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掌編集

おこってます

作者: ginsui

 わたしは、おこっています。

 あーちゃんのせいです。

 

 あーちゃんが生まれてから、おとうさんもおかあさんも、あーちゃんにもう夢中。

 おとうさんは、わたしをだっこしていても、にこにこあーちゃんの方ばかり見ています。

 でもね、それは最初のうち。あーちゃんはよく泣きました。夜も昼もおかまいなしです。

 会社から帰るとあーちゃんをあやしていたおとうさんは、いつのまにか夜には別の部屋に入って出て来なくなりました。あしたは仕事だからって。

 おとうさんは昼間いませんけれど、おかあさんは一日中あーちゃんといっしょです。

 睡眠不足でおかあさんの目はまっか、顔もまっかにしておとうさんとけんかするようになりました。

 あーちゃんがミルクをのんで、満足そうに眠っている時だけがおかあさんの時間です。だけどもそんな時、おかあさんも眠くなっていっしょに寝てしまうので、自分のことは何もできません。

 わたしをかまってもくれません。

 ある日の午後、わたしとおかあさんはソファでうとうとしていました。すると、さっき寝たばかりのあーちゃんがまた泣きだしたのです。

「もう!」

 おかあさんは、むくりと起きあがって枕にしていたクッションをあーちゃんにぶつけました。クッションはあーちゃんの頭にぶつかって、あーちゃんはもっと大きな泣き声をあげました。

 うるさくてかないません。

 おかあさんは、ミルクを作りに台所に行きました。わたしはベビーベッドによじ登ってクッションをひっぱりました。あーちゃんの顔にのせると、クッションの上に座りました。

 あーちゃんの泣き声はくぐもって、やがて聞こえなくなりました。もぞもぞする動きもなくなって、わたしは安心して丸くなりました。

 ミルクを持ってきたおかあさんが、きゃっと悲鳴を上げました。


 わたしはおうちを出されました。

 おんなじような仲間がにゃーにゃー鳴いている部屋に入れられました。苦しくなってもっとにゃーにゃー鳴いているうちに、いつのまにか身体が軽くなりました。かんたんにお家に帰ることもできました。

 おかあさんはいませんでした。おとうさんは台所でお酒を飲んで、そのまま眠ってしまったようでした。

 ベビーベッドのあったお部屋には、小さな棚にあーちゃんの写真が飾ってありました。ろうそくの火が、あーちゃんのかわいい顔をゆらしています。

 なぜわたしの写真がないのでしょう。あーちゃんが来る前はたくさん撮ってくれたのに。わたしだって、死んじゃったのに。

 わたしはあーちゃんの写真たてを倒しました。それといっしょにろうそくも倒れました。

 ろうそくの火は、じゅうたんに燃えうつりました。おとうさんのおこったような寝言が聞こえました。

 いちばんおこっているのはわたしです。

 わたしはいつまでも、めらめら燃える炎を見てました。


 

 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 怖いお話でしたね。 良いホラー短編でした。面白かったです!
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