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この世界に生きる僕ら  作者: くーる
始まりの街
6/43

この世界の理


朝食を食べ終えたタイヨウ達はホテルに戻ってきた。

「おかえりなさいませ」

「どうもー!」

朝の一件を知らないレイリーは気さくに対話するも、一杯食わされた形で終わったままのタイヨウは未だに支配人を警戒していた。

「どもっ」

「おや?お客様、ずいぶんと可愛らしい物をお持ちですね」

レイリーはタイヨウが作った折り紙の鶴を、帰ってくるまでの間ずっと両掌の上に乗せて歩いてきたのだ。

「すごいですよねっ!宝物にするんです!」

ジャジャーン!と言わんばかりに支配人に折り鶴を見せるレイリー。

「ほぅ、これはなかなか……鶴、ですかな?」

「そうですっ!」

「とても芸が細かいですな……それに鶴とは縁起の良い

これはどちらでお求めに?」

やはりこの世界に、折り紙と言う文化は無いのかも知れないと確信に近づくタイヨウ。

「あ、俺が作りました」

「なんとっ!素晴らしい特技ですな!それに鶴とは……いやはや」

やたらと鶴に食いつく支配人にレイリーが問いかける。「さっきも言ってましたけど、鶴って縁起が良いんですか?」

「私の故郷では鶴は愛の象徴とされています」

「「えっ?!」」

ふたりの声が重なりフロントに妙な空気が生まれる。

「ミソラ様、ここはやはりダブr「結構です!」

全てを言わすまいとタイヨウが言葉を重ね、このままではレイリーに余計な事を聞かれると判断したタイヨウは、レイリーの手を取り走り出す。

「行くぞレイリー!」

「えぇー?!あ、失礼します!引っ張るなー!」

そんなふたりをお辞儀で見送り微笑む支配人。

「おやおや、手を繋いで行かれるとは……若いとはいい事ですねぇ」


「よし、ただいま!」

「もー!いきなり走ったらびっくりする!」

結局レイリーの手を引いたままタイヨウの部屋に戻ってきたふたり。

「あ、ごめんな」

手を引く必要が無くなりタイヨウはレイリーの手を離した。

「離されちゃった……ていうか支配人さん、なんか言おうとしてなかった?」

支配人の言葉を最後まで聞けなかったレイリー。

「知らないなァ」

だがレイリーはそれよりも気になっていた事があった。

「それにしても…鶴って愛の象徴なんだぁ」

うっとりとした表情で折り鶴を見つめる。

「シラナカッタナァ」

「シラナカッタノカァ……まぁいいや、

そうだ、フーちゃん出してもいいかな?」

「あぁ、構わんよ」

「フーちゃん構わんてさー」

フォッホー

「タマちゃんにイタズラしたらダメだよー」

フォー

レイリーの霊獣はパタパタと静かに卵の隣に着地した。

「さて、その卵はどんな様子かな?」

まるでタイヨウの声に反応するようにピクッピクと動く霊獣の卵。

「「おぉー」」

思わずふたりが声を揃えた。

「元気みたいだねっ」

「そうだな、良かったよ、……お?フー助も卵が気になるか?」

「フーちゃんがタマちゃん隣に座ってる……なんか可愛いかも!」

「今朝落とした事を気にしてるのかもな」

「ふふっ、そうかもねっ」

滅多にお目にかかれないツーショットに見惚れていと、レイリーがある事に気が付く。

「……あれ?タマちゃんに模様が浮かび上がってるよ?」

霊獣の卵の表面に何かを型どった様な模様が浮かび上がっていた。

「ん?あっほんとだな、気付かなかった」

顔を近付けて卵の模様を観察する。

「なんか見たことある様な気がするんだよなぁ……」

「でもハッキリ見えないね。」

「そうだな、ぼんやりしてる……まぁ気にしててもしょうがないか、

そういえばフー助が生まれた時はどんな感じだったんだ?」

「フーちゃんはね……っていうか正直あんまり覚えないんだ」

「そうなのか?」

「うんっ、物心着いた時にはもう一緒に居たからね、でも生まれる直前にピクピクしてたのは覚えてるよ」

「そうか……」

「キミはすっごい珍しいパターンだと思うよ」

「(そりゃそうだ、この世界に来たのは昨日だからな)」


見た目は動物と同じ霊獣達だが、それが故に気になる事がタイヨウにはあった。

「フー助はもう成体なのか?」

「前にも言ったけど霊獣は精霊の類だから身体の成長とかはしないんだよ、日々の経験によって賢くなったりするけど」

「ふーん」

「たぶん卵の大きさも関係ないと思うの」

「そうなの?!」

「うん、卵はだいたいこの大きさかな」

このサイズの卵から小さいハムスターは無いだろうとたかをくくっていたタイヨウだったが、レイリーの話を聞く限りではその可能性も再浮上してしまう。

「じゃ、じゃぁ、リアルサイズハムスターって事もあるかもしれないのか……」

「……霊獣ってね、普通の動物の卵みたいに卵の中で成長してるんじゃなくて、召喚される準備してるようなものなの」

「なるほど……ってそもそも魔獣と獣の違いがよくわかんないけども」

「魔獣は霊獣と似た存在なんだけど、この世界に暮らす人達の負の感情が魔獣を生むの」

「負の感情…」

「……だいたい想像はつくでしょ?」

人が抱く負の感情とは怒りや悲しみ、怨みやねたみ、恐怖、絶望。

「魔獣はね、ただ単に攻撃しても倒せないのが厄介なの」

「そうなのか?!」

「うん、だから近い存在の霊獣に頼るか、属性効果の付いた攻撃じゃないとダメなんだけど……」

「レイリーとフー助の風属性ってやつか?」

「そう、だからあの時アタシはブレスアローで攻撃したの、フーちゃんあんまり攻撃得意じゃないし……」

「なるほどなぁ」

その時タイヨウは思い出した、初めてのこの世界に降り立ったあの時、短剣で魔獣を倒した事を。

「魔獣は霊獣と同じで霊体だから倒した時はサラサラになって消えるの」

「確かに俺が魔獣を倒した時もそうなったな」

「……うん、それでね、人の負の感情から生まれた魔獣は闇を司る存在だから、闇属性が必ず付いてるの」

「闇属性?!」

聞き覚えのある言葉にある可能性を見出した。タイヨウにはハードラックの効果で闇属性が付与している。霊獣もしくは属性効果の攻撃のみ有効なのであれば、あの時魔獣を倒せたのはそのせいでは無いのかと。


「逆に霊獣は正の感情、嬉しかったり楽しかったりその……アイ……だったりコイだったり、キャッ」

両手で顔を隠し小さな声で恥ずかしがるレイリーをタイヨウは見ていなかった。

「いや待てよ、魔獣は闇属性で俺も闇属性?どうなんの?!」

もはやお互いがお互いの話を聞いておらず各々の世界に入り込んでいた。

「とにかく!霊獣は正の感情から生まれるの!」

「え、あ、ハイ」

「それでひとつ気になってた事があって……」

何かを言い淀んでいるレイリーだったが、意を決して話を続けた。

「霊獣を召喚した状態を覚醒って言うんだけど、属性が発現するのもその覚醒した瞬間なの」

タイヨウが魔獣を倒した時からずっと考えていた事。

「まだ覚醒してないキミがなんで魔獣を倒せたのかなって」

タイヨウ自身こんな形で特殊スキルを打ち明ける事になるとは思っていなかった。

しかし同時に良い機会だと自らに言い聞かせた。思えば書かれていたほどの危険という危険も魔獣に襲われたあの時のみだったが、いつレイリーを危険に巻き込むとも分からないからだ。

「なぁレイリー、見て欲しい物があるんだ」

リングオンを唱えてステータス画面を出すタイヨウ。それを神妙な面持ちで確認するレイリー。そしてその時が来る。

「ッ?!なにこれ?!運が-500?!ハードラック?!」

「黙っててごめん、レイリーを危険に晒すかもしれないって思ってたけど何もわからない状態だったから……ほんとにごめん」

タイヨウの決死のカミングアウト。レイリーに何を言われようとも受け入れる覚悟は出来ていた。

「運-500?こんな事ってあるの?ハードラックってほんとにあったんだ……あ、これで闇属性が付与されるんだね、属性重なるってある意味すごいかも……」

タイヨウの決死のカミングアウト。のはずだった。

「あれ?」

「魔獣を倒した理由はわかったけど……-500ってそんな……ふふっ、スゴすぎだよっ」

「笑った?!あの……レイリーさん?」

「あっごめんね!なんか言った?」

「いや、あの、だからですね、ハードラック持ちの俺と一緒にいたらレイリーが危ない目に合うからここまでありがとう的な話を……」

「ヤダッ!」

「ヤダッ?!」

「せっかく仲良くなれたのに、こんな事でキミとサヨナラするなんてヤダ!」

「こんな事って……俺と一緒に居たらレイリーも危険な目に会うかもしれないんだぞ?ハードラックの効果見ただろ?!」

「大丈夫だもん!」

「なにが大丈夫なんだ?!これ以上レイリーを巻き込む訳にはいかないんだ!」

「大丈夫だもん、ちゃんと理由あるもん……」

「……理由って、なんだ」

「あのね、ハードラックって幻のスキルって言われてるの……」

鼻をすすりながらも説明を始めるレイリー。

「確かに長い歴史の中では運が-100を超えてハードラックが発動した人は居たよ?でもハードラックが発動した人はみんな、何かしらの理由ですぐに死んじゃったの」

「な、なら尚更危険じゃ……」

「人が話してる途中なんだよぉ?」

「ごめんなさいっ」

「よろしいっ、ある意味希少なスキルだから色んな研究者や学者の人たちが調べたがってるんだけど、調べる前に全員死んじゃってたんだ……それも1時間以内に」

「いっ、1時間以内に……そうだったのか」

「それにね」

「アッハイ」

「歴史上1番低かった運は-101なの」

「ハードラックが発動してすぐに死ぬから……か」

「うん、だから-500なんて……笑っちゃう数字だけど」

「わ、笑い事ではない気が……」

「はいうるさい、とにかく!昨日今日で-500なんてありえないし、今の今まで君は危険と言う危険にあってない!つまり4週回って大丈夫なの!ハイ論破!」

あまりの勢いに当事者のタイヨウすら丸め込まれてしまった。しかしレイリーの言うように、これまでの発動者は1時間以内に命を落としているのであればと考えついてしまう。

「んー、んん?んー、まぁ今の話を聞く限りだと大丈夫な気もするけど……あまりにも楽観視しすぎな気も」

「大丈夫なの!」

その自信は一体どこから来るのやら。それでもタイヨウは

不思議とそんなレイリーの言葉を信じる事が出来た。

「ハハッ、わかったよっ、笑う門には福来る!レイリーを信じるよ、ありがとう」

満面の笑みを浮べるタイヨウを見てレイリーは我に返る。

「ど、ドウイタシマシテ(危うく勢いで好きって言いそうになった……恥ずかしい……、まだ会って数日なのに……)」

「でもな、レイリー」

「ッ?!ハイッ!」

「明らかに俺の周りで変な事が起こったら迷わず逃げてくれるって約束してくれ」

真っ直ぐレイリーを見つめるタイヨウ。

「ハ、ハヒ、約束……シマス、そ、そんなに見つめないで……」

顔を赤らめ思わず目を逸らすレイリー。

「とは言え、もうレイリーとは離れて1人で全部やる覚悟してたからなんだか気が抜けたな……」

ふぅ、とひと息つく。


「ねぇ、君はこれから……どうするの?」

アイルによって託されたのはこの世界の命運。しかしタイヨウはその事をレイリーに話すわけには行かない。

「朧気だけど……」

記憶喪失という体であるが故に出した苦肉の策。

「やらなきゃならない事がある気がするんだ……まだ全部は思い出せないけど、ひとりで旅が出来るくらい強くなって、金貯めて、旅立てるようにこの街で準備するつもりだ」

この世界の何処かにあるふたつの宝玉を集めて、この世界の神に会いに行くなどとタイヨウが言えるわけが無く、真実を告げられない事が歯痒く感じていた。

「俺にはまだまだ知らない事があり過ぎるからな、この街で出来ることをして置かないとダメなんだ」

「そっか、……あのさ」

「どうした?」

「このまま少しの間、キミと一緒にいさせてくれない……かな?」

「ん?フロスタントで言ってた仮のパーティを正式にするって事か?」

ただ一緒にいたい、そんな思いから不意に出た言葉を別の角度から捉えたタイヨウに動揺を隠せなかった。

「えっ?!あ、 そ、そそそうそう!」

「本当か?!むしろお願いしたいくらいに思ってたんだ!」

後になってから本来の意味で捉えられなくて良かったと思うのと同時に承諾された事にほっとする。

「よよよよかったぁ」

「これからもよろしくな、レイリー」

「こちらこそ、よろしくねっ!」


「そういえばさ、ハードラックの説明欄の④が文字化けしてるんだけど……なんかわからないか?」

スフィア画面は自分の正面からしか見えないのでレイリーと向き合う形になり腕を軽く伸ばす。

「え?どれどれ……?んー?④なんか無いよー?」

「なにっ?!ちょっと見せてくれっ!」

不意にタイヨウの顔が近付く。

「あっ、ウン……顔近いよぉ」

「あれ?!ほんとに無い…なんでだ……?最初見た時はあったはずなのに」

「んー、なんだろう、今度この事も含めて調べてみようよ!」

「そ、そうだな」

「ハードラックはまだ未解明の部分が多いしアタシも詳しく見たわけじゃないからね……あと、ハードラックについては外で話しない方がいいかもね」

「わかってるよ、ギルドで金預けたりホテルで契約する時にいちいちリングかざすから毎度ひやひやしたよ……」

「公共機関的な所じゃ最低限の情報しか開示されないから、それは安心して大丈夫だよっ」

「それなら良かった、一安心だ」

「でもバレるとこにバレたらキミ研究対象になっちゃうから気をつけてね……」

さきほどの話にもあったように、ハードラックは希少価値の高いスキルだ。研究対象が現れても調べる前に命を落としてしまうからだ。

「ハードラックの生存者で、しかも運が-500なんて他に居ないもん……」

「デスヨネ」

「外では不用意にリングオンしない事っ!」

「ワカリマシタ」

世間に知られれば自身だけでなく、レイリーにまで危険が及ぶ可能性もある。今後の行動には注意が必要だと決心した。

「てゆうか、まだお昼の前だしこれから調べに行ってみる?」

色々な事が起きたように感じるも、日はまだ登りきっておらず長い1日になりそうだ。

「そうだな、そうしよう」

「よーっし!じゃぁ早速出発!」

この世界での人生はまだ2日目。頼れる仲間も出来き、好スタートと言えるだろう。

しかしタイヨウ取り巻くのは未だ謎に包まれたスキル、ハードラック。

いつ周りを巻き込むやもしれぬこのスキルは最優先で対処する必要があると考えるタイヨウだったーー


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