。私たちは住んでいた世界とは、ルールも考え方もまるで違うこの場所で、生きていかなければならなくなっていた。
夜、宿屋の小さなベッドで私は眠れずにいた。
(苦しめてやりたい───その気持ちはまだ消えていない。でも、どうしてあんなに執着している?)
ふと、窓から外を見た。月明かりに照らされた街と、暗い森の影。それを見ていたら、胸の奥から何かが溢れてきた。
(私は……本当は何をしたかったんだろう)
次の日、花梨がとつぜん私に声をかけてきた。
「ねえ、一緒に魔法の市場に行こうよ。もしかしたら、元の世界に帰れる方法が見つかるかもしれない」
私は答えない。けれど、花梨の表情には、昨日まで見せたことのない本気の不安と期待が混じっていた。
(こいつだって、本当に幸せなのかわからない)
ほんの一瞬──私は、花梨と同じ景色を見たような気がした。その瞬間だけ。
だから私は決めた。
苦しめるためでも、逃げるためでもなく、本当の理由をこの世界で探してみようと。
歩き始めた二人の距離は、まだすごく遠いままだ。でも、もしかしたら。いつか、お互いの本当の気持ちに近づける日が来るかもしれない。
憎しみから始まった旅。だけど今、私の中には小さな疑問の芽が生まれ始めていた。
──でも、私のプライドはまだ消えていない。
花梨、あんたを許したわけじゃないんだから。
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