表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界に生きる僕ら  作者: くーる
決戦の地
34/43

朝焼けの空は


日の出よりもずっと早くタイヨウは目を覚ました。

何故か身体は軽く感じ、頭もすっきりしている。


「ふぅ、支度しよう」


昨日の朝とは違い、ベッドを直すことなく支度を済ました。

どうせメイドが直すだろう。

では無く、そこまで気が回らなかったのだ。


緊張で高鳴る胸の鼓動をうっとおしく感じながらも、昨晩フェリアスに譲り受けた剣を握り締める。

「……ふぅ」


いても立っても居られず、部屋を出ようとするとドアをノックされた。

「はい」

「タイヨウ、起きてるか?」

ドアの向こうから聞こえたのはレインズの声だった。


「はい、もう出れます」

内心、心細くも思っていたタイヨウはレインズの声を聞いて少し落ち着きを取り戻し、剣をしっかり腰に装備して部屋を出た。


「おはよう。眠れたか?」

「おはようございます。思ってたよりちゃんと寝れました」

「それなら良い」


レインズはタイヨウの装いに目をやると「その剣……フェリアス嬢からか?」と問いかける。

「はい。昨日の夜に頂きました」

「良かったな、上等品だぞ?」

レインズの言葉にタイヨウは「……安物だったとしても大切にします」と力強く言葉を返した。

「良い心掛けだ……。では行くぞ」

「はい」



屋敷を出ると、外はこれから遠征に向かうとは思えない程静かだった。

「どうやら皆出発地点に集まっているようだな」

「そうですね、ここから近いんですか?」

「五分〜十分歩けば着くだろう」

「じゃぁ、急ぎましょう」

タイヨウとレインズは、足早に出発地点の北門に向かって歩き出した。


まだ街の人々が活動する前の夜に近い朝。

普段賑わっている大通りに吹き抜ける風は、いつもより冷たく感じた。


「あっ、見えてきましたね」

北門付近では既に各隊が出発前の最終確認をしていた。

「我々第一部隊は先頭だからな、北門下まで行くぞ」

「はい」


途中、アグルや各隊員に挨拶を交わしつつ門の下までやって来た二人。

「遅れてすまない」

レインズが第一部隊の面々に挨拶をする。


「「「おはようございます!」」」

隊員達は確認作業の手を止めレインズに挨拶を返す。


すると潮時と見計らってレインズが指示を飛ばした。

「我々第一部隊は少数精鋭、迅速な判断と行動が必要だ……私の指揮から離れた場合は各自で最善の選択をしてくれ」

「「「はっ!」」」

「私とタイヨウは単騎で剣士が二人になる

前日の支持通り後続はアーチャー、ランサー、ランサー、アーチャーの編成だ」

「「「了解!」」」


傍らで待機していたタイヨウが思わず「レインズさんすごいなぁ……」と声を漏らした。


「ストラトス領地での調査隊は、我々とアーチャーで向かう……頼んたぞ」

二人の後ろに着く隊員を鼓舞するレインズ。

「かしこまりました!レインズ様と戦場を共に出来る事、誇りに思います!」


「そう堅くなるな。柔軟な対応が出来なくなるぞ」

「はっ!」

精鋭部隊の隊員が畏まる様子を見てタイヨウが確信する。

「あれ?もしか無くても、レインズさんてすごい人?」


「あら、ご存知ありませんの?」

見送りの為に門の下に訪れていたフェリアスが、タイヨウに声をかける。

「お、フェリアスおはよう」

「おはようございますわ」


「レインズさんの事なんか知ってるのか?」

フェリアスは軽く咳払いをした後

「レインズ ロクサーヌ様。

鍛冶屋家業の傍ら冒険家として名を馳せ、数百の魔獣をおひとりで殲滅したなど、まさに一騎当千。

いくつもの伝説をお持ちの超が付く強者ですわ」

「え"?それは予想外……」


隊員への指示を済ませたレインズが話に加わる。

「よしてくれないか、フェリアス嬢。

独り歩きした噂に尾びれが付いただけだ」

「またまたご謙遜を……」

「とにかくすごい人だって事は分かったよ……」


すると後ろに控えるアグルが手を振りながら近寄ってきた。

「おーい、そっちの準備はどうだ?」

「……整っている」

「ならそろそろ出発しねーか?早く出るぶんには良いだろ?」

「そうですわね……各部隊の準備が整っているのなら、

それもよろしいかと」


「……総指揮の貴様が決めろ」

「よし、じゃぁ各部隊準備はいいかー?」


「「「「「おおおーー!」」」」」


「じゃぁ、出発前にフェリアス嬢から一言あるから、全隊員門の下まで集合してくれ!」


「「「「「はっ!」」」」」


アグルの一言で遠征隊の全隊員が集まった。


「フェリアス嬢、頼むぜ」


「はい……。

此度こたびの遠征は、様々な危険や苦難が待ち構えているでしょう。

しかし、ストラトス領地の方々は更に辛い思いをしているはずですわ……。

同じ大地に生きる者として手を取り合い、差し伸べ助け合う為に、危険を承知で旅立つ勇敢な皆の無事をどうか祈らせてください」


「「「「「おおおおーーー!」」」」」


まだ星が空に瞬く夜明け前。

冷たい静寂を切り裂たのは、人の為にと立ち上がった熱き男達の魂の叫びだったーー



「タイヨウ行くぞ、乗れ」

フェリアスの激励が終わり、各隊員が持ち場に戻っている最中。

「あ、ちょっと待ってください……すぐに終わりますので」

「……分かった」


皆を見送る為に門の下で待機しているフェリアスに駆け寄る。

「フェリアス決めたよ、剣の名」

「……うん」


「俺はこの剣に『焔一閃ほむらいっせん』って名を着けたんだ」

「うんっ」


「俺はレインズさんの弟子だから……レインズさんの剣を受け継げるように、俺なりに想いを込めた」

タイヨウの力強い眼を見てフェリアスが優しく笑う。

「とっても、いい名だと思うわ……タイヨウにピッタリね」


「ありがとう、行ってくる」

「行ってらっしゃい、頑張るのよ。

でも……無理しないでね」

「おうっ!」

「うんっ!」


タイヨウがレインズの元に戻ると、丁度良く各隊が出発の準備を終えた所だった。


「レインズさん、お待たせしました……お願いします」

「よし、では出発だ!」

「はい!」


「「「おおーー!」」」


タイヨウとレインズを先頭とする馬は静かに歩き出した。

また少し広がろうとしているタイヨウの世界。

星が消え日が登り、空が真っ赤に燃えている。

朝焼けの空はとても大きく、広く見えたーー



門を通り抜け進行を始める。

第二部隊が貨物を積んでる関係で、遠征隊全体の進行速度が遅くなるのは致し方ないのだろう。


「タイヨウ」

「はい?……うおっと」

慣れない乗馬にバランスを取りつつ返事をする。


「フェリアス嬢からの剣の名、焔一閃でよかったのか?」

「一晩考えましたけど……。

俺はレインズさんの弟子だから、俺が師匠の剣を受け継ぐんです。

だからレインズさんの露一閃つゆいっせんに習って、俺は焔一閃ほむらいっせんにしたかったんです」

その表情は見えずとも、タイヨウの気持ちがレインズには伝わっていた。


「ふふっ、全く可愛い弟子だよ、お前は……。

遠征から戻ったらビシビシバシバシ可愛がってやるからな?」

「は……はい。あの、御手柔らかに……」

先程の心意気はどこへやら。

弱気な発言をするタイヨウに「生半可な覚悟では、

私の剣には届かないぞ?」と嬉しそうに返した。

「くっ……がっ、頑張ります!」

「あぁ、頑張ろうな」


アストフトを出て約二時間。

今の所周囲に異常は見られず、雲一つ朝の空。

レインズでさえ、目に見えて警戒している様子は無かった。


レインズとタイヨウの間に括りつけられた荷物を掴みバランスをとりながら、(一人で馬に乗れたらカッコイイよなぁ)と余計な事を考えつつ「この辺りは静かなんですね」と世間話。

「まだアストフト領内だからな……。

だが護衛が居なければ盗賊に襲われる危険もある。

夜になればもちろん魔獣も出るぞ?」


「そうなんですか……でもある程度舗装されてるから、

第二部隊の貨物も安心ですね」

「街と街の間は、どこもある程度舗装されている。

主な運搬手段が馬車になるからな。

貿易、移住と馬車は欠かせない」


「スフィア駆動で動く車とか何か作れそうな気もしますけどね……」

「……風の噂だが、アークセリアスではそう言った物を

研究、開発しているらしいな」

「実用化されれば、すごい便利になりますね」

「そうだなっ」


レインズと世間話をしながらも、タイヨウは周囲を見渡していた。

索敵の意味もあったが、街の外の様子に興味があったのだ。


アストフト領地からストラトス領地までは特に起伏も無く平坦な道が続いており、道の脇に茂みも無く、近道である森も遠くに見える程度。

見通しが良いぶん索敵も容易である。


「後続の様子はどうだ?」

「見てみますね。」

タイヨウが後ろを振り返ると第二、第三部隊共に綺麗な陣形で着いてきていた。


「問題無いですね、アグルさんも見えますよ」

視線に気付き手を振るアグル。

タイヨウは大きく手を振りそれに応えた。

「奴に関してはどうでもいいが……そうだ」と、レインズは上着の胸ポケットをまさぐり「これを渡すのを忘れていた……ほら、首に掛けておけ」と後ろに手を回しタイヨウに手渡す。


「これは……笛と……この丸いペンダントは何ですか?」

長方形の小さな笛と、500円玉くらいの小さなペンダントが紐に繋がれた物を渡された。

「ペンダントを横にスライドしてみろ」


言われるがまま、ペンダントをスライドさせると

小さな鏡が埋め込まれていた。

「鏡……ですね」

「笛はもちろん、周囲に危険を知らせる時に吹く物で、鏡は危険を知らせる必要があるが、音を出せない時に光を反射させて知らせるんだ」


「音を出せない時に……」

「どんな状況かわかるか?」

「うーん……敵に自分の位置を知られたくない時……ですか?」

「概ね正解だな。

音を出せば仲間にいち早く知られられるが、同時にそれは敵にも聞こえてしまう……自分の位置を教える様なものだからな」


「はい、わかります」

「うむ、敵が人間ならば相手は怯んで逃げるかもしれんが、敵が魔獣ならば刺激してしまい仲間を呼ばれる危険がある」

「その時の為に鏡なんですね」


「そうだ。

この二つは大人数で動く時には必要になる物だ。

それは私の持っていた予備だ、やるから持っておいた方がいいぞ」

「はい、ありがとうございます」


「使わなくて済むのが一番だがなっ」

「そうですね。

あ、じゃぁたまに後ろは確認しておかないとですね」

「その通りだ、任せたぞ」

「はい」

タイヨウは早速、後続の様子を確認するために振り向く。

その時だったーー


「……ん?」

「どうしたんですか?」

「いや……向こうの森から気配を感じた」

何かを感じ取り、遥か遠くの森に意識を集中させるレインズ。

「向こうの森って……遠くないですか?目測だけど、500mはありますよ?」


「確かに感じた……一応警戒しておくか。

……タイヨウ、後ろのアグルに向かって鏡で合図を送ってくれ」

「え"?どうやってやるんですかっ?」

合図の方法までは知らないタイヨウが狼狽える。


「三回合図を送ってたら二秒間隔で繰り返してくれ。

アグルが合図に気付き、二回合図が来るまで続けるんだ」

「は、はいっ」

チカッ、チカッ、チカッ、

と、アグルに向けて合図を送る。

チカッ、チカッ、チカッ、


するとアグルがこちらに気付き合図を送り返す。

チカチカ

「あっ、アグルさん気付きました」

「よし、これで第二、第三部隊も警戒態勢に入ったな」


「合図は前もって決めてたんですね」

「決めていたと言うよりは……決まっている、だな」

「決まっている?」

レインズは森へ注意を払いながらも、その疑問に答える。

「合図の統一化を図るためにギルドが取り決めたんだ」

「あ、そっか」と手を叩くタイヨウ。


「アストフトに戻ったらギルドに行くといい。

係りの者に言えば合図の方法を記した紙が貰えるぞ」

「はい。わかりました」


タイヨウの合図から数分後、後続の部隊に動きがあった。

「あっ、レインズさん。二羽の小さな鳥が森の方に飛んでいきましたよ?」

「ん?」とレインズが森に目をやる。

「あぁ、あれは第二部隊の隊員の霊獣だな。

鳥類は索敵能力に長けているからアグルの指示で飛ばしたのだろう」


二羽の霊獣は森に異変が無いか確認しているようだ。

「おぉ〜、森の上を旋回してますね」

「索敵中だな」


ふと、先程のレインズの発言が気にかかったタイヨウ。

「そういえば、なんで第二部隊の人の霊獣ってわかったんですか?」

「第三部隊は武装部隊だ。

故に霊獣も戦闘に向いている中型、大型が多い。

第二部隊は索敵、陽動などのサポート向きの霊獣を持つ人員を配置するんだ」

「へぇ〜、霊獣の特性を活かすんですね」

「そうだな」


二人が会話をしている間に索敵を終え、二匹の霊獣が森から離れた。

「あ、帰ってきます」

じきにアグルから合図が来るはずだ。

後ろを見ていてくれ」

「わかりました」


指示の通りに後ろを向いていると、レインズの言葉通りにアグルがこちらに向けて合図を送信してきた。


チカチカッ、チカチカッ、


「レインズさん。チカチカッ、チカチカッ、って合図が来ましたよ」

「そうか……」

表情を曇らせたレインズ。


「な、なんの合図ですか?」

「やはり森の中に何か居るようだ。

問題無しの合図では無い以上、引き続き警戒は必要だな」


「ほんとに森の気配を察知したんですね……」

「なんだ、嘘だとでも思ったか?」

「そ、そうゆう訳じゃないですけど……」

レインズと対面していないのにも関わらず、横に目を逸らすタイヨウ。

「どうだかな」と意地悪そうに鼻で笑った。


「まぁいい。このまま警戒を続けながら進むぞ。

しばらくすれば村が現れるはずだ。

そこで一度休憩しよう」

「わかりました。合図を送ればいいんですね?」


「分かってきたな。

アグルに向かって素早く五回を二秒の間隔だ」

「はい、わかりました」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ