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3

 

 彼女は、自販機に160円投入し、スポーツドリンクを購入すると、何を思ったのか俺に差し出してきた。


 「はい、これ」

 「……なにこれ」

 「ん?知らないの?これはスポーツドリンクって言ってねー~」

 「いやそういう事じゃなくて!」


 ……どうもペースがつかめない。

 いや、むしろ俺がペースをつかもうとしていないのか。ならば、こいつに対しては素直にいくべきだと判断した。


 「さすがにこれは受け取れない。そもそも―――」

 「あ~はいはいはい。いいから飲んで飲んで!」


 ……理解した。

 こいつの事は一生理解することが出来ないだろう。

 このまま言い合っていても、多分一生平行線なままなんだろうし、ここはおとなしくいただくとしよう。


 俺がスポーツドリンクに口をつけたのを確認すると、彼女は満足そうに微笑み、話し始めた。

 

 「私、鈴木優奈!あなたは?」

 

 …自己紹介か。ぬるいな。

 入学初日のホームルームじゃあるまいし。

 

 「俺の名前を知って何になる?」

 「え?」

 「そもそも、君の名前とか別に聞いてない」


 少々きつい言い方になってしまったが、名前を知られてしまうと不登校だということがばれ、色々と面倒なことになりそうなので、言わない方が良いだろう。

 彼女――鈴木優奈の事も、忘れてしまった方が良い。


 「あはは…もしかしなくても私、結構嫌われちゃってる感じ……?」

 「……嫌い、と言うよりも、単に興味がないだけというか」


 流石の彼女も、表情が少し強ばっているような気がする。

 表面上は笑っているが、何処か不安を隠し切れていないような…そんな複雑な表情だ。

 要するに、若干ひいていた。


 「……」


 沈黙が流れる。

 流石に少し気まずいが、今だけだろう。俺自身が彼女の目にどう映ろうが、別にどうでも良いのだ。

 どうせ、今後の人生に鈴木優奈という存在が関与することはないのだから。

 もし仮に関与することがあるのだとしても、そんなの嘘だ。

 

 「……私、君の事がよく分からないかも」

 「ん?」


 突然口を開き、何を言い出すのかと思えば、そんなことを言いだした。

 確かに俺という存在は、端から見れば気持ち悪いかもしれない。急に学校に顔を見せたかと思いきや、人の好意を素直に受け取らず、なんならまともにコミュニケーションをとろうともしない。

 ……よくよく考えてみれば、くそ野郎じゃないか。


 「私、女の子だよ?」

 「うん」


 関係ないな。

 

 「なんなら、クラスでも結構人気者だよ?」

 「へー」


 唐突な自慢やめぇや。

 

 「…かっこいい」

 「うんうん、俺もそう思う……ん?」

 

 聞き間違いだろうか、いや聞き間違いだろう。なぜか引きこもりには聞こえたらいけない台詞が聞こえてきたような気がする。


 「あの、鈴木さん。俺の聞き間違いでなければ、かっこ悪いっていわれたと思うんだけど、合ってるかな……?」

 

 まぁ、それもそれでどうかと思うが。


 「うん、聞き間違いだね。なんかね、我が道を進んでるって感じで、かっこいいと思う!」

 「いやいやいや、流石にその考えは適当過ぎやしませんかね!?」

 「そうやって否定されればされるほど…うん、決めた!」

 「なにが!?」

 

 色々と追いついていけていない。

 

 「なにって…君の事をよく知るために、私、今日から君のことを調査しようと思って!」

 

 時間の無駄だと思いますが、はい。


 「…あ、もうすぐホームルーム始まるね。そろそろ戻ろうか!」

 「あっちょっ…!」

 

 俺が呼び止めようとしたときには、鈴木はすでに手の届かぬ場所まで行っていた。


 「また後でねー!あ、君も早く教室に戻った方がいいよー!」

 「……」


 ……まぁ、見たところ彼女はいわゆる陽キャなんだろうし、俺みたいな人種は珍しいんだろう。

 と言うことは、そのうち飽きられる。

 というかそうじゃないとやっていけない。

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