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この世界に生きる僕ら  作者: くーる
始まりの街
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始まりの街 アストフト


新たな世界に転生して数時間、早くもタイヨウに降り掛かった生命の危機。

そんなタイヨウを救ったのは偶然通りかかったレイリーと名乗る一人の少女。

そしてレイリーの導きによって訪れたのはタイヨウにとって全ての始まりとなる街『アストフト』だった。


無事に門の前までたどり着き、兵士の様な格好をした警備が守る門を何事も無く通り、街に入るタイヨウ達。

「ひとまずお疲れ様!これでとりあえず安心できるね!この街にはね、すごいのがあるんだよ!見て!あのですっかい時計台!」

レイリーが指さした先には、この街の何処からでも見えそうな程大きな時計台が時を刻んでいる。むしろそのように街を設計したのか時計台を街の中心として端に行くに連れて建物が低くなっていた。

「おぉ、すげーホントにでかいな……門の外から見えてたのは時計台だったんだな」

見る限りでは街はレンガ調でまとまっており、地面には石畳が敷かれている。

「っていうか時間の概念は同じなんだな……」

「んー?時間の概念?」

「えっ?あっいや、なんでもない」

記憶喪失者の口からは到底出るはずの無い言葉。タイヨウは迂闊にも呑み込んでおく事が出来なかったのだ。


「んーまぁいいや、あの時計台はね、毎日9時、12時、18時に鐘が鳴るの!綺麗な鐘の音だからここに来て鐘が鳴るといつも聞き入っちゃうんだよね」

「そんなに綺麗な音が鳴るのか、楽しみだな」

不幸中の幸い。レイリーは一瞬気に留めつつも話題を時計台から逸らさなかった。

「レイリーは、よくこの街に来るのか?」

自分の失言に話題も戻させまいと、更に別の話題を振るタイヨウ。

「アタシのホームからはちょっと距離があるから簡単には来れないんだよね」

「そうなのか、今回は何しに来たんだ?」

「んー、ちょっと野暮用……かな」

別の話題にする事でその場を乗り切ったが、歯切れの悪い返答をするレイリーだった。


「なんか余計な手間かけさせちゃったな」

「ううん、余計だなんて思って無いし大丈夫だよ」

「ありがとう、ちなみにレイリーのホーム?は、どんな所なんだ?」

「この街と比べたら小さいけど、静かでいい街だよ?キミが落ち着いたら遊び来てね、案内するよっ!」

「そっか、その時はよろしく頼むよ、ちなみにレイリーはいつまでこの街にいるんだ?」

「最初は用を済ませたら帰るつもりだったけど、なんかキミの事ほっとけないし良ければだけど……少しの間は一緒に行動しよっかなって」

このままレイリーと行動が出来れば、ある程度この世界についての常識を得られると思っていたタイヨウには願ってもない言葉だった。

「そ、そうなのか?確かに助かるけど……いいのか?」

「乗り掛かった船ってやつだね!」

「そっか、ありがとう、また借りができたな」

「そ、の、か、わ、り!今晩はご馳走にな……ねぇ、キミ今いくら持ってるの?って言うかお金持ってるの?」

アイルの計らいで小袋に入っていた硬貨。

しかしタイヨウはその硬貨の価値をまだ知らない。


「……えっと、金k「ストップ!」

「ストップ、ちょっと待ってこっち来て」

「な、なんだよ、こんな橋の下で……」

タイヨウはレイリーに手をとられたまま、街に流れる小さな川をまたぐ橋の下に連れてこられていた。

「もしかして金貨……持ってるの?」

先程とは違うレイリーの険しい表情に動揺してしまうタイヨウ。

「あ、あぁ、1枚だけ……だけど」

「いい?よく聞いて、その金貨1枚で贅沢しなき2ヶ月は宿生活が出来るの」

「なっ?!!」

「やっぱりわかってなかったかー、もしやと思ったけど、聞いといて正解だったね」

「あ、ありがとう……」

「この街は治安が良い方だけど、そんな高価な物持ってたらやっぱり狙われたりするから滅多な事が無ければ出さない事、わかった?

もしくはギルドに預ける事だね、引き出す時に手数料は少し取られるけど安心安全便利だよ!っていうかまずギルドに行こう!」

「わ、わかったから引っ張るなー」


「はい到着!」

「近っ!!」

「近くて安心いつでも便利がコンセプトなのっ!」

まるでどこかのコンビニのうたい文句のようだ。

「この街だと大体100店舗くらいギルド支店があるから、いつでもお金預けたり引き落としたり出来るからね!」

「なら使う分だけ残して後は預けるか……」

アイルの計らいで少しの間は困らないが収入の宛は無い。

故にこの時の判断は正解だったと言えるだろう。

「ひとまず全部換金して、銀貨2枚分くらい手元に持っとけば安心だね」


「えっと、銀貨とか金貨が通貨じゃないのか?」

「あ、ごめん説明不足だったね、銅貨1枚が1000シル、銀貨1枚が10000シル、金貨1枚が100000シルに換金できるんだよ」

「なるほど……」

「街で買い物したり普段の生活はシルを使ってギルドからの依頼クエストをクリアすると銅貨とか銀貨で報酬を貰うことが多いんだ」

「ほほぅ、」

また一つこの世界の仕組みを知り得たタイヨウだが、元の世界のように通貨や物価が国よって違うなどの新たな疑問が生まれていた。

「いらっしゃいませ!今日はどのようなご要件ですか?」

そして気が付けばレイリーに導かれ入店を果たしていた。「あ、えっとこれ全部換金してから20,000シルだけ残して預けたいんですけど」

「かしこまりました!では換金手数料500シル、お預かり手数料500シル、合計1000シルを差し引きますのでお預かり額は114,000シルです!それではこちらのスフィアにリングをかざしてください!」

受け付けの女性が示したのはカウンターの上に設置された大きな赤い石。タイヨウは言われるがままにリングをかざす。

ピロリーン!!

「ありがとうございます!リングのステータス項目に残高が正しく表示されていますか?」

言われるがま確認するとのように映像が投影された画面の右上に114000シルと書いてあった。

「こうゆう仕組みか…はい、確かに確認しました」

「ご利用ありがとうございました!」

用を済ませタイヨウが外に出ると、レイリーが霊獣と戯れていた。

「フーちゃんヨシヨシ、あ、終わった? 」

フォッホー

「お待たせ、無事に終わったよ、今は……16時か、晩飯には早いか?」

「そうだね、ちょうどいいからホテルに荷物置きに行こうよ!君の場合長期契約だから時間かかると思うし!」

ギルドでやり取りをしている間レイリーに預けていた卵を受け取る。

「そうだな、いつまでも卵持ったまま行動できないし」

「じゃぁ決まりだねっ!見た感じだとまだ孵化しないだろうし今日はゆっくりしよ、君も疲れてるだろうからねっ」

「悪いな…付き合わせちゃって」

「もー、いいって言ったじゃん!その変わりに今晩はご馳走になるよ!」

「もちろん、好きなだけ食べて飲んでくれ」

「よーっし!オススメのお店あるから晩ご飯はそこにしよう!いいよね?!」

「オススメか、楽しみだな!」

「じゃぁとりあえずホテルに行こ!行くよフーちゃん」

話には無かったがどうやらホテルも案内してくれる様子で意気揚々と先を歩くレイリー。

「不思議な子だな、アオイに雰囲気が似てるし一緒に居て元気になれる、……アオイはどうしてるかな」

レイリーに幼馴染みのアオイと近いものを感じながら歩いているとホテルらしき建物の前に着いた。

「ここだよ!」

裏通りの一画に建てられている割と大きなレンガ調のホテル。この辺りには同じようにホテルがいくつか立ち並ぶが、外観を見た限りでは綺麗にされている方だ。

「おぉ、なかなかしっかりした建物だな」

「アタシは前もって予約してあるけどキミは手続きあるからフロントに行ってね」


中に入り言われるがままにフロントへ行くと白髪はくはつが似合う男性がタイヨウを出迎えた。

「いらっしゃいませ」

「あ、どうも……あの、長期宿泊したいんですけど」

支配人と思われる男性の傍らには尻尾がやけに長い小動物が大人しく座っていた。

「ありがとうございます、何日間ご利用の予定ですか?」

「えっと、とりあえず1ヶ月くらい……あとから延長って出来ます?」

「かしこまりました、宿泊の延長でしたら契約期限2日前までにお申し付け頂ければ可能でございます」

「じゃぁそれでお願いします」

「ありがとうございます、ではお手続きに入らせて頂きますのでこちらのスフィアにリングをかざしてください」

「はい」

ピロリーン

「ミソラ タイヨウ様ですね、お食事無しであれば30日間の宿泊で45000シルでございます、お客様のギルドお預かけの残高から一括でお支払いになりますか? 」

「はい、お願いします」

「ありがとうございます、夜のお食事が必要であれば昼の鐘が鳴る前にお申し付けください、1食1500シルでご用意いたします

また、予定より早く契約を切る際は差額分をお戻ししますのでご安心ください」

「ご親切にありがとうございます」

「恐れ入ります、では最後にもう一度こちらのスフィアにリングをお願いします

契約の完了とドアの鍵の登録を行います」

「はい」

ピロリーン

「ありがとうございます、確認が出来ました

お部屋のドアにスフィアが付いておりますのでそこにリングをかざせばロックが解除、ドアが閉じればオートロックになります

なにかご質問はありますか?」

「特にないです……その霊獣小さくて可愛いですね」

「小さくとも、いざとなれば長い尻尾を敵に巻き付けとても強い電流で相手を攻撃しますぞ」

「へへへぇ……そ、そうなんですかぁ」

「小さいからと侮ってはいけないと言う事ですな、

宿泊中にお困り事や御不明点があればいつでもフロントまでお寄せくださいませ、それではごゆっくり」

「ありがとうございます」


手続きを済ますとロビーで待機していたレイリーがタイヨウを手招きした。

「あ、こっちだよ!終わった?」

「おう、無事に終わったぞー」

「よかったよかった、それで?何号室?」

「あ、聞くの忘れた」

急いでフロントに戻ろうとするタイヨウをレイリーが引き留める。

「待って!えっとね、リングオンしてみて?」

初めて聞く言葉に思わず聞き返す。

「リングオン?」

「あ、スフィアリングの画面出す事だよ!」

「これリングオンて言うんだな……」

「っそ、これから頻繁に使うから覚えといてね」

「りょーかい、どれどれ?おっ、」

リングオンをした画面の隅にホテルの名前が登録されていた。

「ね?ホテルの名前をタッチすれば残り宿泊日数と部屋番号が分かるし、時計機能までついてるんだよ!このスフィアリング万能だよねー」

「ほんとに便利だな」

このスフィアリングに通話機能が着けば携帯電話だなと感じたが今回は言葉を呑み込んでおく事が出来た。

「それでそれで?何号室?」

「えっと、204号室だってさ」

「じゃぁアタシの部屋の隣だね、変な気は起こさないでよー?」

「す、する訳ないだろ!」

小悪魔的な微笑みに一瞬ドキッとしてしまったタイヨウにレイリーが追い打ちをかけた。

「どうだかなー」

「とりあえず荷物置きに部屋行くぞ!」

「はーい、行くよフーちゃん」

フォッホー

この時、そんなやり取りを支配人が優しい目で見守っていた事をタイヨウとレイリーが知る事は無かった。


部屋の鍵を開け、これからの1ヶ月わ暮らすことになる部屋を見て回るタイヨウ。

「入ってすぐの右手にあるトイレは水洗だったり、風呂もユニットバスながらお湯も出る

ドアからまっすぐ行くとベッドがあって、……当然ながらシングルか」

決して豪華な部屋では無いが森や橋の下での野宿に比べれば天と地の差がある。

「安心して寝れる環境があってメシが食える、ほんとにラッキーだ…アイルに感謝だな、

あれ以来ハードラックの影響も無いし…」


タイヨウ脳裏には案外そんなもんなのか?と楽観的な考えすらぎった。

レイリーも荷物の整理をしている頃だろうと、ここまでの疲れからベッドで横になろうとしたが

「卵…どこに置こう…」

辺りを見渡すと貴重品を収める少し大きな物置台の上に金庫の様な箱があり

「これもリングでロック出来るんだな」

卵を置くのにおあつらえ向きな大きさ。タイヨウはとりあえず金庫の上にクッションを敷きその上に卵を置く事にした。

「こんなもんかな、さて少し横に」

コンコンッ

「オーイ! あーけーてー!」

ドアをノックする音と同時にレイリーの声が聞こえる。

「はーい、待ってなー」

ガチャ、ガチャガチャ、

「あれ?」

ドアが開かない理由をすぐに指摘するレイリー。

「あのね! 部屋側のドアにもロックあるの!!」

「あ、なるほど、部屋側から開ける時もロック解除するのか」

ブゥン……ガチャ

「やぁ!さっきぶり!」

「そうだな、荷物は片付いたのか?」

「まぁね!荷物多くないし、それより入っていい?」

突然の申し出に一瞬ドキッとしてしまうも、断る理由もなく入室させてしまうタイヨウ。

「えっ、いいけど……」

「おっじゃまっしまーす、ふーん、部屋の中やっぱり同じなんだぁ」

入るなり部屋をキョロキョロ見比べるレイリー。

「あのなぁ」

「んー?」

「若い女の子が男の部屋に簡単に入るなよ」

「えー?いいじゃーん、別にキミはアタシに何もしないでしょー?」

「ぐっ、しないけど……」

「それにアタシだって普段は男の人の部屋になんか、絶対はいらないよーだっ」

「さいですか」

「…フーちゃんが威嚇してないからってのもあるけどね」

「そうなのか?」

「うん、フーちゃんってね、フクロウだから夜とか森の中とかだと敵の気配とかに敏感だし、ちょっと隠れてるくらいなら簡単に見つけちゃうの」

「さすが猛禽類は伊達じゃないな」

「茶化さないの、でね、あたしもフーちゃんも風属性だから主従属性の一致で『風読み』ってスキルがつくんだけど」

「ほぅ、興味深い」

「もー、話してあげないよー?」

「ごめんごめん」

「まったくー、でね、アタシの風読みはたまに敵の攻撃パターンが読めたり敵の弱点を早くみつけたりできて 、フーちゃんの風読みは周りの人の悪意、敵意を察知するの」

「へぇ、すごいな……そんなシステムがあるのか」

「今度教えてあげるね、それでそんなフーちゃんが君に対して威嚇どころか懐いてる感じさえしてるの、初めてなんだよ?フーちゃんがあたし以外の人に懐くのって」

「そうだったのか、だから得体の知れない俺なんかに

世話を焼いてくれたんだな、ありがとな、フー助」

フォッホー

「いてっ」

レイリーの霊獣を撫でようと手を差し伸べた所をくちばしでつつかれしまった。

「あ、フーちゃん!メッ!」

「これ……ホントに懐いてるのか?」

「……タブン」

「なら……いいんだけど」

ゴーン…ゴーン…ゴーン……ゴーン

「あっ!ほら!18時の鐘だよ!」

レイリーがおもむろに窓を開けると、少し冷たくなった風が鐘の音と共に流れ込んできた。

ゴーン…ゴーン…ゴーン…

「綺麗な鐘の音……」

「ほんとに……綺麗だ」

タイヨウは何故かこの瞬間、異世界に居るんだと実感したのだったーー

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