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勇者、魔王と対峙する3

「マリア、今日は来客の予定があった?」


 魔王は魔族に声を掛ける。魔王は彼の声で魔族の隣でお茶をしている彼の存在に気がついたのだ。そして状況を確認する為に彼ではなく魔族に聞いた。


「いえ、本日は来客の予定はございません」


 マリアと呼ばれた魔族はそう答える。マリアの回答に魔王は彼を指差しながら言った。


「なら、そこに居る男は誰?」


「魔王様、こちらの方は魔王様に用があって魔王城に訪れた方です」


 マリアは魔王に説明を始めた。


「魔王様が動画の撮影で忙しかった為、こちらでお待ちいただいていたのです」


「だからといって明らかに来客じゃない人にお茶を出すのはどうかと思うよ!それにどうみても人族でしょ!今敵対している種族じゃないか!」


 魔王の言うことはごもっともだ。人族と魔族は現在、お互いに敵対しており、今もどこかで争いが行われているのかもしれない。そして魔王城まで辿り着いた彼も魔王を倒すという目的を持ち魔王城まで来た勇者だ。それをおもてなしと称してお茶とお菓子を出しているそこの魔王の側近が可笑しいだけの話だ。


「いえ、魔王様。こちらの方は敵対者ではなくお客様です。お客様をもてなさずにただ待たせるのは私の主義に反します」


「そうじゃない!来たのは人族で今的対中の種族の一人!だから敵対勢力で!お客様ではなく敵対者なの!」


 マリアが呆れた顔をして首を振った。


「魔王様、彼が本当に敵対者なら、既に私と戦っていますよ?」

 そして肩を竦め魔王を宥めるように言った。そんな態度のマリアに魔王は溜め息を吐きながら肩を落とした。


「マリア、お前はそういう奴だよ」


 魔王はマリアのそういう態度には慣れているんだろう。すぐに思考を切り替えた。


「さて、何の用で僕の城に立ち寄った。答えによってはここで死んでもらう」


 魔王の射抜くような視線は彼に向けられた。殺すという文句も冗談ではないだろう。雰囲気が物語っている。


 彼はそんな視線を気にした様子もなく紅茶に口をつけた。そして一息つくように息を吐き出すと魔王の問いに答える。


「あぁ、魔王が強いと聞いて倒しに来たんだ」


「ほう、この僕を倒す為に、態々僕の城まで乗り込んできたと」


 魔王の纏っている雰囲気が大きく、そして鋭くなる。それは刃物のように鋭利に、逃がす事のない群れのように強大に、そして余りにも巨大な獣を内に宿しているようにも感じられる。そんな魔王の様子に彼は怯む事無くまた一口、紅茶を口につけた。そして空気を読む事無く、魔王に声を掛ける。


「しかし魔王が幼い少女だったとはね。もっと強大で大柄な奴だと思ってたよ」


「想像通りじゃなくて悪かったね。でも、見た目で判断しているようだが、死んだ時の保障はするつもりはないよ」


 魔王は既に戦闘態勢だ。腰を落とし重心を前によせいつでも駆け出せる状態だ。


 彼も魔王に対応するために背中にある武器に手を掛けいつでも戦える状態になる。


 魔王が飛び出す。


「魔王様、短気はいけませんよ」


 が、マリアに腕を掴まれ止められた。


「なぜ止める!マリアお前……まさか裏切る気か!」


 魔王はマリアに吼える。目の前には自分を殺しに来た敵が居る。それを短気はいけないと自身の側近に止められているのだから無理もない話しだろう。マリアが裏切ったのではないかという考えが魔王の頭に浮かび、口から出てきたのも当然の話だ。


「いいえ、私が裏切らない事は魔王様も知っているはずです。しかし魔王様、戦う気がない相手に矛を向けるのはどうかと思いますよ」


 そんなマリアの言葉、態度に魔王の表情は次第に困惑した表情に変わっていく。しかしマリアは魔王の困惑した表情を気にする事無く、魔王を宥める為に自分の言葉で話していく。


「魔王様、彼は魔王様が動画を取り終わるまで待つといって席に座りました。もし、彼に戦う意思があるのなら、籍に据わって私の出したお茶など飲むはずがありません。仮にもここは敵地ですよ?毒などを警戒して口をつけないのが普通のはずです。しかし彼はお茶を飲み動画を取り終わるのを待つことにしたのですよ。彼の行動の何処に戦う意思があるのでしょうか?」


 マリアの言葉で魔王の動きが止まる。少しの時間の後、そっかと呟き頷いた。魔王の表情は変わり、マリアの言葉に納得をしたのだろう。そして魔王は彼に申し訳ないという表情を見せた。


 彼は助かった、と心の中でマリアにお礼を言うと、武器を背中から地面に落とした。そして両手を挙げ、敵意がないことを示す。


 マリアは掴んでいた腕を放した。そして彼に対して一礼を送る。


「ごめんなさい。僕の早とちりだったよ」


 魔王が頭を下げ謝る。


「いや、気にしないでくれ。俺の言い方も悪かった。普通は倒しに来たという相手を警戒するもんだからな」


 彼も魔王の謝罪を受け止め、自分にも非があったと言い謝った。


「それでも、僕は魔王だから強いよ?」


「ははは、そうだよな」


 彼は子供をあやす様に魔王の頭を撫でた。


「何をなでている!」


 魔王は彼の手を払いのける。彼は気にした様子もなく手を引っ込めた。魔王は咳払いを一つすると心構えを立て直した。


「それで、聞きたい事が一つあるんだけど」


「聞きたいこと?」


「さっき叫んでいた言葉は?」


 魔王の質問に彼は首を捻った。魔王の質問は自分のどの言葉を指し示した言葉なのだろうと。そんな様子の彼に魔王は説明不足を感じたのだろう。補足をする。



「先ほど君が叫んでいた俺を撮れよ!って言葉。そんなに君は映りたいの?」


 あぁ、その言葉か。彼はそう納得をして頷く。


「別に俺が映りたいわけじゃない。ただ動きの少ないワニの動画という映えない絵面で、その動画とやらは見てもらえるのかと思ってな」


「うぅっ!」


 魔王が彼の発言で唸る。きっと魔王も自分の動画のいけない所が分かっているのだろう。映えない映像を取っていることを魔王も理解しているということだ。


「その動画を沢山の人に見てもらうんだろう?だったら動きが少なく映えないワニの動画を撮っていてどうするのか」


 彼の言葉に魔王が膝を折った。


「確かに……確かに僕のワニの動画じゃ再生数は伸びない!だけど!だけど僕のエリザベスは可愛い!」


 魔王は折った膝を真っ直ぐに直すように勢い良く立ち上がった。そして声を上げる。僕のエリザベスは可愛いのだと。


「そうか、つまり沢山の人に見てほしいわけじゃなく、自分の可愛いエリザベスの自分の可愛いエリザベスの自慢がしたいだけなのか。なら悪いことを言ったな」


 彼は腕を組み納得したように頷いた。そして申し訳ないという表情を魔王に向ける。


魔王も彼の言っていることが正しいのは分かっている。魔王の今の発言は彼の言った通りなのだから。魔王は顔を地面に下ろしうつむいた。


「……し……ぃ」


 魔王が拳を握り締め小さな声で呟く。


「うん?何か言ったか?よく聞こえないのだが」


 彼は聞こえなかったと魔王に聞き返す。


「資金が!足りないの!」


 魔王は顔を上げると大声で叫んだ。男はそんな魔王の様子、そして言葉の内容に対して呆けた顔を作る。言葉の意味をよく理解していないからだ。


「え、え?資金?」


「あぁ!そうだ!国を維持する為には物資が必要だ!その物資を手に入れるには資金が必要だ!だが僕達には資金が足りない!それもこれもお前らが手を取り合い僕達の大陸に侵略してくるからだ!」


 彼は自分の発言が虎の尾を踏んだなと考える。しかし彼も引く事はない。すぐに魔王に疑問を投げかけた。


「国を維持する為の資金が足りないんだったら、国民にしっかりと税を納めてもらえばいいんじゃないか?」


「その税は十分に貰っている!それに彼らにだって暮らしはあるんだよ!税を上げすぎると村や待ちは生きづらくなる!納めてもらう税はそう簡単に上げられるものでもないの!」


「ほう」


 魔王の言葉に彼は感心の声を上げた。決して暴君と呼ばれる君主ではなく、しっかりと国民のことを考えた、良き君主なのだろう。


 魔王が言う。


「そこで僕は異世界に向けて動画を作ることにした!


「どうしてそうなったんだよ!」


 つながりの見えない言葉に、彼はツッコミを入れる。


魔王は楽しそうに笑い声を上げながら彼に説明を始めた。


「ふふっ!この動画というものは再生数でお金が稼げる。いわば異世界における職業!インターネットと呼ばれる場所に投稿するだけだから異世界にいる私でもその職業を遂行する事は可能!そこで僕自らが働き、動画で稼いだ異世界の潤沢な資金を使い異世界の潤沢な資源を手に入れる事にした!」


「なるほど」


彼は頷いた。魔王の言い分を理解したのだろう。そして異世界には物資が多いということも理解した。


「つまり、この動画という物は見られるだけでお金になり、異世界では職業になるほどでちゃんとした仕事なんだな」


「そう!僕はマリアにそう聞いた!」


「だったら、なおさら見られそうもないエリザベスの観察日記は駄目なんじゃないのか?」


「うぅ……」


 魔王が再び唸り声を上げる。自分の動画を思い返し言い返せないでいた。エリザベスの観察日記が魔王の目的から程遠いということは魔王も理解しているということだ。


「じゃ、じゃあさ!僕はどうしたらいいって話なの!」


 魔王の口からは、彼に意見を求める声が出てきた。


「だから簡単に、もっと人に見てもらえるものを撮ろう」


「人に見てもらえるもの?」


 彼の言葉に魔王は不思議そうな表情を浮かべる。見てもらえる動画ならあのワニの動画だって見てもらえるだろう。魔王はそう考えていた。


「そう、人に見てもらえるもの。例えば物語にある、勇者と魔王による最終決戦とかさ。凄い盛り上がると思わないか?」


「なるほど、確かに勇者と魔王の戦いは僕もよく知ってるし、人族の物語では定番だと聞くね。魔王の敗北で終わるって」


「あー、確かに魔王の敗北で終わるけど、物語の定番だろう?今でもこの話で物語を描く人が居るぐらいには定番だ」


「だけど、それはこの世界の定番で、異世界での定番とは限らないじゃないか」


「確かに異世界での定番ではないのかもしれない。しかし、俺はそこの羊頭に、異世界は魔法のない世界だと聞いた。なら、魔法の力による戦いは見慣れているはずがないだろう?」


 彼の言葉は魔王の発想にはなかったのだろう。驚いた表情を彼に向ける。


「な?勇者と魔王の戦い、いけそうだろう?」


 彼が魔王に対して得意げに言う。魔王は少し考えると彼の手を取り言葉をかけた。


「ねぇ君!僕と一緒に動画を作ってくれない!?一緒に国を浴するために資金を集めていこうよ!」


 その言葉は彼を誘う言葉だった。魔王である彼女は仮にも勇者である彼に、先ほど殺そうとまでした彼に対して、勢いに任せて勧誘をしている。彼は困惑した表情を浮かべるが、少し考えた後、溜め息を吐いて頷いた。


「お試し期間って事でいいか?」


 魔王は彼の言葉に嬉しそうに頷いた。


「もちろん!それで、君の名は?」


「名乗ってなかった?」


「うん!」


「わかった、俺の名前はテール。えっと、よろしくな?」


「こちらこそ!」

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