プロローグ
「よく来たな。勇者よ……」
魔王が窓から空を眺めながら言う。
ぎぃぃ……
魔王の言葉に遅れて反応するように扉が開いた。魔王が振り返り入ってきた人物に言葉をかけた。
「ここまで来たのは君が始めてだろう」
「あぁ、そうか」
勇者と呼ばれた人物は魔王の発言を気にとめた様子もなく、腰に下げられている剣に手をかけた。
「おっと、言葉は不要のようだな」
魔王はそうおどけて見せるが、そうなることは初めからわかっていたという口調だ。右手に杖を持ち魔王の周りを球体が飛び回る。勇者が剣を抜いた。瞬間、勇者に向かい飛んできた球体が真っ二つになり消失した。
「ほう、闇を切るか」
「俺は勇者だ、それぐらい可笑しくないだろう?」
魔王の賞賛を何てことないかのように笑い飛ばした勇者。
「くっくっく、その通りだな」
「ははは」
勇者と魔王は笑いあう。しばしの間、部屋には笑い声だけが反響した。
笑い声が消えると同時に勇者と魔王、二人の姿が消えた。
ここまでかっこいい出だしで始まったが、この話には勇者と魔王が居るだけ、剣と魔法で文化の築かれた異世界だという説明の為にあるだけで、本編の魔王たちとは一切関係ない話だったりする。
では本編に関係する魔王とはどんなのか。少しみてみよう。
「魔王様、準備の方はよろしいですか?」
山羊の頭をした人が魔王と呼ばれる人物に話しかける。魔王は山羊に対して大きく頷き返事をした。
「もちろん!っと言いたいけどまだ何も進んでいないよ」
魔王は少女といえる姿をしていて威厳というものを感じさせない。しかし彼女は山羊に敬われている。新手の宗教団体なのではと疑いをかけたくなるくらいだ。
「魔王様、あれほど用意とは早めに終わらせるものですと、普段から申しています。魔王様は無能ですか?」
本当に敬っているのか怪しくなってきたが、山羊は一応魔王のことを敬っている……はずだ。
「ちょっと!僕はこれでも魔王なんだよ!」
「はいはい分かりました。まおうさままおうさま」
山羊に翻弄される姿は威厳も何もあったものではなかった。
「うーん、まぁいいや。じゃあ、さっさと始めようか」
魔王はそういいながら机の上にあるものを手に取る。映像を取る為の機械で、名称はビデオカメラだ。
「動画を取ろうか!」