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トイレの花子さん

懐中電灯を持って夜の校舎を歩き回る二人。

 ちなみに懐中電灯は先生のビジネスバックから出てきた。他にもよく分からない、分かりたくない物体がバックにあるのが見えてしまったが見えていないものとする。

 ヒタヒタと二人で廊下を進む。もう既に七不思議となる要因はたっぷりだ。もうこれで一つ確定でいいんじゃないかな。

 名前をつけるとしたら、『夜に校舎を歩く教師と生徒』 あれ?あんまり七不思議っぽくないな。


「先生、今どこへ向かってるのですか?まさか、気のままに校舎を歩き回っている訳じゃないですよね?」

「あー、女子トイレ」

「変態」

「教師に向かって変態とはなんだ、説教するぞ」

 うわ、教師ぶってきやがった。本当に教師なのがタチ悪い。


「じゃあ、なんで女子トイレなんですか!?

 夜中に男が女子トイレとか変態行為しか思いつかないですよ!

 どうせ七不思議とか言って女子トイレに入ったり、

 いろんなところに行って変態行為をしたいだけなんでしょう!?

 どうせ『女子の便器うめぇ』とか言いながら、便器をペロペロするんでしょう?

 分かってますよ!!とんだ七不思議ですね!!

 そんなことはひとりでやってくださいよ!!

 そんなことに付き合うなんて真っ平御免です。帰らせてください!!」


「落ち着きなよアンリエット君。女子トイレと聞いて興奮しすぎじゃないかな。

 女子トイレにいく理由は花子さんをつくる為ためだよ。

 女子トイレと七不思議というワードを聞いて花子さんに結びつかなかったのかい?

 愚鈍だな~アンリエット君は」


 ただ単にこの人を罵倒をしたかっただけだ。あばよくば帰宅。

 自慢になるが僕は人一倍カンが良いと自負している。決して愚鈍ではないぞ。本当だぞ。


 懐中電灯の明かりが二つ校舎の廊下を進む。トテトテ。角を曲がる。階段を上る。トテトテ。二階に着く。階段を上る。トテトテ。3階に着く。曲がり角を曲がる。廊下進む。トテトテトテ。二つの明かりが壁を這う。片方の明かりが女子トイレの文字を見つけ、もう片方の明かりが重なる。


「ついに着いてしまいましたね、女子トイレ」

「緊張しているのかい?アンリエット君」

「入ったことがないですし。そりゃあ緊張もしますよ」

「アレレ~?アンリエットは入る気満々だったのかな~?やっぱりねー」

「入らないという選択肢もあったのですか?」


「ないよ」

「だと思いましたよ!!」


 男二人が深夜に女子トイレの扉を開く。はたから見ても、自分から見ても不審者。いや、七不思議だ。

 いつも見慣れた男子トイレの青い壁とは違い、女子用らしく薄い赤を基調とした壁。

 もちろん、立って用をする為のものはなく、すべてが個室である。

 僕の左手に側には水垢の無い綺麗な鏡とセンサー付きの蛇口。折角なので手を蛇口の前に入れてみる。水が流れたので水が手に当たる前に素早く手を避ける。


「アンリエット君、ここが女子トイレだよ。こんな機会滅多にないから堪能しておきなさい」

「何をですか!?」

「言わせないで……」

 この人がわざとらしく顔を隠す動作をして照れる。僕がそれにツッコミを入れる。この人が二ヘラと笑う。ああ、なんでこんなに嬉しそうな顔をするのだろうか。教師としてそれはどうなのか。


「さてと、茶番は置いておいてそろそろ本番だ」

「一体こんなところで何をするんです?」

「言っただろ?花子さんを作るんだ。はい、これ」


と言ってこの人が『トイレの花子さーんでーす!!』と書かれたシールを何枚も渡してきた。このシールにはこの人が精一杯書いたであろう萌え萌えなイラストがついている、上手な絵だとは言えないが努力と方向性は感じ取れる絵だ。


「えっと、まさかコレを貼って花子さんを作るってことですか?」

「ザッツライト!その通りさ。アンリエット君」

「…………」


 そういって、この人はさも当然のように個室のドアを開ける。陶器でできた洋式のトイレが見えた。

 先生はドアの裏側にシールをぺたりと貼る。そしてシールのシワを伸ばし、満足気に頷く。


「うん、これで花子さんの誕生だ」


「…………どこが!?」

「どうしたんだい?アンリエット君」

「どうしたもこうしたも、もうすべてがどういうことなんですか!!」

「アンリエット君の語彙力がおかしいことになってるよ……」

「シール貼るだけで何が花子さんなんですか!?トイレの花子さんをなめてるんですか!?」

「いや、これはトイレの花子さんだろ……ちゃんとここに書いてるだろ?」


 先生はシールを見せつけながら、書かれている文字を声高らかに言う。


「トイレの花子さーんでーす!!」

「やかましいわ!!」



 一体これでなにが変わるというのだろうか、絶対に七不思議じゃなくてイタズラと思われるだろう。

「もーアンリエット君は細かいんだから」

 そう言って先生は一歩個室の中に踏み入り、おもむろに貯水タンクの蓋を開けようとする。


「待ってください!!なにをしようとしてるのですか?!」

 さっきからやることなすこと全てが突っ込みどころしかないなこの先生は。


「いや~もしかしたらこの中に花子さんがいると思ってさ……。もし居たら俺たちの行為は全くの無駄になるだろ?確認だよ確認」

「間違いなくいないと思いますけど」


「はは、わからないじゃないか」

 先生が貯水タンクの蓋を持ち上げる、陶器が擦れる鈍い音が鳴った。貯水タンクの中を懐中電灯で調査する。なにも見つからなかったのか、ガッカリしたような顔をしてもののついでのようにトイレの水を流した。

 そしてはぁーとため息をついて個室から出る。


「何もなかったよ、アンリエット君」

「知ってました」

「なんだよーツレないなー。まぁ、これで手順がわかっただろ?手伝ってくれよ」

「手伝ってくれ……?」



 手伝う?何を?


 意味を理解できずに言葉を反芻する。そして僕に渡されたたくさんの花子さんシールを見て先生の言った言葉の意味を理解した。


「え!?まさか、これで終わりじゃないんですか!?」

「いや、だって一つの個室だけなら花子さんにならないだろ」

「なりますよ!!むしろそっちのが花子さんになりますよ!!」



 先生は花子さんという都市伝説を本当に知っているのだろうか?

 頭が痛くなってくる。


「貞子だって量産される時代だぜ?花子さんだって、沢山いてもおかしくないだろ」


 いや、おかしいだろ。


 口に出しかけたその言葉を飲み込んで、しぶしぶ了承した。


 何一つ納得してないけど、納得することにした。


「アンリエット君がわかってくれてうれしいよ」そういって先生は隣の個室に突撃する。

 僕もそれに習って、適当な個室に入って、適当にシールを貼る。

 直後、隣の個室から陶器が擦れる鈍い音が響いた。



「先生まさか……貯水タンクの中も確認しないといけないんですか?」

「そうだよ、念のために全部を調べるんだぜ。もし花子さんが先にいたら悪いだろ」

「絶対にいないですよ!?花子さんは!!」

「可能性はゼロじゃないぜ?」

「ゼロですよ!!!」

「オレ教師。アンリエット生徒。拒否権ナイ。グダグダ云フナ」


「ここぞとばかりに・・・」



 生徒と教師この関係がある限り、僕はこの人に逆らえない。そして、生徒と教師以上の関係にも以下の関係にもならない。絶対に変えない関係がここにある。

 この人に聞こえない程度に文句をつぶやきながらこの謎の儀式を手伝う。

 ドアを開ける音、陶器の音、ついでに流す水の音。この音が幾度も夜の女子トイレに吸い込まれる。


 ……なんだこれ?




「はい、終わりましたよ!」

「はっはーお疲れ、アンリエット君。じゃあ次に行こうか」

「はぁ、次はどこですか?」

「女子トイレ」

「なんでやねん!!!」

 つい、ベタなツッコミをしてしまった。なんでやねんってなんやねん。僕は芸人か。


「いやぁ、全部の女子トイレにもこのシールを貼っていかないと七不思議じゃないだろ?」

「もう、十分に不思議だと思いますけど?!」

「まぁまぁ、もしかしたら他のトイレには花子さんが住んでるかもしれないじゃないか。もしいたら俺たちのせいで花子さんに迷惑かかるかもしれないだろ?俺は教師としてそういうことは許せないんだ。だから確認するんだぜ?」


「正直やりた「内申点」

「まだ最後まで言ってないでしょう!?分かってましたよ!!手伝いますよ!それでいいんでしょ!?分かってますよ!!」



 この後めちゃくちゃ花子さん探した。

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