とあるゲーマー少年のお話
『とあるゲーマー少女のお話』と対になるお話を思いついたので投稿します。
行き当たりばったりが大好きな筆者。
【おまけ】
Q.活動報告で『近日中』って言ってた割には投稿するの遅かったけど何してたの?
A.ゲーム小説書くのに一切ゲームしたことないってどうかと思ったからソシャゲ登録したら、バレンタインイベントに飛び込んじゃってあっちこっちしてたよ♪
まじごめんなさい......。 <m(__)m>
あの活動報告書いた時点で、初回投稿段階まで書き上げてはいたんだ......、信じて......。
ミラージュ・ワールド・オンライン。
今一番流行っている、VRMMOのひとつ。
ファンタジー感溢れる、よくありがちな中世ヨーロッパ的な街並みなのに、どこか不思議で、ノスタルジックさえ感じさせるその世界は、俺を含めた重度のゲーマーをも虜にした。
開発者は、インタビューでこう言ったそうだ。
『私は、ティーンエイジャーであった、あのパンデミックの際、不思議な夢を見ていたのです。
人気のない、中世ヨーロッパ的な街に、私と同じ年頃の子供たちと閉じ込められ、脱出を目指して、チームに分かれ、戦う夢を。
その夢は毎夜現れて、私と仲間たちをわくわくするような冒険に連れ出してくれました。
しかし、いつしか、クリアすることができないまま、あの世界とお別れしたのです。
私は、あの夢を追う為に、そして、あの子たちと逢う為に、ミラージュ・ワールド・オンラインを創りました』
ふと、それを見て、俺は思った。
――この人は、逢いたかった人たちに、逢えたのだろうか、と。
* * *
突然だが、今、俺、飯浜 陸人、には、気になる人がいる。
現実で一人、MWOで一人。
こう言うと、なんだか俺がヤバい奴に見えるが、まあ、目を瞑って欲しい。
リアルの俺の思い人は、飯野 星奈、という。
長いツインテールが特徴の、小柄なクラスメイトだ。
彼女はあまり前に出たがらないタイプだが、与えられた役目はきちんとこなすし、周りへのフォローもできる。
ふとした所作がすごく綺麗で、慌てたときの反応が可愛いな、と密かに観察していて、そう思った。
そして残念なことに、どうも俺は嫌われているようだが。
ゲームでの思い人は、シリウス、という。
俺と同じ、男性アバターを使用していて、職業は剣士。
戦闘型魔術師をしている、俺のゲームの攻略においては大切なパートナーであり、始めた日が一緒だったのもあって、今加入しているパーティーに入る前から行動を共にしていた。
俺は、偶に思う。
星奈とシリウスが、重なって見える度に。
利き手が左手だったり、考え込む時の癖や、リアクションに共通点を見つける度に。
シリウスの中の人が、星奈であったらいいのに、と。
そうしたら、こんなに悩まなくてもいいのに......と。
* * *
転機は、思いもしない形でやってきた。
MWOが、ゲームの祭典において、特設ブースを出すことになったのだ。
ウチのパーティーは、MWO好き、ゲーム好きの集まりだ。
このニュースは、全員にとって、嬉しいばかりだった。
リーダーの反応は予想通りだったが、僕にとって意外にも喜びを前面に出していたのは、僕と同じ魔術師である、モモ、だった。
ちょうど、申し込みが締め切られる頃だっただろうか、モモと二人きりで話す機会があった。
あの日は、シリウスとクエストに出る予定で、待ち合わせより早めに来ていた僕は、パーティーハウスのメインルームで彼を待っていた。
そこに、モモがやってきたのだ。
「やっほー......、って、リックしかいないのかー」
辺りを見渡し、あからさまに残念そうな顔をするモモ。
そこまでの反応をせんでも......。
「えー、だって、リックだって、そうでしょう?
シリウスじゃあなくてごめんね、陸」
「おいやめろ、賢」
僕は、モモを睨んだ。
モモ――瀬尾 賢太郎、とは、リアルにおいて、従兄弟に当たる。
賢は、僕の家とはまあまあ近くて、僕の一個下、中学三年生だ。
ただ、いろいろあって、ただいま受験生にして不登校生である。
人間不信に陥りかけていた彼に僕がMWOを勧めたところ、見事にハマり、今に至る。
キャラクリや職業について相談に乗ったり、シリウスがいないときにレベリングに付き合ったりしていた為、賢=モモというのは知っていたが、まさか同じパーティーに所属するようになるとは思っていなかった。
ちなみに、僕たちが所属するパーティー『ストレイヤーズ』は、リーダーが直接声を掛けたメンバーのみで構成されたパーティーで、ランクとしては上の方じゃあないかな、と思っている。
「んー、でも、ちょうど良かったかもな」
そう僕は言って、モモを見た。
「け、モモ......、お前、今度のリアルでのイベント、参加するのか?」
「ん、悩んでる......」
モモは僕が寝転んでいるソファーの向かいに設置されたソファーに座り、僕を見た。
その姿はまるで、飼い主に置いてけぼりを食らった子犬のようだ。
「でも、もうすぐ締め切り来るだろ?」
「だけど......」
彼女は、すっと目線を下に落とし、黙ってしまった。
「もしかして......、怖い、のか?」
その言葉にこくんと頷いたのを見て、僕は、ああやはり、と胸の中で呟いた。
彼の不登校の原因は、いじめだという。
そのせいで同年代の集まりが苦手。
自分らしくいれるのは、ここ、MWOだけ。
こいつにとってのMWOの存在は、大きい。
だからこそ、このイベントに行きたいという気持ちは大きいが、踏み出すことが出来ないのだろう。
「それに、私、一応受験生だし......」
「あー」
いや、ちょっと待て。
「お前、志望校、俺んとこだろ?」
「うん」
「お前、俺より成績良いじゃん......」
僕より成績が良い、というより、かなり頭が良い。
リーダーとシャドウという中心核を除いて攻略する際、司令塔を担えるくらいには。
「そこは、心配することねぇって。
お前なら、一日くらい遊んでも大丈夫だって」
「ん、そうかな......」
べちゃあ、とローテーブルに突っ伏したモモを見て、僕はふと、かつてモモが言っていたことを思い出した。
僕は、モモに向かって話しかける。
「なあ、前、例え同年代でもさ、シリウスやシュガーやソルトと会ってみたいって言ってたじゃん」
「え? う、うん」
こくり、とモモが頷く。
「じゃあさ、当落発表したらさ、他のメンバーに訊いてみれば?
『いつ行くのか』ってさ。
そんで、最寄り駅を集合場所にして、そのメンバーで行けばいいじゃん?
そしたら、会えるんじゃあないか?」
今、モモの心の天秤は、ぐらぐらしている。
なら、“行く”という方に傾くよう、錘を乗せればいいのではないか。
そう、僕は考えたわけだ。
さて、これがどう出るか。
「ふぁ?」
きょとんとしていたモモだが、だんだんと僕の言ったことが理解できたようで、目がきらきらとしていった。
「それ! よさそう!」
元気が出たら、それはなにより。
「リックは愛しのシリウスにリアルで会える、良き口実になるしねぇ」
「おいっ」
「相談に乗ってくれて、ありがと。
じゃあね~」
ひらひらと手を振って、モモはメインルームから駆け出して行った。
恐らく、自室に戻って、ログアウトするつもりなのだろう。
入れ替わるようにメインルームに入ってきたのは、僕の待ち人、シリウスだった。
モモが駆け去った方を見て、不思議そうにしている。
「なあ、リック、モモ、なんかあったのか......?」
「そうみたいだな」
そう言って、僕はソファーから立ち上がった。
そして、シリウスに言う。
「さあ、行こうぜ、相棒」
「おう」
シリウスが、僕を見て、にいっと笑う。
この時、僕は、後日、モモとシュガーによって修羅な展開が待ち受けているとは、露ほどにも思っていなかったのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
当初、陸人君はここまでどこか残念な子になる予定はありませんでした。彼視点のお話を書いてると、自然にこうなったという。なんかごめん、陸人。許せ。
そして、モモ/賢太郎の一人称も置いておきますねー。
賢太郎:僕 ⇒ モモ:私
賢太郎君は恐らく、『モモ』という名前はあの有名なファンタジー小説から採ってます。
シュガーとソルトについては、また追々。
最後に、どうでもいい裏話を一つ。
MWOの制作のきっかけに、ちょっとだけ、筆者の別作品『『絶望』少女と不思議の塔』の主人公・ミサ、が関わっています。あの作品の世界軸ではかなり未来の話(というか本編完結後)なので、詳しく書くのは、投稿するとしても、ずいぶん先になるかも。
それでは、紺海碧でした。