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12話 エスコートされる男


 ◆  ◆ ◆


「ルキノ君、おいしい?」

「うん……すごくおいしいよ……」

「それは良かったぁ」


 最上級のレストラン。最上級の料理。最上級のおもてなし。

それらに相応しいように振舞いたいのに……そもそも女の子に予約してもらったレストランで、僕はどんな顔をしたらいいのかわからなかった。


 しかも、メニューを見ても値段が書いていなかった。

 一体、総額いくらするんだ?

 メグは当たり前のように炭酸水を頼んでいたぞ?

 水じゃないのか? 当然お金がかかるよな? いくらだ? どうせお金を払うなら、もっとジュースや酒を頼めばいいのに。年齢的に酒がダメなのはわかるけど。


 カトラリーが音を鳴らさないように精一杯気を付けながら、前菜を食べ進める。あぁ、美味い……こんな美味いものは初めて食べた。弟にも食べさせてやりたいな。


 こんな場所に……ユイを連れてきたら、彼女はどんな顔をするのだろう?

 目の前にいるのが、不機嫌そうな黒髪の彼女なら。


 場違いだと居づらそうにモジモジしているのだろうか。料理を食べて、その美味しさにビックリして、嬉しそうに笑うのだろうか。そのあと、恥ずかしそうに頬を赤く染めて、顔を背けているのだろうか。


 あぁ、かわいいなぁ。


「ルキノ君、なんか妄想してる?」

「……目の前にこんなかわいい子がいるのに、他のことなんか考えられないよ」

「ユイと一緒に来れたら良かったねぇ。でも、一般学生さんにはちょ~っとお高いから、社会人になってから、特別な日に来たらいいんじゃないかな?」

「なんでわかるんだ?」


 とりあえず目先の無駄な疑問符に言葉を返しながら、僕は彼女のさりげない言葉に冷や汗を掻く。

 

 やっぱり学生には高いの?

 ……え、僕、金足りるかな。


「安心して。ここはあたしの奢りだから」

「もうきみは黙っていてくれ……」


 ここはエクバタ随一の観光名所エクティアタワーで、まだ開店して三ヶ月にも関わらず今大人気のレストラン。


 およそ十数席の小さめ店舗ながら、その高い料理の質と比較的リーズナブルな値段が売りの店である。厨房が見えるの大きな窓の上には、エクティアタワーに太陽が昇るマークが付いていた。


 この太陽を模しているマークは、誰もが知る大企業『ブライアン社』のロゴマーク。その会社はエクア発祥以来、食糧生産に力を入れたことにより、今ではエクア中の食糧を過半数を担うほどの大企業となった。


そんな企業が新しい試みとして、庶民でも上級階級の気分が味わえるようにと、若手社員たちを筆頭に計画し誕生したのが、今いるレストラン。


「ねぇ、ルキノ君……」

「なんだい?」


 金ピカのシャンデリアが料理や客を美しく照らす中、そんな大財閥のご息女だったメグが再びニコニコと告げてくる。


「ユイのどこが好きなの?」


 どシンプルな質問に、僕は思いっきり咽せた。


「なんで、それを……今……」

「今聞かないでいつ聞くの。あたし、今日の一番の楽しみはそれを聞くことだったんだよ!」

「ほんと……きみは僕に興味がないよね」


 これでも、僕は学園の王子様。

 実際は王子様とは無縁の生まれだけど、そう言われるように見た目も、勉学も、普段の立ち振る舞いも、抜きんでている自負があるのに。


 まぁ、周囲を見渡しても、店内の席を埋めている客は、老若男女問わず。セレブなご年配奥様から、オシャレしてきた家族、自分らと同じようなカップルまで、幅広い年代が皆楽しそうに料理に舌鼓を打っている。


 多少浮かれた話をしても、さして問題はないだろう。


「学園に入学するよりも昔……家族旅行で、ユイの故郷に行ったことがあってさ」

「死海のあたりだね。治安が悪いって有名だけど……たしかに観光名所だ」

「そう……そこで財布をすられたときに、ユイが助けてくれたんだ」

「ぽいなぁ~。ルキノ君が助けたんじゃなくて、ユイが助けたあたりが。でも、黒髪は嫌じゃなかったの?」

「エクアの全国民の思想が同じだなんて思わない方がいい。少ないかもしれないけど……そうじゃない地域の人もちゃんといる」


 メグは炭酸水を優雅に飲みながら聞いてくる。


「そんなカッコいいユイに一目惚れしたんだ?」

「……まあ、ありていに言えば」

「ルキノ君っぽいヘタレ具合だね!」

「ほっとけよ!」


 八つ当たり気味に、持ってきてもらったスープを飲む。

 これもまた美味い。エビの風味が濃厚すぎる。


 あーくそ。悪いか。

 カッコいい彼女よりカッコいい男になりたくて。

 そんな彼女と学園で再会して。孤軍奮闘しながらも、小さな態度や振る舞いがいちいちかわいくて。目が離せなくて。自分でも拗らせている自覚はあるさ。


 それでも、好きなんだから仕方ないだろう。

 好きな女と幸せになれる世界を築きたいと思って、何が悪い!


 美味しいスープをあっという間に飲み終わると、メグがスマートに次の料理を運ぶように頼んでくれる。


「ちゃんと約束は守るから、安心して」


 何から何までプライドがズタボロになっている僕に、メグが目を細めてくる。


「あたしはルキノ君を利用するけど、必ず全部終わったあとで、二人が幸せになるように取り計らうから――今は、とりあえずあたしのヒーローになってね」


 次の瞬間、入口が轟音とともに吹き飛ばされた。僕は反射的に椅子から降り、身を縮める。横目で確認すると、メグも机の下に隠れていた。


 煙と粉塵が立ち込める中、周囲を確認すると、店内が半壊している。豪華な植木鉢は跡形もなく、豪華絢爛なシャンデリアはかろうじて落ちずに、アンバランスに揺れていた。


 響き渡る悲鳴を掻き分け、爆破された入り口からは奇抜な青少年が入ってくる。その先頭に立っていた亜麻色の直毛男が僕の名を叫ぶ。


「ルキノおおおおおおお、制裁でござるよおおおおおおお!」


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