露一閃
ストラトスの街まであと僅かと言う所で、待ち構えていたかのように現れた魔物の大群。
アグルの指示により遠征隊一行は馬を降り、各々が装備を構え、更に戦闘に特化した霊獣を呼び出していた。
すると「各自そのまま待機しろ!」
レインズは馬を降りる事無く道を外れ平原に入る。
「えっ!?まさかレインズさん!?」
「なんだタイヨウ、わかってるじゃないか……。
その、まさかだよ」
「ああああぁぁ」
あろう事かレインズは敵の大群に向かって馬を走らせた。
「私の剣を特等席で見れるんだぞ?有難く思えっ」
「あっハイ」
全てを悟ったかのように受け入れたタイヨウを見て、何故か嬉しそうに笑うレインズ。
「フフッ、久々に血が沸き立ってきた……!」
「沸いてんのは頭じゃないんですか?」
「お前言うようになったな!」
「ウソですゴメンなさい」
タイヨウの投げやりな態度でさえ可愛く思える程、レインズは気分が昂っていた。
しかしタイヨウ自身、レインズの行動が信用出来なかった訳では無かった。
どちらかと言えば敵地のド真ん中に向かうと言うのに、レインズが一瞬だけ見せた嬉しそうな笑顔を見て呆れ返ったに近かったのだ。
「もう好きにしてください……」
「言われずともそのつもりだ!」
「さいですか……」
敵の大群とは距離にしておよそ200m。
レインズはそこで馬を止め飛び降りた。
「アグルには、ああ言ったが……動くなよ?」
「大丈夫です。動けません」
「ハハッ、違いない。帰ったら馬の乗り方も教えてやる」
「あざ……ーーッ!?」
タイヨウはすぐに軽口を叩けなくなった。
先ほどとは打って変わって張り詰めた空気がレインズを包み、タイヨウもそれに呑まれたのだ。
しかし敵の大群は速度を落とすこと無くレインズを標的に捉え真っ直ぐ向かって来ている。
するとレインズが戦闘態勢に入った。
「フィンブル!来いッ!」
レインズが霊獣を召喚すると同時に剣を抜いた。
現れたのは全身を真っ白な長い毛で覆われた大きなオオカミだった。
「あれがレインズさんの霊獣……?!」
フィンブルは雨音を掻き消す程の遠吠えをあげ、士気を高める。
そんなフィンブルの傍らでレインズは次の行動をとっていた。
剣の柄を胸元まで上げ、目を閉じ自らの属性を剣に纏わせる。
次の瞬間には目に見える程の冷気が剣を包み込み、刀身に刻まれた筋が淡く蒼紫に光輝いた。
「寂然たる水面揺るがす闇よりいでし魔の者よ」
詠唱を始めると足下にレインズを中心とした蒼紫の魔法陣が召喚された。ゆっくりと上昇してゆく魔法陣は、やがてレインズの真上まで浮かび上がり、蒼い髪をその色に変化させた。
「蒼紫の瞳宿す氷獄の番人、レイジー = ロークスの名において命ずる。汝、制約に従い万象砕く雫と成れ」
詠唱を終えた時だった。
レインズの頭上まで登りきった魔法陣が瞬時に収縮し、一粒の雫になりゆっくりと零れる。
「露……一閃ッ!」
レインズが魔法陣の雫を空中で真横に斬り払った。
その直後、レインズに襲い掛かるべく寸前の所まで来ていた魔獣の大群の足元に一つの巨大な魔法陣が形成され
「ひと足……遅かったな」とレインズが呟く。
突如現れた魔法陣からは無数の鋭い氷の柱が突き出し、そこにいる全ての魔獣を貫き一瞬にして凍り付かせる。
「仕上げだ。行くぞフィンブル」
レインズを背中に乗せたフィンブルは、目にも留まらぬ速さで魔法陣の上を駆け抜けた。
氷の柱となって動かなくなった魔獣の群れに脇目も振らず魔法陣の中心に到着すると剣を突き立てる。
「さぁ、楽になれ」
勢い良く剣を魔法陣に突き刺す。
すると魔法陣が淡く輝き、全ての魔獣が一瞬にして砕け散った。
「ふぅ……戻るぞ、フィンブル」
タイヨウは呆然として、文字通り馬に乗せられていた。
目の前で起きた出来事に頭が着いて行かずレインズが声をかけるまでの間、今のシーンが何度も脳内再生していたのだ。
「おいタイヨウ、戻るぞ」
「はわぁい!」
奇声あげるタイヨウに「ふっ、なんだそれ」と鼻で笑いながら馬に乗り込む。
たった今、三桁の魔獣を一掃したとは思えない程に温かな雰囲気のレインズの背中を見てタイヨウは思った。
「めちゃくちゃカッコイイな……」
「ん?何か言ったか?」
「いえ、何も言ってないです!」
「……そうか」
レインズの合図で馬が走り出す。
「あの、レインズさん。レイジー……いぃーーなんちゃらって何ですか?」
「ふふっ、なんちゃらとは失礼な奴だなっ。あれは私の精霊名だ」
「精霊名?」
「そうだ。魔法を使う際、精霊に自らの存在を示す為に名乗る事があるんだ。その時の名だよ」
「カッコイイです」
「そ、そうか?なんか照れくさいな……」
子気味よいリズムで轡を取るレインズ。
行路では待機していた遠征隊は勝鬨を上げていた。




