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神の左手 悪魔の右手  作者: 山櫻 茉莉華
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はじまり 続々

昨年、俺の大好きだった祖母ちゃんが死んだ。


祖母ちゃんは、俺達が北海道から東京へ引っ越してきたばかりの時は

一人で北海道に住んでいたが、

一人っ子の父さんが5年前に二世帯住宅を建てたので、

その時に俺達が済む住宅内の隣に越してきた。

玄関は別々に作ってある。


祖母ちゃんは、俺が高校生になって身長が175㎝以上になっても

(あゆみ)ちゃん』と呼んだ。


「祖母ちゃん、俺、女じゃないんだけど。」

と膨れっ面で文句を言ったら、


いつも笑いながら、

「女の子みたいにめんこい顔をしてるんだから良いしょ。」と言って

決してその呼び方を変える事はしなかった。


俺は3人兄弟の長男で、

母さんは年の離れている二人に手が掛かりっきりだったから、

俺にとって祖母ちゃんは母親代わりでもあった。

だから、俺が友達と約束をしていたり、何か用事が無い限り、

毎日の様に祖母ちゃんの所に入り浸っていた。


そして。

それは本当に突然だった。


祖母ちゃんは毎日、俺達に心配を掛けない様に、

老人会の旅行とかで出掛けている時にも、

必ず寝る前に1コールだけ電話のベルを鳴らしてくる。


でもその日、珍しくベルは鳴らなかった。


そんな時もあるさ、と父さんは気にも留めなかったけれど、

俺は何だか胸騒ぎがして、祖母ちゃんの様子を見に行こうとした。

すると、

もう眠っているかもしれないし起こしちゃ悪いから、と

両親に止められた。

釈然としないままベッドに入ったけれど、

なかなか寝付けなかったのを覚えている。


翌日は日曜日だったから、

俺は朝ご飯を急いで搔き込むと祖母ちゃんの所へ向かった。


祖母ちゃんは…。

玄関に置いてある電話の前に倒れていた。

一度靴箱に手を掛けたんだろう、

左手は少し上向きになったままだった。


今、落ち着いて思い返すとその表情には苦しんだ様子は無く、

いつもの通り優しく穏やかに微笑んでいた様に思う。


俺は、

その姿を見た途端パニックに陥って何か叫んだ所までは覚えているが、

その声を聞きつけて駆け付けた両親に支えられて、

自分の部屋に連れて行かれた事はあまり記憶にない。

気が付いたら7日くらい経っていて、

俺は自分のベッドで寝ていたのだった。


祖母ちゃんの『お通夜』も『お葬式』も、そして『初七日』も、

全部終わっていた。


親に訊いたら、

俺は目が覚める度に

「やっぱりあの時祖母ちゃんの所へ行っていれば良かったんだ」と

両親を責めて暴れるので、

その度に鎮静剤を打ってもらっていたらしい。

7日間暴れて眠るの繰り返しで食べ物は殆ど口にしていなかったので、

右手には点滴が刺さったままだった。


そして俺は寝ている間、ずっと夢を見ていた。


祖母ちゃんの夢だった。


優しかった祖母ちゃん。

大好きだった祖母ちゃん。


いつの間にか俺はベッドで大声を出して泣いていた。


でもそれ以降俺は、

両親を責める事も泣く事もやめた。


祖母ちゃんを忘れようとか、

どうでも良くなったとかでは決して無くて、

祖母ちゃんが死んでしまってからは単純に、

俺の目にはもう祖母ちゃんの姿は見えなくなった。


だからそれからは、祖母ちゃんの事をふと思い出した時には

一人でひっそりと偲ぶ様になった。


その時の俺には、いつも傍にいてくれた祖母ちゃんが

物凄く遠くへ逝ってしまった様に感じたからだ。


暫く黙って俺の様子を見ていた『彼』が口を開いた。


「何を考えている?

 今もちゃんと傍にいるぞ、『(あゆみ)ちゃん』。」


「な、なんでその名前…?!」


「知ってるんだ?と言う風だな。

 だからお前の事はもう何でもわかると言ったはずだ。

 お前はもうこの運命から逃れる事は出来ない。

 私の手を見付けて声を聞いた時からな。」


俺は無言で立ち尽くしていた。


すると。

ふと俺のスマホが鳴った。

母さんだ。


何だろう?


そんな俺を見て目の前の彼はニヤッと笑いながら、

早く出ろ、とスマホを顎でしゃくった。


「もしもし。」


次の瞬間俺はスマホを落っことしそうになる。


「もしもし。

 じゃあないわよこんの馬鹿息子!

 今何時だと思ってんの!

 いくら明日が土曜日で学校がお休みだからって、ねぇあんた、

 一度も家に帰らずに学校帰りに夜遊びとは、

 本当に良い根性していらっしゃいますわね。」

 淡々としている語尾のトーンが逆に怖い。

 しかも完全に嫌味だ。

 

「え…。

 だって今日は委員会も無いし学校終わってすぐ出てきたんだけど…

 今何時って…え。は?何で10時過ぎてんの?!」


パニくる俺を尻目に母さんは間髪入れずに耳元で怒鳴った。


「はぁ?!

 それはこっちのセリフでしょ!

 って言うか今どこにいるの!

 お父さんだってもうとっくに帰ってきて晩酌終えて、

 (かい)達と一緒にお風呂に入ってるっていうのに、あんたって子は!

 ねぇ、あんた本当に一体何処で何やってんの?

 晩御飯だって冷めちゃったし、

 今日はあんたの大好きなポテトグラタンにしたっていうのに、

 ああもう本当に腹の立つ!

 とにかくさっさと帰ってらっしゃい!!」

 

切れた。


お母さん。

文章ぐちゃぐちゃですね。

しかも「ねぇ、あんた」って表現は何なんでしょうか…2回も言ってるし。


「はぁ…まじか。」


「母上はかなりお怒りのようだ。」

誰のせいだよ全く。


溜息をつきながらお尻や膝の土をパンパンと払っているそんな俺を

『彼』は見下ろしながら、


「さて。

 では一先ずお前の家に向かうとするか。」


「え?家?」


「お前は私とずっとここで話しを続けるつもりか?」


確かに。

それに、これ以上遅くなったら母さんに殺されるかも…。


『彼』は、くっくっとふくみ笑いをしながら俺の家の方へ歩き出した。

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