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哲学貴族の恋愛結婚  作者: めい
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02 十五歳の彼


俺の寮には学院創設以来といも言われる優秀な同級生がいる。伯爵家家の三男坊で、一年生のときは同じ部屋だった。一日中本を読んでいるような奴だが、人嫌いというわけでもなく会話も普通にする。性格はいたって穏やか。少しくせのある黒髪に、美しい黒い瞳は母譲りらしい。


休日に熱心に街に繰り出すこともあれば、一月近く外出せずに読書にあけくれることもある。夕食後のサロンでの歓談に参加することもあれば、誘いの声さえ聞こえていないほど本を手離さないときもある。ようするに、その秀才はかなりズレていた。だが、俺個人としてはそんなあいつは、そういうところも含めてなかなかに愉快な男であり、一応友人のはずである。


一年の頃は先輩方の世話をするのが学院の各寮でのしきたりである。最初はのんびりとマイペース、かつ先輩だろうが寮長だろうが言いたいことはそのまま言ってしまうあいつの性格には、こちらまでヒヤヒヤした。


しかし、彼の兄上は我が寮の歴代最高の寮長にして歴代最高の結婚劇とやらを成し遂げた有名人であった。後々知ったが、先輩方はあいつの兄上から色々と頼まれていたというのもあったし、悪意のないあいつの性格は個人的な恨みをかうことはなく寮のシステムの向上に繋がった。


同学年でも大人しいタイプの生徒は何人かいたが、彼らは個室が貰えるようになると単独行動が増えた。あいつはなぜか逆で、サロンの隅にある小さめなソファに陣取って本を読むのが日課だった。脇にある小さめのテーブルにはうず高く本が積まれ、時折メモするためのノートもある。右端には香りの飛んだ紅茶のポットとカップが陣取っていた。


暗黙の了解というのか、とにかくこのソファとテーブルはあいつが占領しはじめてからこれまで、誰も触れていない。


部屋に移動しないのはいくつか理由があるらしい。まず第一に、広間のこの場所は日当たりがよかった。あいつは眼鏡をかけているので、明るいところの方が都合がよい。彼の部屋は北向きでかなり暗いのである。


第二に新入生が勝手に紅茶を継ぎ足し、クッキーやらなにやらを補充してくれる。彼は読書中に無意識に飲み食いする癖がある。甘いものは思考に必要ということか。


第三に、彼はとにかく周りが見えない。授業が終わるとルイスは一気に読書モードに切り替わる。寮に直行し、夕飯までの間コートも脱がずに制服のまま広間で本を広げるのである。要するに自分の部屋に戻り着替えるのは寝るときの一回でいいだろうという考えらしい。


夕飯のときは時間になると自然と意識が切り替わるらしく、周囲と会話もする。まぁ会話の内容はかなりズレるが、この時間になると俺や友人たちがコートを脱がさせるので幾分マシになる。その後就寝時間まで黙々と本を読み、みんなに挨拶をして、寝る。とにかくあまりにもズレており我が道を行く秀才である。


そんなあいつも、時々部屋に篭ることがある。同室の頃もそんなことがあったが、部屋にいたい日もあるだろうと思っていた。ただ、この日もたまたま階段を登ろうとしていたところに出くわして、何の気なしに声をかけてみた。




「今日は本は読まないのか。」




すると、彼ははっきりとこう答えた。

それも、かつて見たことのないほど慈愛に満ちた笑顔で。



「リディアから手紙が来たから返事を書くんだ。」





その瞬間、俺はルイスの腕を引っ掴み、広間のメインテーブルに連行した。先輩方が何人かと、遠巻きに新入生、友人がちらほらやってくる。



「おい、ルイス。リディアって誰だ?」




こいつの妹は幼いが、手紙は十分に書ける。しかし名前はアリスといったはずだ。




花が綻ぶとはこのことか。普段その秀才さ、変人さで忘れがちな美少年は天使のように微笑んだ。



「ああ、リディアは僕の結婚する相手だよ。」




なにをあたりまえのことを?といった調子のルイスの一言に、広間中の寮生が叫ぶまで一呼吸あった。



それ程に衝撃的だった。



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