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蔵品大樹のショートショートもあるオムニバス

いつもの朝食

作者: 蔵品大樹

奇妙な世界へ………

 私は久住俊夫。来年で定年退職の会社員だ。

 私には妻の秋江がいる。秋江はとてつもなく料理が上手い。特に朝食は実に美味しい。白いご飯、わかめと豆腐が入った味噌汁、丁度いいだし巻き卵、シャッキリとした千切りキャベツ。そして、ぽつんと置かれたご飯に合うたくあん。いつもの朝食はこれで決まりだ。無論、毎朝出てくるが、飽きる事はなく、無限に食べれる。そして、一瞬でスタミナが貯まる。

 ある日の事、私は6時半に目覚めリビングへと向った。既にテーブルの上には朝食が置かれていた。

 そこには、白いご飯、わかめと豆腐が入った味噌汁、丁度いいだし巻き卵、シャッキリとした千切りキャベツ。そして、ぽつんと置かれた…………きゅうりの浅漬けだった。

 「秋江!秋江!」

 「あら、おはよう、あなた」

 「あぁ、おはよう…じゃない!たくあんがないぞ!」

 私は秋江にたくあんがない理由を問い詰めた。すると、秋江はこう言った。

 「実はね、たくあんがもう無くなってたの。昨日まで気づかなくて…ごめんなさい」

 「いや、いいんだ。たまには、こういうのもいいよ」

 私は秋江を許し、朝食を食べる事にした。しかし、あのたくあんを毎朝食べているからこそ、このきゅうりの浅漬けには違和感を覚えた。

 「じゃあ、行ってくるよ」

 「いってらっしゃい」

 私は家を出た。しかし、何だろうか。心の中で何かモヤモヤしているものがあった。

 私は会社に着き、専務の椅子に座る。しかし、元気は出て来ない。部下に命令し、自分もデスクワークをする。しかし、タイピングが進まない。やはり、あの浅漬けが原因か……

 昼になり、私は弁当の蓋を開ける。

 「はぁ…」

 頭の中で、あの浅漬けが頭から離れない。そんなことを考えてる内に既に昼休みの時間はとっくに終わっていた。

 こうして、会社内での1日が終わり、家に帰る。どうやら今日の夕飯はサバの塩焼きらしい。私は、椅子に座り。それを見た。しかし、サバの塩焼きはきゅうりの一本漬けに見えた。

 「ひいっ!」

 「どっ、どうしたの、あなた!」

 私は、秋江の静止を振り切り、ベッドに駆け込んだ。頭の中できゅうりきゅうりきゅうりきゅうりきゅうりきゅうりきゅうり…それが私を襲った。




 次の日、私はベッドから降りる。しかし、その時はもう、きゅうりの事なんか忘れていた。

 私はリビングに行き、朝食を見る。そこには、ご飯、味噌汁、だし巻き卵、千切りキャベツ。そして…ぽつんと置かれた…たくあんがあった。

 「よっ…良かったぁ…」

 私はそうポツリと呟くと椅子に座り朝食を食べ始めた。私は、まず、だし巻き卵を口の中に入れる。すると、何か甘い感じがした。

 「うっ、ゲホッゲホッゲホッゲホッ!」

 「ど、どうしたの、あなた!」

 なんと、しょっぱいはずのだし巻き卵が甘いのだ。恐らくだが、これは伊達巻きと同じ位の甘さだ。

 「あっ、甘い…」

 「甘い?そんなはずでは…」

 秋江が甘いだし巻き卵を口にする。

 「!?確かに!これは甘いわ!ごめんなさい!どうやら塩と砂糖を入れ間違えたんだわ…」

 「いや、いいんだこれぐらい…」

 私はガタガタと体を震え出しながら椅子に座り、朝食を食い切った。

 そして、また、私は会社へと向った。

 しかし、その日も仕事に集中できなかった。

 家に帰り、今日の夕飯はさつまいもの甘煮と聞き、あの甘いだし巻き卵を思い出し、またベッドに駆け込んでしまった。




 次の日から朝食は狂っていった。例えば味噌汁にはわかめと豆腐ではなく、卵ともやし、千切りのキャベツは既に味付けされていて、ご飯に関しては玄米入りだ。秋江が認知病かどうか病院でも検査してもらった。しかし、結果は何ともなかった。

 数カ月後、遂に秋江は、正しいいつもの朝食を作ってくれた。白いご飯、わかめと豆腐が入った味噌汁、丁度いいだし巻き卵、シャッキリとした千切りキャベツ。そして、ぽつんと置かれたご飯に合うたくあん。私は嬉しくて嬉しくて、万歳三唱してしまった。

 「ばんざ〜い!ばんざ〜い!ばんざ〜い!ばんざ~い!久住俊夫、ばんざ~い!久住秋江、ばんざ~い!」

 「全く、あなたったらァ………………」






 とある総合病院の精神科の一部屋に、万歳三唱をしている中年男性がいた。

 所変わって休憩室。彼の担当医師である陣内は同期の須藤と共に話し合っていた。

 「ん、そういえば、あの258号室の久住って奴、確か病院食に結構指定してたよな」

 「あぁ、確か空想の亡くなった嫁さんの飯がいいだなんて言っていたな。確か…白いご飯、わかめと豆腐が入った味噌汁、丁度いいだし巻き卵、シャッキリとした千切りキャベツ。そして、ぽつんと置かれたたくあん…だったな。全く、あの人は大変だったよ。たった1つ献立を変えるだけでキレるんだ。この道5年、精神科医の医師をしてきたが、こんな奴、初めて見たよ」

 「……お前も大変なんだな…」

 陣内はまるで、男の万歳三唱が聞こえてるかのように、須藤に愚痴をこぼした。

読んでいただきありがとうございました………

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