2. 風船?
洞窟の出口に向かって歩き出した。
今、自分がいる場所と逆の方向に歩けば外へ出られる筈だ。歩く度に地面にたまっている水によって、パシャパシャと音が鳴り響く。不思議な感じがする洞窟だ。だが、辺りを見回してもコウモリや他の生き物がいる気配がしない。
「生き物がいない? もしかしたら、住めないから?」
光に照らされた黒い瞳はジッと前を見つめていた。
暫く歩いたが、まだ出口は見えてこない。起き上がったばかりだからか、少し疲れてきた。
「まだまだ先はありそうだ」
ふと、前を見ると道の先に何かがある。
……違う、何かが空中に浮いている?
驚いた表情で目を凝らしてよく見ると、橙色の風船のように見える。浮いている風船は何やら独り言を言っているようだ。耳を澄まして聞いてみる。
「あーー、全くよぉ‼︎ どいつも、こいつもオレを馬鹿にしやがって‼︎ 空気を抜くぞ? じゃあねぇよぉ‼︎」
……風船に目と口がある。
思わず自分の目をこするが、やはり口と目はあるようだ。あれは生き物なのだろうか?
「会ったら厄介そう。しゃがんで隠れていよう」
急いで岩陰に隠れてしゃがみ込んだ。早く立ち去ってくれないだろうか……。
フワフワと浮きながら、こちらに近付いて来る。どう見ても風船なのだが……自分は何か変な幻でも見ているのだろうか。何故、風船が喋っているのだろう。
「どういう事だろ。この洞窟って化け物でも住んでいるのかな?」
勝手に化け物だと思うことにした。色々と考えているうちに風船は、自分のすぐ近くへとやって来た。
今、音を立てたら……間違いなくバレる。
「本当によぉお‼︎ 何でオレだけこんな風船なんだぁあ‼︎ ちくしょぉお‼︎ 岩に当たってやる‼︎ こんにゃろ、こんにゃろ‼︎」
何度もボヨンと跳ね返っていた。ただでさえ、進むのが遅いのに早く行ってくれないだろうか。
「うぉらあぁ! うぉらああ!」
早く行けと願うしかない。
……パシャ
「!」
片足を僅かに一歩下げた時に、地面にたまっている水の音が鳴ってしまった。風船は音に気付きこちらを向く。
「ああん? 何だぁ、今の音は? 誰かいるのかぁ?」
……風船が隠れている岩陰に近付いて来る。
落ちていた鋭く尖がった石を右手で握った。
「おい、誰かいるのかぁ⁉︎ 出てこ……」
岩陰から飛び出し、風船の目に目掛けて尖がった石を刺そうとする。
「うわぁあああ‼︎ や、やめろぉおお‼︎」
洞窟の天井の方へ逃げられてしまった。
「逃げないでよ、すぐに割るから」
黒い瞳は動く風船を追いかける。
「急に何なんだぁああ⁉︎」