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俺とアタシとワンルーム  作者: のぶなが
2/2

2.アタシ

機能の練習で、連続で投稿させていただきました。

こちらもご覧いただけると幸いです。

 アタシには兄がいる。

 とても優秀な兄で、成績も親族からの評価も高い。

 だけどアタシはあまり勉強や運動も得意ではなかった。

 だから家事や料理で少しでも親に認めてもらいたかった。

 でもいつも比べられ、褒められるのは兄の方だった。

 たいして家にいない父も母も、家がきれいになっていることや兄弟の食事がどうなっているのかもあまり興味はない。

 一番のものさしとして見られるのはやはり成績だった。

 

 兄は一流の大学に合格し、そのまま司法試験を受けると言って両親を喜ばせた。

 しかしアタシは高校受験に失敗し、志望校としていた学校よりも下の学校に行くことになってしまった。

 その頃からだろうか。

 アタシは仕事で疲れて帰ってきた両親に責め立てられ、両親の喧嘩の標的になってしまった。

 話題はいつもアタシが成績が悪いのはどちらのせいなのか。

 今思えばかなりのことをされてきたと思う。

 父には頭の悪い高校に通わせる金などないと、授業料を自己負担させられた。

 母にはアタシはいないことにさせられ、目の前で兄を甘やかす姿を見せつけられた。

 兄には学費のためにアルバイトで稼いだお金を遊びに使うと取り上げられた。

 それでもいつかきっとアタシのことを見てくれると信じて、学費を稼ぎつつ高校に通っていた。

 ついに父と母も離婚の話が濃厚になったある日、アタシは耳にしてしまったのだ。

 アタシの親権をどちらが持つのかでいい争っている二人の会話を。

 家事も、兄弟の食事も、学費も、多くのことで自分でやってきたアタシよりも両親は兄の方を選んだのだ。

 

 結局、アタシは父の方についていくことになった。

 しかしアタシと父の間には会話などなかった。

 アタシは学費のために授業のある日でもアルバイトをして学費を稼いだ。

 時には父に土下座をしてお金を借りた。

 だがそうしていれば出席日数も足らなくなってくる。

 無茶なアルバイトをしていれば勉強する時間などなく、成績も下がる一方。

 ついに留年が決まってしまい、そのことが父に伝わった。

 恥さらしなどと詰られ、家にいることは許さないとアタシは家を追い出されてしまった。

 アタシはいったいなんのために頑張っていたのか。

 アタシは誰のために頑張って来たのか。

 アタシは誰に認めてほしかったのか。

 わからなくなってしまった。

 眼の前が真っ暗になりながら、ふらふらと冷たい雨の中を歩くしかなかったのだ。


 ===

 アタシはどこまで歩いてきたんだろう。

 どうやら駅前まで来てしまったらしい。

 繁華街を歩いているとふとアタシと同じ制服を着ている女の子が目に入った。

 隣を歩いているのは、中年のオジサン。

 腕を組んで歩いている。

 おそらく親子ではないだろう。

 立ち止まって見ていると、彼女たちはそのままホテル外に消えていった。

 ふと思ってしまった。

 あの子はいいな...。

 誰かに認められてお金をもらってるんだもんな。

 それに比べてアタシは...。

 そう思うと、この世界でアタシはそのままひとりぼっちの気がしてしまった。

 アタシにはいく場所も帰る場所も、待っている人も待ってくれている人もいないのだから。

 またアタシはふらふらと歩いていくのであった。


 先程から前髪からは雨水が伝い、制服もずしりと重くなってしまった。

 気がつくと知らない公園の前。

 心も、体も、重くなってしまったアタシは歩けなくなってしまった。

 アタシは公園のベンチに座り込んでしまったのだ。

 もう手足の感覚がない。耳の先も痛いくらいだ。

 どこに行けばいいのか分からなかった。

 誰かに手を引いてほしかった。

 誰かの腕にすがりたかった。

 どうにもならない絶望に、生暖かい雨が頬を伝った。

 その時だった。

「なあアンタ、大丈夫か。」

 急に話しかけられたことに私は驚き、咄嗟に顔を上げた。

 すると前には傘をさしている男の人がいた。

 突然のことにアタシは動揺してしまい、何も言えずに男の人の顔を見つめてしまった。

 「この真冬の雨の中、ずっと座って何やってんだ。家の人心配してんだろ。傘貸してやるから、早く家に帰れ。」

 短い沈黙のあと男の人はそう言うと傘を差し出してきた。

 アタシは驚いてしまった。

 この人はもちろん初対面だ。

 見るからに部屋着をきて。

 仄かに髪も湿っている。

 シャワーでも浴びたあとなのだろう。

 それなのにこの雨の中、私に傘を貸しに来たのだ。

 初めて誰かに見つけてもらえた気がした。

 初めて誰かに手を引いてもらえる気がした。

 だがこの人はもちろん親でも親戚でも、はたまた友達でもないのだ。

 この人についていくためにはどうすればいいのか。

 この人は私のことを認めてくれるのかな。

 どうでもいい。

 なかば自暴自棄になった私は目の前の男性にこう言い放った。

「お兄さん、アタシのこと...買わない?」

 


ご覧いただきありがとうございます。

コメント等していただけると嬉しいです。

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