最悪な2人
ワケありのいじめっ子と幸せに暮らしていたはずのいじめられっ子がある日二人で異世界に転生し、次第に絆を深めていく話。
1話 最悪な2人
私の名前は山中花梨。小学6年生。
なんて事ない日常を送っている、
女子小学生…なはずだった。
最近は嫌な事ばかりだ。
2ヶ月前。お父さんが、がんで死んだ。
しかも、急に来た父親を名乗る男に
毎日毎日セクハラの様なことをされていている。
お母さんは見て見ぬふり。
花梨はいい体してるなぁと言われ、ベットに潜られる。風呂に突撃してくる。殴ってくる。
父親モドキがテレビ局のお偉いさんなので、学校の人に話しても見て見ぬふり。
しかもわけも分からず同級生の「山中華奈」っていう人に虐められて。
こんな事になるならお父さんの代わりに私が病気で死にたかったな。
前のお父さんは優しかったのに。
なんでこのお父さんは優しくないの?
なんで死んじゃったの?
ねぇ、お父さん…戻ってきて……
午後8時半。
部屋でいつもの様に異世界転生系の漫画を読んでいた。
アニメとか漫画の『異世界』。あの世界でエルフとか精霊とか王子とか、そういう人たちに恵まれて、冒険して、恋愛して…
そういう楽しい人生を送りたかった。
ただ画面越しに憧れるだけ。
…もしほんとに異世界に行けたなら。
そんな事ないって頭では分かってる。
たった0.01%でも確率があれば。
「花梨ちゃん!知ってる?
夜の10時半、学校の教室でとある呪文を唱えたら、異世界に行けるらしいよ。その呪文は、神様神様、私を異世界に連れて行って、って言うらしいよ!すごくない?」
そういえば、友達がそんな事を言っていたな。
花梨「よし」
こんなチャンス二度と無いかもしれない。
やらなきゃ。
学校にて
花梨「夜の教室でこの呪文を唱えると、異世界に行ける」
脳裏によぎる色々な言葉。
「異世界に行きたい」
「現実逃避がしたい」
「あんな親とはお別れだ」
「現実とはお別れだよ」
「ばいばい」
今までの生きてきた中での
怒りがふつふつと込み上げてくる。
「神様神様、私を異世界に連れて行って!」
華奈「やばい!」
華奈「忘れ物忘れ物!
宿題持って帰り忘れてたわ〜!ふーあぶね〜」
「は?あいつなにやってんの?
こんな夜の教室で!馬鹿じゃないの?
ちょっと邪魔してやろっと」
ガラッ
いじめっ子の華奈。
華奈がズカズカと教室に入ってくる。
何か言っているような気がするが聞こえない。聞きたくもない。
でもこいつには関係ない話。
このまま異世界に行くんだ!
華奈「ねぇ!なにやってん…え?眩しっ!?浮いて、ぇぇぇぇ!??」
その瞬間、教室は白い光に包まれ、私は知らない街に飛ばされた。
やったぁ。ついに私は異世界に────
しかし視界の端に嫌なものが映った。
山中華奈…私をいじめてきたやつだ。
華奈「ちょっとこれどうゆうこと!?」
なんでこいつがいるんだよ…
こっそり逃げよう。
見つかんないように──
華奈「ねぇ」
華奈「何逃げようとしてんの?」
背筋に冷たい汗が流れる。
華奈「ここ多分異世界じゃん?
1人は危ないからさ、一緒に行動しよう」
思いもよらないセリフが華奈の口から出てくる。
「とりあえず、いくら仲悪いとは言え、ここは手を取る!わかった?」
花梨「わ、わかった!」
私たちの最悪な旅が始まったのはここからだった。
華奈「あれ見て」
指を指した先にあるのはギルドの看板だ。
華奈「ギルドでクエストができるらしい」
花梨「モンスター討伐とか薬草集めとかそういうやつ!?」
華奈「そういうやつ」
ギルドにて───
───ここがギルドかぁ!ゲームでよく見る感じだぁ!
受付嬢「お客様、ギルドのご利用は初めてですか?」
花梨「はい」
受付嬢「初めての方はギルドカードの申請をお願いします。申請場所は───」
十分後
花梨「何とか終わった…」
華奈「おい、目的忘れんなよ」
花梨「分かってるよ……」
華奈に背中を叩かれる。
華奈「これとか最適じゃん」
『Dランク向けクエスト!山のスライム討伐、1匹10G』10G=100円
華奈「これお願いします」
スライムかぁ…強そうなやつでてきたらどうしようかなぁ…
山にて
花梨「なんとなく来ちゃったけど…武器とかないよ〜」
華奈「あるじゃん、ほらアイテムボックスひらけって」
そこにはブロンズダガーと書いてある剣があった。
花梨「マジであった!」
華奈「ほら行くぞ」
華奈「ハァーッ!」
花梨「そいやーっ!」
スライムは意外と弱く、300匹位は倒せた!
受付嬢「す、凄い量ですね…3000Gです」
『Cランクに昇格しました。』
花梨「なにこれ?」
華奈「ほら行くぞ」
花梨「わ、わかった!わかったから!」
また強い力で背中を叩かれる。
宿
花梨「ふぁーぁ!つかれたぁー!」
華奈「明日もクエストだからな」
花梨「おやすみ!」
おやすみなさい……
夢の中
「お父さん…死なないで……」
「花梨…お母さんと楽しく暮らすんだよ…
お父さんたくさん眠らなきゃいけないんだ…
花梨…今まで…ありがとう……」
それまで継続的にに続いていた
モニターの電子音が
一定の音を刻むのを止めた。
医者
「ご、午後3時29分、死亡を確認しました」
お父さん……
1ヶ月後
お父さんは死んだはずなのに。
父親を名乗る男がいる。
「今日からよろしく!花梨」
「いい体してんな!」
やめてよ!やめて!
バンッッ!!
「痛いか?!痛いだろ!?
俺の言うこと聞かないからだ!!」
なんでお母さんも先生も見て見ぬふりなの?
ねぇ、誰か助けてよ。
ねぇ……
朝。
華奈「おい、起きろって」
花梨「……おはよう」
華奈「準備したらクエストやりに行くよ」
……気になる事がひとつある。
花梨「突然だけどさ」
まさか…
「私たちが苗字一緒なのってもしかして…」
華奈「ねぇ」
「その話しないで?」
「わかった?」
花梨「わ…わかった…」
華奈「先に行ってるから、その話は今後一切するな」
華奈はものすごい剣幕で言ってきた。
華奈が去った後、
最初に視界に映ったのは華奈がいつも持ってる日記だ。
読んでみよう。
5月1日
お父さんとお母さんが離婚した。
なんで?お父さん酷いよ。
2日
お母さんが叩いてきた。痛い痛い痛い痛い。
なんでこんなことするの?これも全部、
あの男のせいだ。
3日
花梨の苗字が変わった。私と一緒。なのに
憎くて憎くて仕方がない。それはお父さんと再婚したからかも。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない
4日
今日は授業参観、あいつの父親はやっぱり
前の父親と一緒だった。
あいつが笑ってるのが嫌だ。
あいつが居なくなれば、あいつの母親が消えればお父さんは戻ってくるはず。
お母さんは今日も泣いている。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない
5日
今日はわざと転ばせた。
今日は階段から蹴り落とした。
今日は呼び出して殴った。
今日はランドセルと机に落書きをした。
あいつが休んだ。虐めたかいがあった。
今日は教科書とノート全部捨ててあげた。
今日はロッカーに閉じ込めてあげた。
家の壁にキモイ落書きしてあげた。
あいつの体操着を燃やした。
全てはお母さんの為。あいつが居なくなればいいんだ。
ね?お母さん?
この日記を読んで、吐き気がした。
こんな感情を抱いていたなんて…
華奈がどうして私をいじめていたかが分かってしまった…
こんなに深刻な理由だったなんて…
でも、なんで私までターゲットにされるの?
私、なんにもしてないじゃん…
……行かなきゃ、今は……大丈夫でしょ……