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この世界に生きる僕ら  作者: くーる
決戦の地
38/43

ストラトス南地区郊外

 

  レインズの活躍によって切り開かれたストラトスの街へと続く道。


  遠征隊一行は次から次へと現れる魔物を撃退しつつ、ストラトスの街へ入るための大門まで辿り着いたのだった。



 「レインズさん……これって……」


  激しい雨が降り続く中タイヨウが見たのは、開いたままになり機能を失った大きな門だった。


 「街の人々が無事だといいが……」


  空は黒く、日中なのにも関わらず街灯が街を照らしている。


  門の付近に魔獣の気配は無く、偵察隊としてタイヨウとレインズ、そしてアーチャーの三人でストラトス郊外へと進む事にした。


 「馬で行くんですか?」

 「そうだ」


  偵察には基本、隠密行動が必要とされる。

  しかし敵に存在を知られている上に、いつまでも門の付近で他の隊員を待たせているのも危険と判断し、馬に乗っての偵察となった。


  まるで人影が無い街を前後に並んでゆっくりと歩く二頭の馬。

  街並みはアストフトとよく似ていて、所々に石の彫刻が飾られており採石とその加工が盛んに行われていた事が見て取れる。


  すると少し進んだ所でレインズがある事に気が付いた。


 「争った形跡が無いな……。あれだけの数の魔獣に襲われた後であれば、街はもっと荒らされていてもおかしく無いのだが……」


  それを受けてタイヨウが辺りを見渡す。


 「あ、確かにそうですね」


  多少の損壊こそあるが、見る限りでは大きな被害は見られず、それはまるで真夜中の街のような静けさだった。


 「レインズ様、ご報告が」


  偵察を共にしているアーチャーの隊員がレインズの横に並ぶ。


 「今更だが、様は辞めて貰えないか?そんな高貴な人種でも無いのでな。……それで、報告とは」


 「……では、レインズ殿。建物の中に人の気配を感じました」


  観察力と集中力に長け、微かな変化を敏感に察知し対応するアーチャー。

  彼が感じ取ったのは、この街に住む人々の気配だった。


 「確かに感じるな……。恐らく魔獣を刺激しまいと息を潜めているのだろう」

 「ーーッ! ……じゃぁ街の人達は無事なんですか?」


  ストラトスの状況を知って以来、常にレイリーの身を案じていたタイヨウは、思わず大きくなりかけた声を無理矢理抑え込む。


 「その可能性は高くなったな。ともなると……街の占拠や殺戮が目的では無いようだが……」

 「……レイリー。どこにいるんだ……」


  ストラトス郊外の偵察を始めてから約二十分。

  魔獣の気配も無く、ひとまずの安全は確認出来た。

 

 「タイヨウ、気持ちは分かるが急いては事を仕損じる……ここで一度戻ってアグル達と合流するぞ」

 「ーーッ、はい……ッ」


  一刻も早くレイリーの安否を確かめたいタイヨウだったが、単独行動はご法度。

  更に言えば自身にその力が無い事に苛立ち、唇を強く噛み締めた。


  そしてそれを横で見ていたアーチャーがある提案をする。

 「……レインズ殿」

 「何かな」

 「自分の霊獣は蛇なのですが、隠密行動に長けております。

 なのでこのまま霊獣にだけ偵察を続けさせるのは如何でしょうか」

 「ーーッ?!」


  タイヨウの気持ちを汲んだのか、それとも単に効率的な作戦を立案しだけなのか。

  その真意をここで図る事は出来なかったが、タイヨウにとってそれはレイリーの安否を確認する為の近道になり得る話だった。


 しかしーー


 「ダメだ」

  レインズは少しの躊躇ためらいもなく却下してしまう。


 「な、何故でありますか……ッ」

  余りにも早い決断に思わず不服を申し立てる。


 「お主それでもアーチャーか?人どころか動物さえ姿を現さないこの街の中を、一匹の蛇が彷徨いていたらどうなる」

 「くっ……」


 「隠密行動に長けていようと、街路樹が点々としている程度で隠れる場所も無い。むざむざ霊獣を危険に晒す必要など無いだろう」

 「……出過ぎた真似を致しました」


 レインズは「ふぅ……」と小さな溜息を吐いた。


 「弟子の気を汲んでくれた事には感謝する。

 しかし、事は既に一つの街を揺るがす事態なんだ……分かってくれ」


 「申し訳ありません、レインズ殿……」

 「いや、タイヨウの師としては礼を言わせてくれ。

 ありがとう」

 「レインズさん……、アーチャーさん。

 ありがとうございます……ッ」


  降りしきる雨の中、偵察を終えた三人は門の付近まで撤退を始めたのだった。



 「おーう!お疲れさん!」


  大門の付近で待機していたアグル達と合流した三人。

  行路に異常が無いことをアグル告げると、レインズがすぐに出発の合図を出した。


  無事に進行を始め行路を行く遠征隊一行。

  タイヨウは合流した際アグルに渡されたストラトスの地図を広げていた。


 「レインズさん、俺達が入って来たのは南門なんですよね?」


  郊外を滑走する訳にもいかず、ゆっくりでは無いが早くもない速度で進行する一行。


 「そうだな。

  件の採石場は北門を出た先で、ストラトス家の屋敷は北東に位置しているな」


 「ひとまず屋敷に向かうんですか?」

 「あぁ、領主と話が出来れば今の状況もわかるだろうし、レイリー嬢もそこに居る可能性が高い」

 「……わかりましたッ」


  タイヨウ達が引き返した場所を過ぎた後も目立った異変も無く、順調に郊外を進む。


  すると突然レインズが轡を引き馬を止めた。


 「どうしたんです……ーーッ!」


  建物の影から三匹の魔獣が現れこちらを威嚇している。

  平原でレインズが討ち取った魔獣と同じタイプのオオカミの魔獣。


  レインズは後方を一瞬だけ確認すると、そのまま馬を進めた。

 「え、行くんですか?!」

 「大丈夫だ。道はすぐに開く」

 

  馬を降りて交戦する様子も無く、ましてや剣にすら手を掛けないレインズを見て混乱するタイヨウ。


 「なんですか、馬が最強なんですか?」

 「そんな訳ないだろう……、私が出るまでも無いという事だ」


  レインズの言葉の直後、タイヨウの後方から風を切り裂きながら真横を通り過ぎる音が聞こえた。

  「何の音だ?」


  しかしタイヨウはすぐに答えを知る事になる。

  目の前に立ちはだかっていた三匹の魔獣に矢が突き刺さり、魔獣は塵となって消えていったのだ。

 「見事な速射だな」


 「恐縮です」


  タイヨウが「は?」と後ろを振り向くと、矢を放ち終え弓を下げるアーチャーの姿があった。


 「え、今のアーチャーさんがやったんですか?」

 「レインズ殿の手を煩わせる程の相手では無かったからね」

  と爽やかな笑顔を見せたアーチャーの隊員だった。


 「おーい!こっちも大丈夫だぞー!」

  後ろからアグルの声が届く。

  どうやら後方からも襲撃を受けていたようだ。


 「しかし、今更この程度の敵を差し向ける意味が分からんな……」

 「……確かにそうですよね、レインズさんが三桁を一撃で倒した後なのに」


  単なる足止めか、別の意図があるのか。

  郊外で戦闘をすれば少なからず建物やその中に居る住人に被害が及ぶ。

  それが避けられるなら今はそれでいいと考えるレインズだった。



 「ストラトスって結構広いんですね」


  遠征隊一行が南門をくぐり郊外を進行して早一時間。

  街の中心部まではまだ距離がありそうだ。


 「アストフトには劣るが立派な街だ。

 確か人口はおよそ十万人程だったか……」

 「そ、そんなに居るんですか?」

 「それだけの数の人が生活をしているのにも関わらずこの事態……余程の圧力が無ければこの様な事にならないんだがな……」


  謎が深まるばかりの一方で、タイヨウがある事に気が付く。


 「レインズさん、雲が一番濃いのって北の方じゃないですか?」

 「ん?」


  レインズがタイヨウの言葉を受けて空を見上げると、確かに街中心に進行するにつれて雨は酷くなっているが、それをもたらす厚い雲は北の方角……つまり採石場がある鉱山の付近で黒い雲が渦巻いていた。


 「やはりあの場所に何かあるようだな……」

 「魔石が発掘された場所ですよね?」

 「あぁ、報告書にはそうあったな」

 「なんか……あの雲を見てるとザワザワします……」

 「ーーッ」


  レインズはその言葉に思わず身構えた。

  ストラトス領地での進行中、大樹の下でタイヨウから感じられた黒い殺気を彷彿させたのだ。

 

 「……大丈夫なのか?タイヨウ」

 「え?大丈夫ですよ?」


  レインズの心配を余所にタイヨウはあっけらかんとして答えた。


 「杞憂だと良いが……」

 「なんですか?」

 「いや、なんでもない……」


 その後、遠征隊一行は定期的に襲撃されるも難無く切り抜けストラトス市街地へと場所を移した。





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