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この世界に生きる僕ら  作者: くーる
始まりの街
8/43

この世界のあれこれ 下


ハードラックについての知識を得る為にタイヨウたちは図書資料館に足を運んだ。そこで手にした一冊の文献。結局その本ではハードラックについて有益な情報は得られなかった。


しかし五大属性や霊属性と言った新しい知識は得られた。

これからの旅に必要な情報を出来るだけ多く吸収しようと、タイヨウはまた別の本に手をかけた。

「次は……生活でも読んでみるかな」

手に取った本には、この世界に無くてはならない物。『スフィア』について記された本のようだ。

「えーっと、」

「ちょっとキミっ」

スフィアについての本を読もうと手に持った瞬間レイリーに呼び止められる。

「ん? どうした?」

「どうしたじゃないでしょ?なんでもうハードラックの本やめてるのっ」

「いや、あの、なんか疲れちゃったから気分転換にと思いましてデスネ……」

やれやれと軽く溜め息を付くレイリー。

「もう、しょうがないなぁ、じゃぁ今持ってるの読んだらまたちゃんと調べてよねっ」

「りょーかい、さて……」


『スフィアとは何か。

この世界に生きる我々にとって無くてはならない物。『スフィア』身近な物と言えばもちろん『スフィアリング』

が真っ先に頭に思い浮かぶだろう。


スフィアリングは人がこの世に生まれた時から指に装着されているが実際のところ多くは謎のままだ。「神から授けられた神器である」と唱える学者や「神が人を管理するための首輪」と考える研究者など人によって考え方は違うのは当然だ。本当に神が存在するのであればぜひ実際に聞いてみたいものだ。


また、最近の研究発表会にてスフィアリングは身体全ての情報を管理している、と唱えた学者が居たらしい。そのため身体の些細な成長をうんたらかんたら。専門外なので割愛させて頂く。


この機会にスフィアリングの機能について改めて解説したいと思う。スフィアリングとは簡単に言えば「身分証」である。名前はもちろん個人のステータス、ギルドに預けた預金など「リングオン」を行う事で簡単に確認出来る。

また、ホテルなどの公共施設での契約時や支払い、鍵の開け閉めや席の予約などスフィアリングによって我々の生活は支えられている。そしてその全てに利用されているのが

「スフィア」なのだ。


しかしひとえにスフィアと言っても様々な種類が存在しており、自然界にあるスフィアを加工した物や人工的に作り出したスフィアなど、それぞれを適材適所で利用している。いくつか紹介しよう。

「 映像記録スフィア 」

リングスフィアに埋め込まれているスフィア。発動条件を満たすと映像を映し出す。情報の書き込みが可能。

「 情報更新スフィア」

主に映像記録スフィアと合わせて使用する。このスフィアに映像記録スフィアをかざすと、かざしたスフィアの情報を一部更新、変更出来る。(個人情報保護のためそのように開発された)

「リンクスフィア」

スフィア同士に相互性を持たせる。

「駆動スフィア」

スフィアをかざすと一定の動きをする。リンクスフィアと駆動スフィアを組み合わせたのがスフィアロック式の鍵だ。

このようにスフィアを研究し機能を持たせ生活の基盤としたのは割と最近なのだが、今後もスフィアが研究され我々の生活を支える事は変わらないだろう。

著 セシル ランドール 』

「ふぅ、今回のはしっかりしてたな。」

「終わった?」

「あぁ、でもちょっと疲れたな……」

「お疲れ様っ、休憩しよっか?」

「そうだな、休憩にしよう」

館内に設けられている時計の針は、もうじき正午を刺そうとしている。

「あっ、そろそろお昼の時間だよ?」

「ん?もうそんな時間か?じゃぁこのまま昼にするか」

「そうしよー!一応食堂もあるらしいけど、建物の裏に回ると芝生の公園があって売店で買った物をそこで食べれるんだって!」

さきほどタイヨウを待つまでの間レイリーは、館内のパンフレットを見ていた。

「それいいな、外の空気も吸いたいしそうしよう」

「決まりだねっ、じゃぁ持ってきた本を戻して売店いくぞーっ」

「おう」


売店に行く為に持ち出した本などを元の場所に戻すタイヨウ。

「えっと、これはここに戻して……コレはここだな」

そんなタイヨウを本棚の陰から覗き見る小さな影。

「……ん?なんか視線を感じるな」

「はわっ?!」

視線を感じた方向を確認しようと辺りを見渡すと、その影はとっさに姿を隠す。

「気のせいか……」

思い過ごしだろうと気にせず全てを戻し終えると丁度レイリーがやって来た。

「全部戻したよー、キミの方はどう?」

「俺も終わった所だ、行こうか」

「おっひる♪おっひる♪」

館内の西側にある扉から裏に出れるとの事で歩き出すふたり。レイリーは上機嫌な様子で歌っているが、タイヨウ再び視線を感じていた。

「やっぱり視線を感じるな、誰かにつけられてるのか?」

気付かないふりをしつつ突然振り返りその正体を確認しようとするタイヨウ。

「はわわっ?!」

突然の事で反応が遅れてしまった小さな影。

「見えた、白いワンピース……」

「おっひるがアタシを待っているー♪」

しかしここで追いかけても逃げられてしまう可能性が高いと判断したタイヨウ。

「いつからレイリーは食いしん坊キャラになったんだよ」

何気無い会話をする事で相手に油断させる作戦に出た。「いいじゃん別にー、なんか本読んだ後に外の空気吸うと

いつもより開放感あるしなによりお腹すいたしー♪」

すると後方から可愛い腹の虫の鳴く音が聞こえ、ある事を思い付いた。

「……よし、レイリー」

「んー?」

西側の扉から外に出てすぐに実行する。

「売店まで…競走だっ!買った方が昼奢りなヨーイドン!」

「えっ?!ウソずるいっ!」

突然走り出したタイヨウとレイリーに驚きつつも、ふたりを見失わぬよう後を追う影。

「はわっ?!」


売店と公園は建物の真裏に位置しており、西側の出入り口から距離にしておよそ50mの全力疾走。

「ず、ズルしたくせに負けるなんて、キミもまだまだだなぁ!はぁ……はぁ……」

「はぁ……はぁ……ふーっ、さてけたかな?」

「どう見たってキミの負けでしょ!」

「違うんだよ、実は俺達が本を棚に戻してる頃から何度か視線感じてたんだ」

突拍子もない発言に少し心配になるレイリー。

「うん、大丈夫?」

「……ちなみに聞くがそれは俺の頭の方の心配か?」

「えっ?あー、違うよ?」

「ウソ下手かっ」

「えへへ……」

「褒めてないからな?」

「えっ?!」

「なんで驚いてんだよ……まぁいいや、それでその後も俺達をつけ回してるようだったから適当に理由付けて走ったんだ」

「えっ?……そんな」

突然表情を曇られるレイリーを見て余計な不安を与えさせたかと心配になるタイヨウ。

「でも、もう大丈夫だと思うから安心して平気だからな」「無効試合なの?!」

「いまそこ?!」

「そりゃそうだよ!いきなりだったのにちゃんと勝ったんだよ?! 」

「昼はちゃん奢るから……」

全くもって余計な心配だったが、ほっと肩を撫で下ろした。

「ならよろしいっ!」

「じゃぁ飯買って行くか」

「おーっ!おっひる♪おっひる♪」

しかしタイヨウ達の決死?の逃走にも関わらず昼食の話を聞いていた謎の影は、同じく全力疾走で売店近くまでたどり着いていた。

「はぁ……はぁ……疲れました……」


一方その頃タイヨウ達は売店で買い物をしている途中だった。

「すいませーん!コレと……コレと、コレください!」

「じゃぁ……俺も同じのをください、あ、支払いも一緒でします」

それを物陰から見つめる小さい影。

「お腹空きました……」


買い物を済ませ公園を歩く。天気も良く爽やかな風がふたりの間を吹き抜けた。

「んーっ!きもちー!」

目いっぱいの背伸びをして風を感じる。

「広々してていい感じだな」

「草の匂いがアタシの心を開放するー♪」

「ははっ、ごきげんだな」

「もっちろん♪あっ、あの木ノ下のベンチあそこ座ろっ 」

「そうだな」

その頃、タイヨウ達を追っていた小さな影も売店で昼食を買っていた。

「これと、これください……です」


目星を付けていたベンチに無事たどり着き、腰掛けるふたり。

「よいしょっと」

「よっこらせっと」

「なんかやっと落ち着いた感じだー」

ポケーっと空を見上げるレイリー。

「お疲れ様、ありがとな」

「ううん、結構勉強になったし良かったよっ」

「じゃぁコレ食ったらちょっと情報整理しとくか」

「そだねっ、とりあえずいただきます!」

「いただきまーす」

そんなふたりが座るベンチから数メートル離れた別のベンチには、まだ幼く見える少女が昼食を食べ始めようとしていた。

「いただきます……です」

そんな少女を自称可愛ものに目がないレイリーがいち早く

発見する。

「あっ、小さい子女の子がひとりでごはん食べてる……かわいーなー」

レイリーの言葉にさほど興味は無かったが、話のタネにでとなるかと一応確認するタイヨウ。

「ん?……あの白いワンピース!」

「んー?」

「さっき話した俺達を付け回してたやつだ……」

「あんな大人しそうな可愛い子が……?見間違いじゃないのー?」

可愛いは正義を主張するレイリーとしては、タイヨウの発言を鵜呑みにする訳には行かなかった。

「いや、さっき一度振り返った時に白いワンピースを見たんだ、あの子で間違いない」

「でも、なんでだろう?」

「分かんないけど……何にせよ俺達に用があるなら、こっちから行くか」

スッと立ち上がるタイヨウをレイリーが呼び止める。

「待ってアタシが行く、理由は分からないけどキミがいきなり行ったら怖がっちゃうよっ」

強面では決してないタイヨウだが、自分よりも大きな人が突然来れば驚かせてしまうと心配したレイリーが、自論の可愛いは守られるべきを執行した。

「それもそうだな……わかった、頼むよ」

「まっかせてー!」


もぐもぐと小さい口を動かしてパンを食べている少女。時折その長い黒髪が口に入るのか、両手を駆使して居る姿にレイリーはより一層胸を鳴らしながら近付く。

「おいしい……です」

「ねぇねぇ、ちょっといいかな?」

「はわっ?!」

よほどパンに夢中だったのか、声をかけられ身体をビクッとはずませる少女。

「ごめんね、びっくりさせて……ってあれ?!」

「ンーッ!」

驚いたタイミングが悪かったのか、パンを喉に詰まらせ胸をトントン叩く少女。

「あっ、うそ、ごめんね!?これ飲んでいいよ!」

丁度持っていた水を差し出すレイリー。

「ッ!」

少女は持っていたパンを膝の上に置き、両手で受け取った水を口に流し込んだ。

「大丈夫?びっくりさせてごめんね」

少女が落ち着くのを見計らっていたレイリーが再度話かける。

「あ……ありがとうごさまいま……?!」

水を差し出された相手を見るや否や逃げようとする少女をレイリーが呼び止める。

「あっ、待ってっ!」

「はうっ」

少女は観念したのか足を止め俯いてしまった。そんな様子を見て優しく話かけるレイリー。

「えっと……もしかしてなんだけどアタシ達に何か用があったりする?」

「はぅ……」

「館内から付いて来てたみたいだけど……」

「……うぅ」

身体をビクつかせ怯える少女。

「怒ってないから大丈夫だよ?」

「あの……」

「うん」

「えっと……」

少女の様子に今すぐに抱きしめたい衝動を抑えつつ優しく接するレイリー。

「うん。ゆっくりでいいからねっ」

「リップル……です……」

「リップルちゃんっていうだねっ、可愛い名前だねっ!」

レイリーに声をかけられてから、ずっと怒られると思っていたリップル。予想外にも自分の名前を褒められた事につい嬉しくなったようだ。

リップル 「ッはいっ!父がつけてくれた名前です!」

まるで花が咲くかのような笑顔を見せたリップルに、思わずレイリーも笑顔になる。

「そっかそっかっ!良かったねっ!」

場の空気も穏やかなものになり、リップルがこれまでの行動の理由を話した。

「はいっ!それで……お姉さん達が調べてた本に……私も興味と言うか……」

「そうだったんだねっ」

「はい……それでなんで調べてるのかなって思いまして……聞いてみたいって思ったんですけど恥ずかしくて……」

「そっかそっかぁ」

「あの……ゴメンナサイ……」

「ごめんなさい出来て偉いねっ」

抱きしめたい衝動を抑え、リップルの頭を撫でるのみに堪えたレイリー。するとリップルは意外な反応を見せる。

「……ッ! あの、私……12歳デス……」

「えぇっ?!ごめんねっ!もっと小さい子かと思ってた……」

「身長がなかなか伸びなくて……」

「うぅ…ごめんねぇ」

「大丈夫……です」

「あっ、ちょっと待っててね!」

すっかりタイヨウの存在を忘れていたレイリーは、急いでタイヨウの元に戻った。

「おーいっ!」

「お、どうだった?」

「大丈夫だよ、悪い子じゃないし話も聞けたからキミも行こっ!」

「わかった、サンキューな」

「はやくはやくっ!」


ベンチにちょこんと座り俯くリップル。

「リップルちゃんおまたせーっ!」

レイリーの声に少し驚いて小さく身体が跳ねる。

「この人はタイヨウ君って言って、アタシとパーティ組んでるのっ」

「こんにちはっ」

怖がらせまいと笑顔を見せるらタイヨウ。

「こ、コンニチハ……」

「それで、この子がリップルちゃん!アタシ達の調べてた事に興味があって話しかける機会を伺ってたんだってっ!」

「あの、こそこそ付け回すようにしてゴメンナサイ……」

「そうだったのか、気にしなくていいからね」

「これからさっき調べてた内容をお互い話合うんだけど、良かったらリップルちゃんも一緒にする?」

「……いいんですか?」

タイヨウの反応を確認するリップル。タイヨウとしては正直気は進まなかったが、このまま帰すのは可哀想だと判断して了承する。

「あぁ、いいよ」

「ありがとうございますっ!」

リップルの可愛らしい笑顔にふたりは心を撃ち抜かれ、リップルに至っては我慢しきれず、ついにリップルを抱きしめてしまった。

「かわいー!」

「はわっ?!」


ゴーン…ゴーン…ゴーン…

思いがけず出会ったひとりの少女。しかし共に行動すれば

彼女に危険が及ぶ可能性がある、ましてまだ幼い彼女を巻き込むわけには行かない。そんな心配をよそに彼女の笑顔と時を告げる鐘の音がタイヨウの胸を強く打った。

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