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勇者、マリアと戯れる3

 今の状態は岩のようだという表現が正しいのだろう。テールは今マリアと共にお風呂に入っている。魔王城の浴室はとても広いのだが、テールの隣にマリアが来る形になっている。マリアが態々テールの隣を選んだだけの話だ。


 ここで逃げ出したらマリアの心を傷つける。そんな思考を持ち逃げ出さないだけ、テールはまだ冷静なのかもしれない。


「ふふ、いい温度ですね」


「そうですね」


「この浴室、天井がガラス張りになっていて、星が見えるのですよ?」


「そうですね」


「夕飯は何がいいですか?」


「そうですね」


 いや、テールは冷静ではないのかもしれない。先ほどからマリアの言葉に同じ言葉しか返さない。


 ぐいっ。マリアがテールの顎を上げ、上を向かせた。


「見えますか?今日は一段と星が出ていますよ?」


「……あぁ、綺麗だな」


 ようやくテールが真っ当な言葉を返した。星空を眺め少し冷静さを取り戻したのかもしれない。


「……なぁ、マリア」


「はい、なんでしょうか」


 テールが星空を見上げたままマリアに声を掛ける。テールは今現在気になっていることをマリアに聞いた。


「マリアさん、どうして人族の姿になっているのでございませうか?」


 星空を眺めたままの質問。口調が安定しないのは申し方がないのだろう。


「テール様、まずは深呼吸を」


 マリアが言う。テールはマリアに言われたとおり、正面を向くと吸って吐いてと深呼吸を三回した。


「はい、落ち着きましたか?」


「あぁ、少しは」


 テールはマリアの方を決して見ないが、深呼吸のおかげか声色にも落ち着きが帰ってきている。


「はい。では私が人族の姿なのかですね」


 マリアはそう言うと少し黙った。聞いてはいけなかったことなのかな?そうテールが考えていると、テールの顔は二足の蹄で挟まれた。そして、マリアのいる方向に力が入りテールの首が動いた。


「ちょっ!まっ!」


 テールがうろたえるがそこで目にしたのはテールが想像した景色ではなかった。


「私のような魔族は、姿が変えられるのですよ?」


 そのマリアの言葉は聞こえたか聞こえてないか。テールの脳はキャパシティを超え、気絶した。テールが気絶する前に見たのは人型のマリアではなく、全身がけむくじゃら、山羊の姿をしたマリアだった。



 テールが目を開ける。目に入った景色は綺麗に掃除の行き届いた天井だ。テールがゆっく-部屋の綺麗に整えられたベッドにテールは寝かされていたことが分かる。テールはどうして寝かされているのか首を捻った。


「おや、起きましたか?」


 マリアの声が聞こえる。その言葉だけでは分からないがその声色はテールを心配する声色だ。テールは先ほどの出来事を思い出した。そして最後に自分が見た山羊はマリアによる悪戯なのではと考え、一言文句を言うくらいならいいだろうとマリアの声のする方を向いた。


「……は?」


 しかしテールの視線の先にいるのは先ほど気絶する時にも見た通りの山羊だ。人型でも頭賀だけが山羊でもなく全身が山羊の誰かだ。まだ夢から覚めないのかと目を擦り再びマリアを見据えた。


「どうかしましたか?まだ気分が優れなかったりしますか?」


 山羊からマリアの声が聞こえる。自分が倒れた時に見たマリアの姿は現実で、そしてこの状況も現実だと、マリアの声が主張をしてくる。マジマジと山羊の姿を見つめてしまう。


「大丈夫ですか?」


 が、マリアの心配する声を聞きテールはハッと我に変える。


「いや、気分は大丈夫だ。別に体調が優れないという訳でもない」


 テールはマリアにそう返した。


「それはよかった。浴槽で倒れたので湯あたりを起こしたみたいですね」


 マリアはそういいながらテールの顔を触り熱がないかを確認する。テールは蹄で熱が分かるのかと突っ込みを入れたくなったが、マリアの行動は自分を心配しての行動なのでツッコミをいれずされるがままだった。


「いや、熱があるわけではない。ちゃんと水分を取らなかったからかもしれないな?」


 テールは自分のことを心配するマリアにお前のせいだとは言えず、適当な言葉ではぐらかす。瞬間、マリアの目が細く険しくなった気がした。


「テール様、次からはしっかりと水分を取ってください。お風呂で脱水症状はよくあることで洒落になりませんからね」


「あ、あぁ」


 マリアはそう真剣な声色で話す為、テールは押されてしまった。


「わかった。次からはそうする。所でマリア、その姿は一体?」


「私の姿ですか?」


 マリアはテールの言葉で、自分の姿に可笑しな所がないかを確認しはじめた。


「いや、可笑しい所があるというわけじゃなく、どうしてその姿なんだ?」


 テールはマリアの姿を指摘する。遠まわしに、どうして山羊なのだと聞いた。


「あぁ、この姿ですか」


 マリアは納得するように頷くと体が霧のように分散する。そしてすぐに霧が一箇所に集まった。そこには人型の、先ほど風呂場でテールの背中を流した姿をしているマリアがいた。


「まっ!?」


 全裸の姿で。テールはすぐに顔を逸らした。


「ど、どうして裸なんだよ!」


「服は作れないので」


 狼狽するテールにマリアは淡々と服は作れないと説明をした。


「私のような思念型の魔族は姿が決められた形ですが、自由に変えられるんですよ」


「な、なるほど」


 マリアはテールに説明をする。


「いわばどれも私の本当の姿、という事です。まぁ、思念型にも種類がありますが」


 マリアはそう締めくくる。


「じゃあ、魔王にも動物の姿があるってことか」


 既に戦う気はないのだが、テールも魔王の真の姿というものは気になる。


「いえ、魔王様は……それは後でのお楽しみにしましょう」


 マリアが言いかけ少し悩んだ後に言わない事に決めたのだろう、嬉しそうに笑った。


「……所でテール様」


「どうした?」


 マリアがテールに声を掛けた。テールはマリアの声色が真面目なのを感じると首をかしげながら聞き返した。


「テール様、私が言うのは可笑しいかも知れませんが、魔王様はテール様のことを信頼していませんよ?」


「あぁ、なんだそんなことか」


 テールはマリアの言葉に納得したように頷いた。


「そんなことって、テール様、そんなことはないと思いますよ?」


「そんなことでしょう。だって俺達出会って一日もたってないんだぜ?」


「その通りですが……」


 マリアは信頼していないと言った時のテールの反応に納得していないのだろう。テールに言葉を投げかけようとする。しかしそれもテールによって阻止された。


「マリア、俺にとってはそんなことなんだよ」


 テールがマリアに言う。そして一拍置いてから次の言葉を続けた。


「だって、助けを求められたら答えるのが勇者だろう?」


 マリアはポカンとした表情を見せるが、すぐに意味を理解したのだろう。表情が可笑しいものを見たと物語っていた。


「ふふ……そうですね」


 マリアはそういうと納得したのだろう。言葉は続けなかった。扉に向かっていき扉を開けると。


「あぁテール様、夕食の準備が出来ています。準備が終わり次第、私に声をかけてください。部屋の外で待っていますので」


 マリアはそう丁重にテールに説明をして、部屋を出ていく。


「……いや!マリアさん服を着て服を!」


テールはすぐにマリアを追っかけたのだった。

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