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この世界に生きる僕ら  作者: くーる
始まりの街
7/43

この世界のあれこれ 上


朝のひと騒動を終え、ハードラックについての情報を得る為タイヨウ達は再び出かけることになった。


「よし、じゃぁ行くか

なぁレイリー、調べ物はどこでするんだ?」

「この街の図書資料館の場所わからないんだよね……支配人さんに聞いた方がいいかもっ!」

「あの支配人か……あの人はどうも苦手なんだよな」

「えーっ?いい人だよー?」

「それはわかるんだけどさ、でもこの際仕方ないよな……わかった、行こう」



「お出かけでございますか?」

「あ、はい、この街の図書資料館に行きたいんですけど、場所を教えてもらえませんか?」

いつまた余計な事を言い出すか警戒しながら話を進めるタイヨウ。レイリーには余計な事を言われた際に面倒なので先にホテルを出させておいたのだ。

「かしこまりました、すぐに地図をご用意します」

「ありがとうございます」

支配人はフロントの引き出しから地図をとりだし、なにやら書き込んでいる。

「こちらをどうぞ」

渡されたのは、広げればタイヨウの上半身が丸々隠れてしまう程の大きな街全体の地図だった。

「図書資料館の場所に印をつけておきましたので、大通りを行けば迷う事はないかと」

今朝の悪ふざけとも取れる対応がまるで嘘のように紳士な対応をする支配人。

「わざわざありがとうございます、助かります」

「いえいえ、お役に立てください」

「行ってきます」

とは言え長居をすればまた余計な事を言われかねない、レイリーを待たせている事もあって早々とホテルを出ようするタイヨウ。しかし、

「恐れ入ります、ミソラ様」

「はい?」

「引き止めてしまった上に私事で恐縮なのですが……」

何を言われるかと一瞬身構えたが、なにやら真剣な面持ちの支配人にタイヨウは嫌な顔をせず返答した。

「なんですか?」

「よろしければお連れ様がお持ちになっていた鶴の紙細工を私にも一つ、こしらえて頂けませんでしょうか」

「えっ、あぁー、いいですよ、近いうちに作っておきますねっ」

「ありがとうございます、離れて暮らす娘へのプレゼントにと思いまして……もちろんお礼はさせていただきます」

真剣な面持ちからは想像出来なかった依頼に呆気に取られるも、家族へのプレゼントとあれば断るのも悪いと承諾した。

「そうなんですね、わかりました

あとお礼なんかいらないですからね」

「いえいえ、無償で頂いた物をプレゼントにするのは父として顔が立ちませんのでさせてください」

こういった場面では惜しげも無く紳士を発揮する支配人に普段からこうであってくれと思うタイヨウ。

「なるほど、とりあえず了解しました。」

「お時間を取らせてしまいまして申し訳ありませんでした、

お気を付けて行ってらっしゃいませ」

「ありがとうございます」


ホテルを出ると、外で待たせてたレイリーが霊獣と戯れていた。ホテルは裏通りに面しているが、朝になれば全ての部屋に日が差し込む好立地。それはホテルの正面玄関付近も例外では無かった。

「いい天気だねー、フーちゃん」

フォッホー

「レイリーおまたせ」

「あ、きたきた、場所分かったー?」

「あぁ、地図も貰ったし大丈夫だ」

「遅かったけどなんかお話ししてたの?」

「支配人さんがさ、レイリーにあげた鶴の折り紙を欲しいって」

「そうなの?……ふーん、作ってあげるの?」

何故か急に態度が変わるレイリー。

「まぁ世話になってる人だし断る理由も無かったから、今度作って渡す事になったよ」

「えーっ?じゃぁ世界に一つだけじゃ、なくなっちゃうじゃんー」

「何言ってんだよっ、あんなの誰でも作れるだろ?」

「作れないよ!普通の紙一枚であんなの作れるなんてすごい事なんだよー?!」

タイヨウはてっきり完成度の高い折り鶴を褒められていたとばかり思っていたが、どうやら折り鶴その物がこの世界では珍しい物なんだと確信した。

「そ、そうなのか……でも離れて暮らす娘さんにって言ってたし」

「うっ、それなら仕方ないか……わかった、いいよ!」

「なんでレイリーの了承がいるんだよ……」

「なんでもなの!でももう他の人に作ったらダメだよ!」

折り鶴を作って渡したあの時、レイリーがものすごく喜んでいた事を思い出したタイヨウ。

「わかったよ、約束する。」

「よしっ、約束だよ!」

「じゃぁ行くか、フー助行くぞ」

フォッホー

「おー!」


地図を見ながら綺麗に並べられた石畳の歩道を歩いているとタイヨウはある事が気にかかった。

「なぁレイリー、俺達が街に入る時通った門って地図だとどれなんだ?」

地図には東西南北に大門が記されて全部で四つの大門がある事が見てとれる。

「アタシ達が通ったのは北の大門だよっ、アタシのホームがあるのもこの街の北側だし、キミが居た森も北側って事だね」

地図の北側を見てみると街の全体図の外に文字が書かれていた。

「アストフト……?ってレイリーのホームか?」

「うん、アタシのホーム」

僅かだがレイリーの表情が曇ったのを見逃さなったタイヨウ。

「どうした?なんかあったか?」

「ううん、なんでもないよ」

「そっか……にしてもデカイ街だよなぁ」

「この辺りじゃ大きい街だね、でも世界中の街と比べたら真ん中くらいの大きさになるかな?」

この世界がどれだけ広いのか何も知らないタイヨウは興味津々だった。

「ふーん、どんな街があるのか見てみたいな」

「アタシも見てみたいなー」

何かを期待するかのようにタイヨウの方をチラッとみるレイリー。

「そうだなー」

しかしその眼差しはタイヨウに届かなかった。

「そうだね、んー」

「どうした?」

「なんでもないっ!……バカッ」

最後の言葉はあえてタイヨウには聞こえないであろう声の大きさで言い放った。そこに隠された乙女心にタイヨウが気付く術は無かった。

「おっ、そろそろ目印の場所だな…」

そうこうしている内に目的の場所にたどり着くタイヨウ達。

「あ、あれかな?」

「おぉーでかい……つか無駄に派手だな」

まるでどこかの大聖堂の様な外観とタイヨウ達が泊まっているホテルが軽く三つは入りそうな大きさ。

「すごいねー!」

大きな扉の前には、誰もが気付くように大きく注意書きがあった。

『貴重な図書、資料があるため霊獣の入館は御遠慮ください』

「だってさ、残念だったなフー助」

フォッホー…

「ごめんねフーちゃん、ちょっと待っててね」

フォー


中に入ると見渡す限りの本、本、本、歴史 文化 地域 経済 地理 生活 スキルと様々なジャンルに分かれており自由に読む事が出来るようだ

「ほぇー、すごいなぁー」

高い天井や壁にはステンドグラスや彫刻が施されており、その空間を埋め尽くす無数の本。ここだけだけが別世界の様にすらふたりは感じた。

「圧巻だな……」

「うん、結構人がいるねー」

思いのほか賑やかな館内だったが特に注意する人もおらず、話し声を聞いてみるとどうやら勉強会や意見交換などで雑談している人の姿は殆ど無かった。

「雑談と大きな声はダメって書いてあるね」

「資料の内容とか考察とかの話しならある程度許されるのか」

「あっ、奥の方にもう一つ扉があるよっ」

入り口から真っ直ぐ伸びる通路の先にも扉があり、その横の立て札に書かれた文字を確認する。

「サイレントルームか、静かに読みたい人は奥の扉を入って行くんだな」

「アタシ達はここで大丈夫だねっ」

「そうだな、とりあえず……それぞれ資料とか本探してまたここに来ようか」

「うん、じゃ先に席取っておかなきゃだね」

「そだな」

空席を探そうと館内を歩き出すとすぐにこの施設の仕組みに気付く。

「あっ、見て見てテーブルにスフィアが付いてて、なにか書いてあるよっ」

「ん?なになに?」

どうやらテーブルのスフィアにリングをかざせば、一時的に席を予約出来るようだ。20分放置すると予約は切れると注意書にあった。

「便利だねー、ほんとに」

「すごい技術だな、じゃぁこの席を予約しておこう」

席は2人掛けから6人掛けまで様々なサイズがあり、管理人に断れば複数のテーブルを1つにして更に大きく出来るようだ。

「うんっ」

テーブルに設置されたスフィアにリングをかざすとテーブルのスフィアの色が変わる。

「これで安心だね」

「だな、よし……行くか」

「じゃぁ後でねっ」

「はいよー」


タイヨウがまず最初に向かったのはスキルのジャンルだった。自身のみならず周りをも巻き込む可能性のあるハードラックに着いて調べる為だ。

「えーっと、特殊スキル…… は、は、ハードラック……あった」

ハードラックについてはレイリーが言っていた通り、色んな研究者がそれぞれの考察や見解をしており、いくつもの本と資料があった。

「んー、わからん」

とりあえず適当に3冊手に取っておいた。

「あとは……歴史と、生活も見とくか」

合計6冊を持って席に戻ると、既にレイリーが戻っていた。

「あ、おかえりー」

「た、ただいま……なんか照れくさいな」

「うっ、そうだネ……」

まるで新婚の夫婦の様な甘酸っぱい空気に包まれるが、恥ずかしさから話を本に戻すレイリー。

「や、やっぱり君も持ってきたね!ハードラック!」

あまりの深くは考えてい無かったタイヨウは、あっさりと話を引き戻す。

「そりゃぁここに来た一番の目的だからな」

「うん、お互い持ってきたの読んであとで意見交換だね」

「おう、」

「よっしゃー、やるぞーっ」


特に品定めをすることも無く手に取った文献を読む。

「なになに?」

『ハードラックの可能性と危険性について。上


ハードラックはステータスの運が-100を超えると発動するスキルで強制的に闇属性が追加されてしまう。これは主属性にも影響を及ぼすと考えられている。この場合戦闘時にどのような影響があるのか。


魔獣に対しての闇属性の攻撃に関しては、検証の方法が無いので不明だ。五大属性で考えてみる。その前に五大属性についてと精霊属性についての説明をしなければならない。


五大属性とは火 水 土 風 雷 。

そして世界の理を司る二つの精霊属性の光 闇がある。光は霊獣を、闇は魔獣を意味していると考えてもいいだろう。

人として生きる我々は霊獣を召喚した段階で覚醒状態になり、生まれ持った主属性の一つを発現させる。また召喚された霊獣にはもともとの光属性に加え副属性として五大属性の一つが発現する。


この際に霊獣を召喚したマスターと召喚された霊獣の属性が一致した際には、主従属性一致ユニゾンで特殊スキルが発動する訳だがこれはまた別の機会に話すとしよう。


さて、五大属性での場合だ。同じ属性、同じ魔力を込めた同じ魔法を放ち二つの魔法が衝突した場合魔法は相殺される。同じ属性で同じ魔法、しかし込めた魔力に差がある場合は相殺されること無く一方はダメージを受けるだろう。

そして今述べた五大属性を闇属性に置き換える。


闇属性とはそもそも魔獣のみが持つ属性として考えられて来た。人の負の感情を糧に生まれる魔獣。その魔獣が宿す闇属性。人がこの文明の世で生き続けてこれまで闇属性を宿した人は居なかった。スキル ハードラックが発動するまでは。


この世で初めてハードラックを発動させたのは今からおよそ200年前。アレイスト ファフナーと言う男が最初だ。彼は運が-100を超えハードラックを発動した際に急いでギルドに駆け込みそれが発覚。それを確認したギルドは精密な検査が必要と判断して翌日また来てくれと案内しアレイストを帰した。しかし彼は帰路の途中に事故に合い死亡。こうしてこの世で初めてのハードラック発動者は多くの謎を残したままこの世を去った。』

「うわぁ……他人事じゃ無いからな、なんか心配になって来た……」

『しかし、彼の死は無駄にならなかった。アレイストは自らに発動した見た事も聞いたことも無いスキルに対し迅速にギルドに相談すると言う最善の行動をしていた。

ギルドの役人に今の状況を説明しリングオンにて証明。この時にハードラックの存在そして闇属性の強制付与については当時のギルドに居た複数の役人が証言している。


アレイストの死について当時は「偶然」「不慮の事故」として処理されているが500年経った今、アレイストの死はハードラックの影響だったと確信せざるを得ない。


さて、ここからが本番だアレイストによって証明された

人への闇属性の付与。そして魔獣との戦闘時にどのような効果があるか。先にあげた通り五大属性であれば同じ属性、魔力、魔法で打ち合えばそれは相殺されるが闇属性は五大属性とは違って霊属性に分類される。ともなると……

先の五大属性での話は必要だったのだろうか。そう考える人も居るだろう。そう考えてしまっては未来に道を切り開くことは、この先出来なくなる。研究者とは常識に囚われてはいけないのだっ!


しかしだ、そもそも闇属性を攻撃手段として用いる事が出来るのか。私も何度か魔獣と対峙した事はあるが、私自身では魔獣が闇属性を攻撃手段に用いているかどうか観察する暇もなく返り討ちにあった。


卓状の空論では意味がない、実験が必要なのだ。だが実験しようにも対象者が居ない……そこで考えた。居ないなら自分がなればいい。何とかして自らにハードラックを発動させ、そして全てを検証すればいい。そうすれば未だに解明させていない霊属性の真実、ひいてはこの世界の理を知る事が出来る!今回解説しきれなかった全てを私は下巻に注ぎ込む事にしようと思う。


その頃には私は全てを知る最も神に近い存在になっているかもしれないーー著 アイリーン コスター 』

「え……終わった」

どこの世界にもマッドサイエンティストは居るようだ。

「最後の方はもう面倒くさくなってる感がすごかったな」

しかし序盤に関して言えば今のタイヨウにとっては為になる事が多かった。

心に留めて置けず言葉に出てしまっていた事で、読み終えた事がレイリーに悟られる。

「どう?なんかわかった?」

「いや、なんかハズレを引いた気分だな」

「えー?見せて?」

タイヨウから文献を受け取り裏面を確認するレイリー。

「 あ、この文献はギルド認定されて無いね」

「ギルド認定?」

「うん、ギルドが正式に認めた本や資料、文献じゃなくてまぁ言ったら自己出版だね」

「なんか納得出来る……」

「だから信憑性はあんまり期待出来ないかもね……」

「ま、まぁ、得る事はあったよ」


その後、なんだかんだで続きが気になってしまいこの文献の下巻を探したが結局見つからなかった。後でわかった事だがアイリーン コスター が出版したのはこの文献が最初で最後だった。


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