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冷蔵庫の中のグローブ


 山田肇の晩酌は檸檬サワーと決めていた。最近の檸檬サワーの商品数及び質の向上っぷりに惚れ惚れしていた。この日も家族は肇の帰宅を待っていた。いつも晩飯を食べて入浴し眠る。しかし今日は檸檬サワーを呑まないでと妹の純に言われた。


「酔ったら私の話をマトモに聞かない」


「大丈夫だって」どうせ聞くだけだし、とは言わなかった。


「教えてほしいことがあるから、とにかくダメ」


 国語・社会・理科ならなんとかなる。最悪、ネットで検索すれば良い。算数なら、どうだろう、不安だ。


「宿題って、自分の力で頑張るもんだぞ」


 宿題とちゃう、と純は彼の手から檸檬サワーを取り上げて冷蔵庫に戻した。


 食卓にはミートスパゲティー。純は粉チーズをふんだんにかけグニグニ音をたてながらかき混ぜた。


 サラダボウルにはフルーツトマトとブロッコリーとレタス。


「肉がない……」


「挽き肉が入ってる」と母は言った。


「せめてベーコンとか焼こうと思わなかった?」


「それでさ、竜緖が言ってたんだけどね」


 肇の抗議なんて誰も興味ないとばかりに、純は学校での出来事を述べ始めた。




 山田純の同級生、藤臣竜緖は料理部に所属していた。1年では彼女含め3人、全体で7人という小規模なものであった。うち、唯一の3年である部長の永瀬葵は県内トップの公立進学校を目指しているため、滅多に参加できないでいる。現在は、6人で活動しているようなものだった。


 料理部は、さらに2組に別れている。仲が悪いから、という殺伐とした理由ではなく、部活に参加する目的が異なっていたためだ。


 しいて名付ければ6人の内、4人が料理部料理科。残りが料理部製菓科となるだろう。


 料理科の方は調理技術の向上を目指している子らと調理師専門学校への進学希望の子、高校を卒業するとどこかに弟子入りしたいという子がいる。


 一方の製菓科2名は、食べたいものを作ることが多い。よって、スウィーツ作りがウェイトを占める。他にはパンを焼いたりすることもある。件の部長も製菓科だ。


 製菓科はその日、杏仁豆腐と馬拉糕を作ろうとしていた。杏仁豆腐の仕込みのため7時頃に登校した。顧問と共に家庭科室を解錠して入室した藤臣は掃除を始めた。顧問もテーブルや備品を除菌している。部のルールでその日の始めと終わりは掃除をすることになっていた。すぐ後にもう1人の製菓科である2年の南浦彩華が材料を持参する。


 南浦が冷蔵庫を開けると、「はぁ?」という声と共に、汚物を摘まむように茶色いものを取り出した。


 藤臣は眼が悪く、近づいてようやくそれが野球用のグローブだと解った。南浦はそれをすぐに顧問に預けた。


 彼女ら3人は、誰が何故冷蔵庫にグローブを入れたのかさっぱり解らなかった。しかしその日の内に作りたい杏仁豆腐のための時間を犠牲にはできない。


「もうグローブのことは忘れましょう」


 南浦は、集中力を欠く藤臣にそう言った。


 その日のうちに、杏仁豆腐と馬拉糕を作ることができた。しかしグローブについては謎のままだった。


 無害だったとはいえ侵入を許したことで家庭科室の管理が厳しくなり、顧問の先生は今でも冷蔵庫をはじめあらゆる箇所をチェックしているそうだ。

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