不遇スキルから始める帝王学~お前ら全員処刑してやるんだからな!~
「カロム殿下!」
「王太子殿下、お誕生日おめでとうございます!」
「ああ、ありがとう」
僕は今日、無事に十五歳の誕生日を迎えた。朝からたくさんの祝いの言葉をもらい、それに手を振って応える。
十五になったということは、教会で司教さまにスキルの鑑定をしてもらえるんだ。
僕はさっそく、僕付きの近衛騎士ふたりに声をかけた。いつもなら連れ歩くのはどちらか一人だが、今日だけは特別だ。
「ブライアン、マイケル、支度ができたよ。行こう」
「はい、殿下」
「へい、殿下」
待ちに待ったスキル鑑定の日……誇らしい気持ちでいっぱいだ。
教会では父母だけでなく親戚や臣下の者たちが勢揃いして迎えてくれるに違いない。僕の他にも鑑定を受ける者たちがいると言うし、王太子らしい、立派なスキルだといいんだがなぁ。
少し不安になった僕は、ブライアンとマイケルに聞いてみることにした。
「なぁ、二人とも。僕のスキルはどんなものだと思う?」
「さぁ、私にはわかりません」
近衛騎士団随一の剣の使い手であるブライアンは、その長い銀の髪の毛のように真っ直ぐな性格をしている。だいたい剣のことしか考えてないから、答えは半分わかっていた。
マイケルはというと、トレードマークの黒いグラサンを光らせてこう言った。
「そっスね〜。やっぱカネっスかね。カネ。それかオンナ」
近衛騎士団随一の落ちこぼれであるマイケルは、その四方八方に向いてツンツン尖っている茶色い髪のように突き刺さる性格をしている。だいたいカネのことしか考えてないから、やっぱり答えは半分わかっていた。
マイケルはカネのために騎士団に入った男だ。良い給料をもらってるハズだが、それでもなおカネカネ言っている。コイツは売れるものなら国でも売るだろうと僕は常々思っているぞ。
ふたりと話して緊張もほぐれたおかげか、司教さまや来賓の前での挨拶もトチらず立派に勤め上げることができた。そしていよいよ僕のスキルが読み上げられる。逸る心を抑えつけて、僕は真面目な顔を作って司教さまの言葉を待った。
「王太子カロム殿下のスキルは……」
皆が固唾を飲んで司教さまを見つめる。
「触れた相手の心の在り方を鎧にする能力ですじゃ!」
………………。
痛いほどの沈黙。
ナニソレ。
ナニソレェ。
聞いたことないんですケド~~~~~!
未だかつて聞いたことのないスキルで、詳細すらわからないという。だがそのガッカリ感はわかる。場が妙な雰囲気になり、その後は一切盛り上がらないまま解散となってしまった。
……納得いかない!
城に戻り、いつも剣の鍛錬をしている中庭で僕は拳を突き上げた。
「なんなんだよ〜〜〜! なんなんだあのスキル! なにあの盛り上がらなさ! 僕王太子ぞ!? もっと空気読めよ!」
「殿下、空気をどう読むのですか」
「剣バカは黙ってろ」
「ちょっと司教のヤツ締めて『間違いでした〜』って言わせましょうぜ。んであっても使わなさそうなスキルを適当にでっち上げてもらって」
「ヤクザ黙って」
いけない、このままじゃ僕は世間にまったく無視されて、いなかったものとして扱われてしまう!!
王太子なのに!!
僕は、この国を、背負って立つ男なんだぞ……!?
「今の殿下に必要なのは、デケェ事件とか、太い後援者っスよぉ! あのスカスキルじゃあ廃嫡も秒読みなんスからねぇ!」
立ち尽くす僕に、マイケルがすごく現実的な意見を突きつけてくる。
わかってる! わかってるんだよ、そんなことは!
「……マイケル、僕のこと嫌いだろ」
「そんなこたぁありませんや! ここまでお育てした殿下が、国王になれないなんてことになったらおおぞ、オレは、オレは悲しいっス!」
「今なにか変なこと言いかけてなかったか?」
「オォイ、オイオイオイ(泣)!」
地面に這いつくばって泣き始めるマイケル。
お前そんなキャラだったっけ?
まぁいい。それより気にしなくちゃいけないのは僕の進退についてだよ!
「クソッ! いったいどうすれば……!」
僕が悔しさと不甲斐なさに拳を握りしめていると、ザリッと土を踏みしめる音がして、ブライアンが僕の側に跪いていた。
「ブライアン?」
「殿下。恐れながら申し上げます。固有スキルは生まれついてのもの、誰にも選ぶことはできません。それがどんなに使えないものに見えたとしても、気に入らなくても、取り替えることはできない……。
人間は、持っているものだけで勝負しないといけないときが、きっと来ます。だからそのときのために、スキルを磨いた方がいいと、私はそう思います」
ブライアンの真摯な言葉は、くじけていた僕の心に染み入った。
そうか……そうだよな。
なんにも使えないように見えるスキルでも、鍛えれば化けるかもしれないし!
「わかったよ、ブライアン。ありがとう! まずは、お前に僕のスキルを使う!」
「はい」
「えっ、マジですかい? やめましょうぜ殿下〜」
マイケルの言葉なんか無視だ。僕は精神を集中して叫ぶ。
「マインド・アーマー!」
いでよ、これが僕のスキル、『心の在り方を鎧にする能力』だ〜!!!
僕がブライアンに触れた瞬間、炎のように揺らめく蒼い光が中庭を満たした。僕は思わず目をつぶり、次に見開いたときには光は収まっていて、ブライアンの姿が少し変わっていた。
「なんだ、その……え?」
思わずつぶやくと、自分の姿を見下ろしながら困惑していたブライアンがこちらを向いた。
「どうしました、殿下。私はどう変わっているのでしょうか」
「えっと……」
ブライアンの困惑もわかる。だってブライアンはきちんと兜を被っているから、視界が狭いんだもんね。自分の鎧の胸部分に現れた文字なんて読めないよね。そこに現れた文字は『愛国心』、実にブライアンらしい言葉だと思う。
「はっは~、ナニコレめっちゃストイックじゃないっスか~」
茶化すように言うマイケル。でも、お前の鎧にも文字が……。
「なんだマイケル、お前の鎧に文字が浮かんでいるぞ。……売国奴?」
「へあっ!?」
そうとも。
僕のスキル、「触れた相手の」と明言されていたにもかかわらず、触れていないマイケルにまで影響している。自分には関係ないと高をくくっていた彼は驚いたことだろう。
「どうだ、マイケル! 僕はすごいんだぞ! 接触スキルを遠隔で発動できるなんて、僕以外誰もいない! スキルがクソだろうと、僕の魔術の腕前はやっぱりこの国随一だァ!」
「恐れながら殿下、たぶんそんなことを言っている場合ではない」
「へ?」
ブライアンが剣を抜きながら言う。そして、それをマイケルに向けた。
「ブライアン!?」
「ひゃははは! バレちまっちゃあしょうがねぇ! こうなったらこの国とはオサラバよ。出てこい、野郎ども!」
マイケルの合図で、そこら中から騎士たちが出てきた。どいつもこいつも、落ちこぼればっかりだ。
「どういうつもりなんだ、マイケル!」
ブライアンに小脇に抱えられながら、僕は叫んだ。マイケルはサングラスを光らせながら、真面目な顔になった。
「悪ぃな、殿下。アンタにゃ恨みはないが、アンタの対立者候補はたくさんいる上に優秀すぎてな、いつ引きずり降ろされてもおかしくなかった! そしたらオレたちも一緒にどん底よ! んだからオレぁ考えたんだ……アンタが廃嫡されたら、ゴージャス帝国の姫にアンタを売り渡して一生遊んで暮らそうって!!」
「へ……? 大陸の反対側の国じゃん」
いや待て、今、売り渡すって言わなかったか?
「この王国にゃ殿下に引けを取らねぇ優秀な跡継ぎがいる! んでゴージャス帝国に殿下を連れてきゃゴニョゴニョあって既成事実ができてほ〜ら不思議、帝国とのパイプができる! みんなハッピー!」
「なるほど?」
「なるほどじゃないぞブライアン!」
あの野郎、僕を売ろうとしてるんだぞ!?
ブライアンは愛国心に厚い男だろぉ!?!?
「王太子でない僕には結婚する価値がないはずだ! だからやめろ!」
「逆っスわ。同じく跡取り同士、王太子のままの殿下とじゃ結婚できやせんが、廃太子されてただの王子になった殿下となら結婚が可能になるんス」
「だからってホイホイさらわれてたまるかぁ! マイケル、国を出るなら追わないから、だからやめろ!」
「殿下と同い年の可愛い姫さんっスよ」
「!」
へぇ、同い年かぁ。
って違う違う!
「ええい、離せブライアン。僕はまだ、この国の王になることを諦めてないんだ!」
「けど〜、殿下が婿入りすりゃあ、帝国との交易は関税が下がって庶民の暮らしは潤うし、殿下は将来女帝のダンナだ、もしかしたら皇帝にだってなれるかもしれねぇ」
「なるほど!」
「なるほどじゃないぞ、ブライアン……」
言葉尻が弱いのは、アレだ。
マイケルの案に魅力を感じたからではない……。
可愛い姫とか、帝国の主とか、そういうのに目がくらんだわけじゃ……ない!! 断じて! ない! ぞ!
「よっし、ブライアン。そのまま殿下を抑えてろ。行くぜ、野郎ども!」
「おー!」
「なにが『おー!』だよ! ブライアン、まさかお前まで僕を裏切るのか!?」
「すみません殿下。私も殿下が王になるより、優秀な弟君に国を導いてほしいです。殿下には帝国でパイプ作りをお願いします」
「うっそだろ、おい……」
ブライアン、お前アッサリ寝返りやがって!
マイケル、お前絶対に許さないからな!
色々言ってやりたいが口に布を詰め込まれてしまって声が言葉にならない!!!
ええい、どいつもこいつも……!!
僕のスキルが広範囲攻撃型だったら、今すぐにこの馬鹿野郎どもにお見舞いしてやれたのに!
いや待て、そもそもそんなカッコイイ固有スキルだったらこんな事態に陥ってない!?
うわ~~~ん! こんなクズ固有スキルだいっきらいだぁ!!! ば〜〜〜か!!
結局、僕はさらわれて国を出た。
それと入れ違いになるように、僕の廃太子の決定が太子宮にもたらされていたとは、ゴージャス帝国への旅の途中で知った話。
傷心の僕はゴージャス帝国で出会った可愛い(本当に可愛い!)お姫さまに慰められて、こちらで本格的な帝王学を学んでいるところだ。
くっそ……固有スキルの性能の違いが、戦力の決定的差ではないことを……教えてやるっ!
そしてそして、僕を裏切ったマイケルとブライアンは、なぜかまだ僕の背後に控えている。マイケルの部下も。
「へへへっ、殿下についてる方が儲かるんでね」
「もっと強くならなきゃあ……」
「うるせー、不良騎士どもが!」
いつか絶対、強くなって見返してやるんだ!
覚えてろよ、全員! 父上も母上も!
「絶対帝国主義!!!」
「「おーー!」」
「味方ヅラするなー!」
おわり
オマケ
イラストいただいちゃいました!
このイラストから書いたのがコレですw
Illustrated by 井上レバー(ツイッターID @inoue_liver023)