光は、裁きの名の下に
この世界は穢れている。
だからこそ、私は選ばれた。
神に選ばれし勇者として、この美しい世界を守るために、私は剣を振るうのだ。
ああ、私の剣は清浄なる神光にして裁きの刃。
《聖剣セラフィエル》
その名を口にするたびに心が震える。美しい。
純白の刀身、黄金の紋章、そして斬れば斬るほどに強くなる光の祝福。
……力とは、正義そのものであり、正義とは私そのものだ。
昨日、村を一つ焼いた。
悪しき魔族どもが一匹でも生きていれば、民の魂が穢れる。
それはこの世界にとって毒であり、災厄である。
だから私は、祈るようにして聖剣を掲げ、神の名のもとに
“清めた”
大人も子どもも。叫んでいた。泣いていた。愚かなことだ。
なぜわからないのだろう。
この私に斬られることこそ、最上の栄誉であるというのに。
神の祝福を受けて、私の剣は光を帯びる。
すべての罪は、私の一振りで消え失せる。
それが裁きだ。
それが赦しだ。
見ろ、世界は救済を求めている。
私の元に跪き、許しを乞うのが正しい道だ。
それ以外の者は、獣であり、穢れであり、異物である。だから私は今日も祈る。
心から、全力で祈る。愛と慈悲と赦しの心をもって、彼らを斬るために。
私の背後には、神がいる。
天界から与えられた「天唱印」は、絶対命令の象徴。
私が命じれば、聖堂騎士団は心も体も逆らえない。
“声”で支配し、“光”で従わせ、“意志”で命を奪う。
私の言葉は、法であり戒律であり現実そのものだ。
……美しいな。
最近、従わない兵が一人いた。
彼は言った。
『神の意志を騙って人を殺すな』と。
なんという罪深き冒涜だろう。
私はそっと手を伸ばし、彼の頭に触れた。
「神に許しを請いなさい」
私はそう言っただけだ。
次の瞬間、彼の心臓は爆ぜた。
いい音だった。柔らかな爆ぜる音。
肉と骨のきしむ音が、私の耳に心地よかった。
命は尊い。
だからこそ、それを終わらせる瞬間は神聖だ。
……これが、神の奇跡だ。
私は、間違ってなどいない。
誰もが私を讃えるべきだ。
民は私に祈る。兵士は私に従う。
教会は私を“主の器”と呼ぶ。
そして、私自身がもっとも私を信じている。
信じて、信じて、信じ続けてきたのだ。
……ただ一人を除いて。
魔王。
あの“罪の王”だけは、どうしても私に跪かない。
闇を背負い、光を拒む愚か者。
だが奴は……覚醒したらしい。
光と闇の両方を携えるという噂を聞いた。
実に興味深い。
矛盾と混沌、それこそが罪の極み。
私が斬らねばならない、いや、斬るべき存在だ。
まだ自身の光に気づく前に、自身の矛盾を正当化する前に。
裁きの剣が最も映える相手だ。
考えるだけで手が震える。
嬉しい。
怖くない。
私は、強い。
強く、正しく、美しい。
だから、世界は私に従うのだ。
私に背く者など、存在してはならないのだ。かつて、私は人を救いたかった。
幼い頃、盗賊に母が殺された。
目の前で、あっさりと命を奪われた。
私は助けられなかった。
あの時、私は思った。
ああ、誰かが世界を“正しく”すればいいのに、と。
その時、声が聞こえた。
天使の声だ。
甘く、優しく、冷たい声で私に言った。
「あなたが、正しくすればいいのです」
その日から、私は決めた。世界を救うと。
悪を斬り、正義を示し、希望を与えると。
そして、それを実行してきた。数え切れないほどの村を焼き、魔族を処刑し、人間の中の裏切り者も処罰してきた。
美しかった。
すべてが、理にかなっていた。
苦しむ顔、泣く声、震える瞳——その一つひとつが、私が“正しさ”を体現している証だった。
だが、時々わからなくなる。
なぜだろう。
私が斬った子供の中に、母を庇って立ちはだかった子がいた。
その子は叫んだ。
「お願い、ママを殺さないで!」
私は言った。
「安心しなさい。お母さんもあなたも、罪を償えば救われる」……そして斬った。
だが、その時——ほんの一瞬だけ、心が濁った気がした。
だが、すぐに祈りを捧げた。
私の中の“迷い”を消し去るように、何度も、何度も祈った。
そして、消した。
思い出も、表情も、声も。
すべてを、神の光で焼き尽くした。
それでいい。
私の剣は正しい。
私の意志は絶対だ。
私は神の代行者であり、この世界における“唯一の正義”。
だというのに
——どうして“魔王”が光を持つ?
矛盾している。
おかしい。赦されるはずがない。
闇の王が光を持つなど、断じて、断じて許せるものではない。
私は天に問うた。
「主よ、私は間違っていませんか?」
その答えは、剣の輝きだった。
《セラフィエル》が淡く輝き、私に語りかける。
『お前が正しい』——そう聞こえた。
ならば、もう何も迷う必要はない。
あの魔王を殺す。
それがこの世界に残された最後の“救い”だ。
私は剣を携え、馬に乗り、部隊を編成した。神官たちが私を囲み、地に膝をつく。
空には天使の祝福が降り、光の柱が私を包む。まるで、舞台の中心に立つような気分だ。
ああ、なんて荘厳なんだ。
なんて優雅なんだ。
見てくれ、私は、世界で一番正しい。この世界に、私以上の“正義”など存在しない。私は、神に選ばれた。この私こそが——真実の“光”だ。