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荷馬車が停まり、石畳の地面に足を下ろした私は、軽く深呼吸をした。


ここがミルス。

広場に噴水があり、商人の屋台が立ち並ぶにぎやかな町。

私の記憶が正しければ、この町の宿屋でレインが休憩を取っているはず。


(今なら、まだミラと会う前!間に合う……間に合う!)


私はかごをぎゅっと抱え直し、まっすぐ宿屋の方向へと足を向けた。


「おや。アリアは、どこへ?」


後ろから、ゆったりとした声がかかる。

金色の長髪を一つに束ねた青年ルーカスが、微笑みを浮かべて私の後ろに立っていた。


「えっと、ちょっと、宿屋のほうに……」

「じゃあ、私もついていこう」

「へ?」


あまりにあっさりした提案に、私は思わず変な声を出した。


「いや、あの、えっ、なぜ……?」

「可愛いお嬢さんが一人で歩くには、ちょっと物騒な場所だからね。魔物も出る時期だし。何より、君には命を救ってもらったし」

「命?い、いやいやいや!傷薬ですよ?私そんな大したことは……!」

「宿屋まで送るだけさ」

「そ、そうなんですけど、でも、えっとその……」


(だめだめだめ!!今ここでルーカスとレインが出会ったら、イベントが崩れる!二人が出会うのは、次の町なの!ここで会ったら話が変わるかもしれない!)


頭の中でぐるぐると思考が飛ぶ。


「えーと、あ、そうだ!宿屋にいるのは……あの、親戚のおじさんで、ちょっと、まあ、うるさいというか……」

「ふむ?」

「娘と一緒にいる男性は許さない!!みたいな、そういうところがある人でして!」

「……おっと、それは困るな。たしかに私、そういう人に嫌われやすい顔してるし」


さすがモテるキャラクターランキング一位のルーカス。

自覚はあるらしい。


「じゃあ、宿屋の手前まで送るのは?」

「それもやめたほうが!見張ってるかもしれないし、通報されるかもですし、あの、なんというか!とにかく!関わったらややこしいことになります!!」

「…なるほど」


(あっ、ちょっと黙った。引いてくれるかも!?)


そう思いながら広場の方に視線をそらした瞬間。


「……っ!」


人の波の向こうから、銀髪な剣士が視界に入ってきた。

片手に荷物を持ち、町の門へと向かって歩くレインだ。

そのすぐ隣には、彼の肩ほどの背丈しかない、小柄な女の子。

ショートカットに、赤いケープ。

腰にはしっかりとした剣。

まさに私の知る、ヒロインだった。


(ま…まにあわなかったぁぁぁああ!!どうしてそんなサクサク進むの!?あの二人、出会いイベント最短ルートで終えてるじゃん!もう出発する流れ!?セリフ回収どころか、立ち絵も見れなかったよ!?)


私は、人混みにまぎれながら、そっと体を引いた。


(…だめだ。もう、近づけない)


私の役目は、アイテムを渡すだけ。

でもタイミングを間違えたら、イベントが崩れてしまう可能性がある。

今無理に割り込んでも、変な女が絡んできたで終わるかもしれないし。


「どうしたんだい?」


少し後ろから歩いてきたルーカスが、のんびりと声をかけてくる。


「いえ…」


(間に合わなかったけど、まだ終わりじゃない。レインとルーカスが次の町レガリアで出会うことだけは、絶対に守らなきゃ)


「ルーカスは次の行き先って、もう決まってますか?」

「うん? ああ、俺はこのあとレガリアに向かうつもりだったよ」

「……っ!」


よかった!

私は両手でかごをぎゅっと抱きしめ、心の中で跳ね上がった。

これでレインとルーカスの出会いイベントは、正規ルートで発生させられる!


(ルーカスがこのままレガリアに行ってくれれば…!)


「ただ、せっかくだしこの町も少し見てからにしようかと思ってね。噴水広場の近くに、結構いい食堂があるって聞いたし」

「えっ」

「あと、このあたりは陶器が有名なんだって。土産に何か買って帰っても」

「だめですっ!!」


私は、声を裏返して割り込んでいた。

ルーカスが、目を丸くして私を見る。


「え? だめ……って?」

「い、いえ、その……っ。ちが……すみません、声が大きくなって!」


私は慌ててぺこぺこと頭を下げる。


(あああああ……どうしよう、ルーカスの観光イベントが始まる!?時間を取られる!!だめだめだめ!寄り道してる間に、またイベント順がおかしくなる!!)


「えっと、その……!」


私は勇気を振り絞って、まっすぐルーカスの目を見た。


「私、実は今すぐレガリアに向かいたくて!その……よかったら、護衛をお願いできませんか!?」


ルーカスは驚いたように目を細め、それからくすっと笑った。


「なるほど。それなら、そう言ってくれればよかったのに」

「すみません……なんだか言いづらくて」

「でも、いいのかい? 君の親戚のおじさんは、この町に泊まってるんじゃなかったのかい?」

「っ!」


しまった、そっちの設定忘れてた!!!


一瞬、脳内で「イベント崩壊」「ルーカスの混乱」「ルートからの逸脱」などの文字がぐるぐる回る。


「じ、実はですね……!おじさんに届ける薬、先にレガリアのほうで仕入れる予定だったんです!!」

「ほう?」

「この町では手に入らなくて!なので、私が先に薬を買ってから、おじさんのところに行くってことになってまして!」


ルーカスは、腕を組んで私をしばらく眺めたあと、ふっと目を細めた。


「……そうかい。だったら、一緒にレガリアへ行こう」

「ほ、本当ですか!?」

「もちろん。護衛付きで急ぎ旅、了解だよ。薬師さん」


私は深く深く、礼を言った。


(よかった……!よかったぁ……!!これでイベント発生地点にルーカスを送り届けられる!!)


今はただのモブだけど、イベント整備員としての私の仕事、着々とこなしてる気がする。

こうして、レガリアへ急ぐ旅がスタートする。

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