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前の話でチラッと見せた妹、早く登場させたいです笑
「さ、着いたわよ~」
…割とマジ遠かった。あと2、3メートル長かったら、俺は二度と帰らぬ人となっていただろう。
「じゃ、ちょっとここで待っててね?」
「え。なぜですか?」
「ふふふ、良いから良いから~」
「……」
それだけ言い残し、本当に教室らしい場所の扉の前で取り残されてしまった。
なんて愉快な先生なんだろう。俺が彼女に抱いた感想はそれだけだ。
扉に聞き耳を立ててみると、先生が何かを話しているようだ。
…まさかとは思うが、今日は転校生が来てくれたわよ~みたいなノリで、雰囲気を盛り上げているんじゃあるまいな。
もしそうだとしたら、早急に帰らせていただく。
……帰っても良いんじゃないか。…帰っても良いんだ。よし、帰ろう!
心の中でそう意気込み、本当に帰ろうとしたところで扉が開いた。
タイミングが悪いなんてもんじゃない。狙ってやってるんじゃあるまいな……。
「じゃ、自己紹介お願いね?」
ジコショーカイ?
その言葉の意味を、即座には理解する事が出来なかった。
そして、先程の鈴木優奈がやっていたことを、今度は大勢の前でやらされるという事実に気づき、急に嫌気が差した。
「あの、やっぱり俺―――」
「はい、じゃあ入って入って~!」
それ以上は言わさんとばかりに、先生は無理矢理俺を教室の中へと放り込んだ。
(……うっ)
なんとなく予想はしていたが、案の定、人がたくさんいた。
それだけならまだしも、俺はどれだけ珍しいんだと言わんばかりに注目を集めてしまっているため、視線が痛い。
今すぐにでもあったかい我が家に帰りたい所だが、生憎出口を佐藤先生に塞がれてしまっている。
仕方なく、俺は重い足取りで教卓の前へと向かった。
そこに広がる光景は、俺にとっては地獄以外の何者でもないのだが、とりあえず周りを見渡すことにした。
瞬間、人類の99%は見逃すであろう光景を、俺は見逃さなかった。
(…もしかしてあいつ、鈴木じゃね?)
そう、俺の視線の先には、まごう事なき鈴木優奈、本人がそこにいた。
相手方も、どうやら驚いているようで、俺を捉えるその目は見開かれていたが、しばらく経つと口元が歪みだし、いやらしい笑みを浮かべていた。
何を企んでいるのか知らんが、怖いからやめて欲しい。
「田中君、自己紹介」
「…あ」
俺が長い間、黙りこくっていたのを見据えてか、佐藤先生が自己紹介の催促をしてきた。
…仕方ない。
「田中海人、17歳。以後よろしく」
…まあ、自己紹介なんてこんなもんで良いだろう。趣味とか特技とか言うあれは、ほら、入学式じゃあるまいし、カットでいい。
シーン。
俺が自己紹介をした後、なぜか場が静寂に包まれた。
……いや、本当になぜ?
と、思った刹那、今度はなぜか場がどっと笑いに包まれた。
いや、本当になぜ!?
「いやお前、それだけかよ!笑」
「てか、年齢言う必要ないんじゃないの~?笑笑」
この場のどこかにいるであろう誰かが、笑いのツボを親切に説明してくれた。
本当に笑うところか?…本当に笑うところだろうか。……目を疑うぜ。
「はーい、田中君は去年1年間不登校だったんだけど、こうやって今、頑張って来てくれたから、皆仲良くしてあげてね~!」
いらんてそういうの。
「それじゃあ田中君の席は、窓側から二列目の1番後ろね~!」
ああ。ようやく俺を、この地獄から解放してくれるというんですね。
先生の言うとおり、俺は窓側から二列目の1番後ろの席へと向かった。
…ん?まてよ。確かその席って……
「よろしくね!田中君!」
「……鈴木」
気づいた頃にはもう遅い。いや、気付いててもどうしようもなかったんだが。
とにかく、どうやら俺は簡単には家に帰らせてもらえないことが分かった。
優奈ちゃんのとなり、きちゃーーー!
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