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10.治療するのが仕事だ


「す、すごい……。ほんとに全部治ってる……」


 自分の身体を見下ろしながら感嘆の声を漏らすクララに、ユーリは得意げだ。

 実際、クララの身体に幾つもあった青痣はすっかり消え失せ、今や少女特有の潤い溢れる柔肌が残るばかりである。


 その治療の出来栄えは、傍で見ていたアカネも認めざるを得ない。

 文句の付けようがない、惚れ惚れするような完璧な治療痕だ。


「当然だろ。誰が治療してやったと思ってるんだ。俺に治せないものはないッ」


「……じゃあ、その手はなに?」


 クララのスカートにしれっと手を伸ばしていたユーリに、アカネはジト目を向ける。


「い、いや、目に見えるところの痣は消えたみたいだが、スカートの中まではどうか分からないからな。ちゃんと確かめてやらないと」


「そんな必要はない!」


 戯言を一蹴したアカネは、「そんなぁっ!?」と泣きついてくるユーリを無視して、クララの様子を確かめる。

 何度かセクハラまがいのことをされていたようだが、少なくとも今回の治療に関してはとても満足しているようだ。


 ホッと一安心するアカネだったが、まだ一つ忘れてはならないことがある。

 言わずもがな、クララの怪我の理由だ。


「クララさん。あなた、いじめを受けているんじゃないの?」


「っ──!」


 アカネの直球的な質問に、クララの雰囲気が一変する。

 瞳は揺れ、顔色も僅かに悪くなっている。明らかに動揺している様子からして、どうやらアカネの指摘は図星だったらしい。であるならば、対処法も必然的に限られてくる。


「すぐにでも信頼できる先生方に相談すべきよ」


「……念のために聞いておくが、その『信頼できる先生方』とやらには俺も入ってるのか?」


「勿論、入ってないわ。あんたは引っ込んでなさい」


 ユーリの扱いが酷いことはともかく、アカネの言うことは尤もだ。

 だが、クララの曇った表情を見る限り、その考えには否定的らしい。


「何か気になることでもあるの? もし自分で相談するのが難しいとかなら、私が代わりに──」


「────やめてくださいっ!」


 アカネの言葉を遮ったのは、クララの叫び声だった。

 本人としても予想外の大声だったのか、驚いたように自分の口を手で覆っている。


「ご、ごめんなさい……。でも、先生に相談するのはやめてください。あまり大事にはしたくないんです」


「大事にしたくないって……。そうは言っても、あなたの怪我の具合からして、いつまでも隠し通せるようなものではないでしょう?」


「そ、それは……」


 いくら生徒間での話とはいえ、現状であそこまで怪我を負わされている以上、教師の介入は然るべき処置だ。いじめの事実が露見するのも時間の問題だろう。


 アカネの言うことが間違っていないことは、すぐに分かった。

 これまでずっと傷を隠し続けてきたクララだからこそ、限界が近いことを自覚していたのだ。




「だったら俺が治療してやるよ」




 沈黙を破ったのは、ユーリだった。


「要は怪我がバレなければ良いんだろ? それなら話は簡単だ。もしまた怪我をしたら、俺のところに来ればいい。身体の隅々まで綺麗にしてやるよ」


「……そ、そんなのダメに決まってるでしょ!?」


 ユーリの提案に表情をぱあっと明るくするクララだったが、それにアカネが待ったをかけた。


「仮にも教師がいじめの証拠を隠蔽するようなことをしていいと思ってるわけ!?」


「俺は回復術士だからな。治療するのが仕事だ」


「それ以前に教師でしょーがッ!! いじめを解決するのが教師の仕事なの!!」


 並べ立てられるド正論に溜息をこぼすユーリは、何やらアカネにそっと耳打ちする。


「……いいか、よく考えてもみろ。今回の依頼人は誰だ?」


「そんなのクララさんに決まってるじゃない」


「だろ? なら俺たちが今やるべきことは、いじめの解決じゃない。怪我の治療だ。依頼人の要望に最大限に応えることが支持率アップにも繋がるんだよ」


「そ、それは……」


 確かに、目下アカネたちにとって最優先すべきは、ユーリの支持率を向上させ、約一か月後に迫るクビを回避することだ。

 であれば、ユーリの提案は至極合理的だ。


 果たして本当にそれでいいのか、という良心の呵責は勿論ある。

 しかし同時に、ユーリの案を真っ向から否定できるだけの対抗馬があるわけでもなかった。


 アカネの勢いが弱くなったのを見て、ユーリは「さて」とクララに身体を向ける。


「問題の根本的解決にはならないかもしれないが、お前が望むなら、俺は幾らでも治療してやる。何せ回復術士だからな。それに俺は、美人の治療は断らない主義なんだ。────ただし、条件がある」


 ユーリの言葉に安堵するクララだったが、最後の一言に表情を強張らせる。


 今回の対応は、ユーリにとっても危ない橋だ。

 条件を出してくるのは当然だった。


「わ、私、お金とかはあんまり持ってないですよ……?」


「金? んなもんに興味はねーよ。俺がお前に出す条件は一つ」


 緊張するクララに、ユーリはにっと笑って──。


「治療の時は制服を脱ぐこと。これ、絶対な?」



お読みいただき有難うございます。

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