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3話 魔王、まさかの雑用地獄!? 家族の期待に応えてみた

 朝食が終わると、リリエルが容赦なく言い放った。

「さあ、治ったのだから今日からしっかり働いてもらうわよ。うちの家計は火の車なの。あなたには期待してるのよ、クロノ。」


 クロノは椅子から立ち上がり、苦い表情で「心得た」と応じた。視線を伏せ、ため息をこらえる。かつて魔王だった自分が借金まみれの家でこき使われるとは思わなかったが、魔族の契約には逆らえなかった。


 「まずは庭の雑草抜き、それから家畜小屋の掃除、倉庫の在庫整理と物干し場の修理も頼むわ。」

リリエルは次々と仕事を指示する。弟カイルが「え、そんなに一人で?」と目を丸くし、「僕も手伝うよ!」と言うが、リリエルは「当然よ。人手が足りないんだから」ときっぱり。


 すると、エドガーがリリエルの横に寄り、「無理するなよ、また倒れたらリリエルが困る」とクロノにわざとらしく言う。

クロノは少し眉をひそめ、エドガーの強い警戒心に内心苦笑しながら「その程度なら朝飯前だ」と余裕を見せて作業へ向かった。


 作業を始めたクロノだが、人間社会のルールに戸惑う。雑草とはどれか、掃除は何を指すのか、家畜にやる“えさ”とは――分からないことだらけだが、「できない」とは言えず、黙々と仕事を続ける。気づけばすべて完璧にこなしていた。


 午前中の作業が終わるころ、クロノは精も根も尽き果てて椅子に崩れ落ちた。「疲れた……これほど我を追い込む敵など、かつていたか」とつぶやく。


 そこへ料理長ミレーヌが泡だらけの手で現れ、「お昼までに台所の窓拭きもお願いね。男手があると助かるから」と追加の仕事を頼む。

エドガーは溜息をついて「姉さん、あんまりコイツに期待しすぎるなよ。どうせすぐ根を上げる」と言うが、リリエルは「大丈夫よ、しっかり元は取らないと」といたずらっぽく笑う。


 「任せろ」と強がり、クロノはまた作業に向かう。精神はすでに限界だったが、魔王の誇りで自分を奮い立たせる。エドガーの嫉妬めいた視線も気にせず働いた。


 雑草を引き抜くクロノに、カイルが「クロノさん、昔は何してたの?」と無邪気に尋ねる。「世界征服の準備だ」と答えれば、「かっこいい!」とカイルは素直に笑い、エドガーはまた冷たい視線を送った。


 夕方、全身泥だらけで帰ってきたクロノを見て、ミレーヌが「もうボロボロじゃない!」と明るく笑い、カイルがタオルを差し出す。

リリエルは「明日もやることは山ほどあるわ」と当然のように宣言するが、なまけ癖のエドガーは手伝おうともせず、悔しそうにクロノを横目で見ていた。

クロノは疲れた素振りを見せず、タオルをしっかり受け取って「任せろ」と答えた。


 夜、クロノは泥まみれの手を見つめ、「人間社会とは、なんと過酷な場所か……だが、面白い。その挑戦、受けて立とう」と心の奥でそっと闘志を燃やす。


 翌朝、筋肉痛で体が重く、目を覚ます。

扉の向こうからリリエルの遠慮ない声が響く。「クロノ、起きて! 朝ごはんの前に薪を割っておいて!」

仕方なく階段を降りると、なまけ癖のあるエドガーが薪割り場で待ち構えていた。「俺がやる」と薪を抱えてクロノの前に立ち、「妹の家に余計な男は要らないんだよ」と小声で毒づく。クロノもまた無言で斧を取る。二人は視線で火花を散らし合い、結局クロノが一気に薪の山を築いてみせた。エドガーはぽかんと口をあけて何も言えない。


 その後もミレーヌの指示で井戸の水汲みやバルサムの納屋掃除と、次々に仕事が舞い込む。

カイルが「クロノさん、動き早いな!」と嬉しそうに声をかけるたび、エドガーは複雑な表情を浮かべている。


 昼前、リリエルがクロノの働きぶりを眺めて「あなた、本当に根気強いのね」と感心し、その横でエドガーは「……リリエル、変なヤツに気を許すなよ」と釘を刺していた。


 昼食の席でもミレーヌが「明日は市場の荷物運びも頼むからね!」と次の仕事を指示し、カイルは「クロノさんがいると何でも早い!」と喜でいる。


 クロノは唇の端をわずかに上げ、「心配無用だ」と返し、パンをかじった。胸の奥には、この家族の暮らしと新たな日常に対する、確かな決意の火が灯っていた。

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