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エミー

 エミー、君は決して泣いたりはしないのだね。スコティッシュフォールドとして生を受け、あの狭いペットショップのショーケースに入れられ、出られたかと思えば我が家に閉じ込められ。閉鎖的な空間にいると、呆けてくるのは、僕は体験済みだ。精神病院に何回入院させられたと思っているのだ。君はどんな夢を見て寝るのだろう。こう問うているのは、君が広い世界に身を投げ出せるのは、夢の世界だけではないかという僕の拙い思考だからだ。しかし、君は言葉が話せないので、僕は君のふさふさな体毛にそっと頬を寄せ、温もりに浸るだけ。

 一度僕が病気がひどかったとき、君に最低なことをした。なんの悪戯もしていないのに、君のことを蹴ってしまった。君のあの時の敵意に満ちた威嚇を、僕は今も覚えている。本当に、すまないと思っている。だけど、今の僕はあのときの僕を殴り殺すことは、できないんだ。君のような高貴な存在を傷つけた罪は大きい。どうか僕と眠ってはくれまいか。

 初めて君を抱いたとき、僕は君に噛まれた。甘噛みではなく、仔猫のわりに強く噛み、僕の指にはくっきりと二つの穴が開いた。あれは光栄に思ったさ。今思うと、あれは君からしたら敵意でしかないが、僕からしたらこの上ない親睦であったと思っているよ。僕はアマチュアであるが物書きだから、頭がおかしいのは承知だ。しかし文豪は猫を飼うイメージが、僕の偏見と並列してあるのだ。

 

◆□◆


 まったきもって、私は退屈だわ。あなたに蹴られたとき、私は謝りたくてずっとこらえていたのよ。なのに2年もどこに行っていたというの。私の一番大好きなあなたのお母さんの話によると、セイシンビョウインというところにいたらしいけれど。あなたはいいでしょうけれど、私は家族の一人が欠けただけでも不安なの。だからお母さんが帰ってきたときは、玄関まで出迎えたり、夜一緒に寝たりしたものよ。

 インドアキャットを飼うなら、責任を持ちなさいよ。私が外に出たがっても、決して外に出してはダメよ。過去にそのせいで野良猫からばい菌を貰って嫌いな医者に連れてかれたじゃないの。私は本能というものに四肢を支配されているんですからね。恐ろしいものよ、本能というものは。人間は薄いけれど、それで戦争や、汚職や、色恋沙汰をするものだからお笑い種ね。

 あなたはほおをすりよせてくるけれど、それは愛情だと勘違いしているなら、噛むわよ。私にとっての愛情は、語りかけて、存在を認めてくれることだけなのよ。


◇■◇


 エミー、どこにいるんだ。僕を一人にしないでくれ。君はもう僕の感傷の半分に入り組んでいるんだ。エミー、エミー、僕を寂しさで殺さないでくれ。僕のために、もう一度、毛を撫でさせてくれ。


 あ、今日も君は押入れにいたのか。可愛い奴だ。



飼い猫の話。天使のようにかわいい。書簡形式だと文が詩的かつ難解になることがわかった。

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