ちいさなカボチャと青い猫
ハロウィンと言えば、カボチャのお化けです。
オモチャのカボチャを飾ったり、本物のカボチャに目や口をつけて飾ることもあるでしょう。
油性ペンで顔を描いてもいいですが、食用のカボチャに油性ペンはやめた方がいいかも。
カボチャは皮も食べられますから。
このお話は小学生の少年が近所のお姉さんに相談を持ち掛けるというものです。
既出小説の人物がでますが、前作を知らなくてもお楽しみいただけます。
「浩二くん、カボチャの料理を教えてほしいって?」
「うん。できれば僕たちでも簡単に作れるのがいいんだ」
その日、僕は近所に住んでいる実佳姉ちゃんの家に来ていた。
実佳姉ちゃんは、僕が困ったときに何でも教えてくれるすごいお姉ちゃんだ。
小学校のクラスメイトの家でハロウィンパーティーをすることになった。
お菓子は買ってきたものだけじゃなく、作れるものは自分たちで作ろうって話になった。
それでどんなものが作れるか、アイデアを出し合うことになったんだ。
僕たちは小学生だから、あまり難しいものは作れないけどね。
「そうねぇ。カボチャの皮ってけっこう固いんだよね。子供だけで料理するなら、カットしたのを買ってくる手もあるよ」
「それでもいいけど。パーティー会場になるお家のチハルちゃんが、ハロウィンだからカボチャを丸ごと使えるのがいいって」
チハルちゃんってリーダーシップのある女の子で、今回のパーティーの発案者なんだ。
キリッとした美人さんで、クラスでも人気があるんだよ。
「へー……」
あれ? 実佳姉ちゃん、今ちょっと機嫌が悪い?
「だから、料理でも何でも知っている実佳姉ちゃんなら、いいアイデアがないかなーって」
「そっかそっか。それならちょうどいいのがあるよ。いっしょにおやつを作ってみようか」
「おやつ? 作りたいっ」
そして僕は台所に案内された。
実佳姉ちゃんはカボチャを2つ出した。
あれ? すごく小さくて、まるでオモチャみたいだ。
ひょっとしてまだ熟れてないとか?
これって食べられるの?
「これはプッチィーニカボチャよ。ミニカボチャともいうの。甘くておいしいよ。皮ごと食べられるんだ。今回は中をくりぬいて、アイスクリームを入れたスイーツを作ってみよう」
実佳姉ちゃんの指示で、僕は小さいカボチャをよく洗った。
ペーパータオルで水気を取って透明ラップで包んだ。
電子レンジで加熱し、いちど上下をひっくり返してまた加熱。
「じゃあ、フタになる上部を包丁で横に切り取ろうか。手を切らないように気を付けてね。それに熱いからヤケドに注意。それと全体がすごく柔らかくなってるから、つぶれない様にゆっくりと切って」
「うん、わかった」
言われたとおり、包丁でゴシゴシやりながら上部を切り取っていく。
カボチャを押さえつけると少しつぶれそうになってビックリ。
なんとか上部を切り取ることができた。
その後、スプーンでタネを取り出した。
ミニカボチャの真ん中にポッカリと穴が空いた。
「少し冷まそうか。今、アイスを入れちゃうと溶けすぎるからね。その間にこれを割っておいて」
実佳姉ちゃんにクッキー1枚と小皿を渡された。
粉々に割って小皿に入れておいた。
「じゃあ、カボチャにアイスを入れていって。カボチャの暖かさと、アイスの冷たさが同時に楽しめるのがいいんだよ」
僕は言われた通り、バニラアイスをたっぷりと入れた。
上から砕いたクッキーをパラパラとのせた。
「クッキー以外でも、ミニパイとかチョコチップ、クラッシュナッツとかでもいいよ。最後にフタをして絵を描こうか」
僕はチョコソースでカボチャの横に目と口を描いた。
ハロウィンらしいカボチャのお化けができた。
実佳姉ちゃんはブルーベリージャムでネコを描いている。
「できあがり。それじゃあ、いただきましょう。カボチャは皮ごと食べられるからね」
「はーい。いただきまーす」
スプーンですくって食べてみた。
カボチャはほんのりと暖かくて、アイスは冷たくてすごくおいしい。
アイスは少し溶けかかったものと固いのがミックスしていて、楽しい。
以前にアイスをパンで挟んで揚げたものを食べたこともあるけど、こっちの方がおいしいかも。
「実佳姉ちゃん、すごいね。これだったらパーティーに来るみんなに自慢できそうだ」
「ふふっ。パーティーが終わったら、みんなの感想を聞かせてね」
僕は夢中でスプーンを動かしていた。
* * * * * *
数日後、ハロウィンパーティーの次の日、僕はもらったお菓子を持って実佳姉ちゃんの家にやってきた。
僕はパーティーでの出来事を実佳姉ちゃんに話した。
「ふふっ。ずいぶんと楽しかったみたいだね。それで、カボチャのアイスはうまくできたの?」
「うーん。アイデアはみんなにほめてもらったよ。みんなも『すっごくおいしい!』って言ってくれたんだけど……。作るときに問題があったんだ」
お菓子に飾り付けができるように、チハルちゃんがスティック状の容器のソースを何種類か用意してくれてたんだ。
みんなでカボチャに顔を描いた。
基本はチョコソースだったけど、色を変えていろんな顔のカボチャのお化けができてたんだ。
そんな時、ちょっとした事件が起きた。
タイキくんがふざけて、こっそりと赤いソースを腕に塗りたくったんだよ。
そこに菜切包丁の先を当てて、あろうことか「ささったー」って叫んで、ウソ泣きを始めたんだ。
女子たちの悲鳴があがって、ちょっとパニックになった。
とくにチハルちゃんが大きな声で泣きだしたんだ。
僕は一部始終見ていたけど、タイキくんが何がしたいのかわかんかったので、止められなかった。
タイキくんは「ハロウィンの雰囲気を出したかった」って言ってたけど何か違うと思う。
その後、タイキくんはマドカちゃんにすごく怒られてたよ。
ヨシハルくんがチハルちゃんを慰めて、パーティーを続けられた。
ヨシハルくんとチハルちゃんって前から仲がよかったな。
話を聞くと実佳姉ちゃんも少し笑ってた。
「まぁ、ケガがなくてよかったわね。そのイタズラはマネしちゃダメだからね。あ、そうだ。ミニカボチャがまだ残っているんだけど、今度はカボチャプリンを作ってみようか」
「うん、やるっ」
菜切包丁のイタズラは絶対にマネをしないでください。
当人がケガをするリスクだけではありません。
ビックリした人が怪我をするなど、冗談ではすまなくなる危険性があります。
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