3. 魔生
風船のような生き物は洞窟の天井に体を付けたまま動こうとしない。この高さだと直接風船を割ることは出来なさそうだ。風船から視線を逸らさずにいた。
刺せないのなら、投げればいいだけだ。
風船は自分が石を投げようとしているのに気が付くと、険しい表情に変わっていた。
「てめぇえ‼︎ オレを割ったらどうなるのか分かっていんのか⁉︎ ああん⁉︎ 最強の魔生の攻撃がてめぇの顔に飛ぶぜ⁉︎」
……物凄くうるさい声で喋る風船だ。
〈魔生って何だろう? まぁ、いいや。うるさいし、さっさと割っちゃおうか〉
落ちていた鋭い石をいくつか拾い上げた。風船は避けるつもりでいるのか、先程よりも素早く動き始める。
「この馬鹿野郎がぁあ‼︎ 当てれるもんなら当ててみろやぁ‼︎ ふぇい! ふぇい!」
透かさず風船の動きを目で追うと左側へと石を投げた。風船は慌てて避けている。
「どわぁあああ‼︎ な、何で左に行くって分かったんだぁあ‼︎ てめぇ、オレが慌てて止まらなかったら割れてただろうがぁあ‼︎」
……分かる、風船がどこに動こうとしているのか。
何で自分の予想は当たっているのだろうか?
石を投げようとしていた手を止める。考え事をすると体が重くなる……。
相手が何をしようとしてくるのか"一分先の動きが頭の中で勝手に予想される"。
──そして、その"予想はほぼ当たる"。
風船の動きを再び予想して、右斜めに石を投げた。風船はまた慌てて避けていた。
「て、てめぇ……オレがどこへ行こうとしてるのか、分かってんのかぁ⁉︎ 何なんだ、てめぇえはぁあ‼︎」
「変だな。何で当たるんだろ?」
持っていた石を落とした。
「分からないな」
……ぼーっとしてしまい、動きが止まる。
風船は不思議そうにこちらを見ている。自分が攻撃をしてこないことに気付くと、こちらへと近寄って来た。
「随分とまぁ、石を投げてくれたなぁ? てめぇの腕を噛みちぎってやろうかぁあ⁉︎ ああん⁉︎」
「うるさいよ。もう少し声量を下げて」
風船の中で何かが切れたのか、厳つい表情が更に厳つくなっている。でも、何をしてくるのか予想は出来ていたので、右手を自分の顔に向けて少し上げた。
「ふざけんなぁああ、人間の分際で‼︎ このクソ野郎がぁああ‼︎ 誰に向かって偉そうに言ってるんだぁ⁉︎ ボケェ‼︎」
自分の顔に向かって、物凄い速さで突進してきた。
──ガッ
「……なっ……何……⁉︎」
右手で風船の顔を掴んでいた。
「割っていい?」
ミシミシと音を立てて風船の表情が歪み始めていた。
「て、てめぇ……魔生か……⁉︎ クソ野郎……が……何で、この洞窟に……来やがった……。ここは……オレの縄張りだぁぁ」
風船を掴んでいた手を離す。
「俺は、何でここで倒れていた?」