レインズ ロクサーヌ
「レインズさんっ?!どうしてここに!」
「それはこちらの台詞だ!私は今回の社交会で、アストフト家に献上する飾り剣を持ってきただけだ!」
話を聞いていたアイガールが割って入る。
「レインズ殿、タイヨウ君とは知った仲なのかな?」
「ご挨拶が遅れ申し訳なかった、タイヨウは私の弟子なんだ」
「今日タイヨウ様と出会した際に、レインズ様のお店から出てこられたので、何かあると思っていましたの♪」
うんうんと大きく頷くアイガール。
「それはまた奇遇だな……いや、運命か」
「話の途中で失礼、状況が分からないのだが?」
説明を要求するレインズだったが
「レインズ様申し訳ございません、部屋をご用意しますので、タイヨウ様とそちらで待機して頂きつつ、経緯をお話して頂いても?」
フェアリスやアイガールも支度を始める時間が近いことを察し、致し方なく了承するレインズ。
「……了解した」
「レインズ殿、タイヨウ君、大したもてなしも出来ず申し訳ないな
せめて部屋でゆっくりしてくれ」
「後程わたくしが、これからの事をご説明にあがりますわ」
「わかりました、ありがとうございます!」
「失礼する」
アイガールの部屋を出ると、既に待機していたメイドが客室まで案内をしてくれた。
「さて、説明してもらおうか?アイガールさんの計らいでこの部屋には他の客人は来ないようだ
じっくり聞かせて貰うぞ」
「……はい、実は」
そしてタイヨウは、今まで話してなかったレイリーとの出会いからここまでの事をレインズに話した。
もちろん別の世界から来たことや、この世界の神については伏せたが……
「なるほど、まさかお前がストラトス家のご令嬢とも関係があったとはな」
「レインズさんはストラトスでの話、何か聞いたことありませんか?」
「風の噂程度なら耳にしたが……、
まさか、そこまで窮地にあるとは知らなかったな」
「そうですか……」
「しかしフェリアス嬢は、私に何をさせるつもりなんだ……
飾り剣を献上したら、適当に食べて飲んで帰るつもりだったのに……」
「そういえば飾り剣ってなんですか?」
「意味合いはそれぞれあるが、魔除けだったり、権力を誇示する物だったりと、戦闘用では無い飾る剣だ」
「それをレインズさんが作ったんですか?」
「アイガールさんに頼まれてな」
「レインズさんて……なんかすごい人ですね」
珍しく笑い声をあげるレインズ。
「ははっ、お前に言われても何かな
ハードラッカーで霊獣がドラゴン、そのドラゴンもハードラッカーで謎のスキルを持ち?
さらにはアストフトと、ストラトスのご令嬢とよろしい関係……盛りだくさんだな」
「な、なんか皮肉ってるみたいに言わないでくださいよ」
「お前をからかっていると、本当に退屈しないよ」
「やめてくださいってば……」
緊張から解き放たれ談話をしていると、客室のドアが叩かれフェアリスが入室して来た。
「失礼致しますわっ、ずいぶん賑やかですわね」
そこには、パーティードレスに身を包んだいつもとは、また一味違うフェアリスが居た。
「おぉ、すごい綺麗だなフェリアス」
「なっ……ま、まぁ当然ですわっ!」
それを見ていたレインズは気付いていた。
(おぉ、照れてる照れてる)
「いつもよりお嬢様感が増してるな」
「い、いつもよりと言うことは……普段もお嬢様らしいと言う事……?」
続けて、生暖かい目で見守るレインズ。
(頑張ってお嬢様らしくしてる分、そこを褒められると嬉しいんだろうな
タイヨウの奴、天然のジゴロなのか?)
「まぁ、素の方も元気でいいと思うけどな」
「……はぅ」
そして確信したレインズ。
(ダメだコイツ)
「さて、レインズ嬢
これからの事を聞きたいのだが?」
「はっ!そうでしたわ!レインズ様にはタイヨウ様を連れて社交会にご出席していただいて、出来るだけストラトスの情報を集めていただきたいのですわ」
巻き込まれる事を嫌がった訳では無いが、単純に理由を知りたいが故に正論を説くレインズ。
「何故私がそんな事を……それに情報を聞くだけなら、タイヨウは居なくてもいいのでは?」
「もちろんご協力頂ければ謝礼はいたしますわっ
それにタイヨウ様を鍛冶屋としての、一番弟子に仕立て上げ近々ふたりで素材を集める為に、ストラトスへ
行くと言う事にすれば、話も聞きやすくなるかと思いまして」
もっともらしい弁論に対し、レインズは容易にその裏を読む。
「別に私ひとりでも情報くらいなら、聞き出すことは出来る……が、
おおかた何かさせて欲しいと懇願した、タイヨウの気持ちをフェリアス嬢が優しくも汲んだのだろうな」
「うぐっ」
「フェリアス、ありがとうな
レインズさんすいません、やっぱり迷惑ですよね」
「別にお前はこれから悪い事をしようとしている訳では無いんだ、謝る必要など無い
悪態はついたが了解した
弟子の社会勉強も兼ねて承ろう」
「ありがとうございますわ!」
まるで自分の事のように喜ぶフェアリス。
「ありがとうございます!」
「ふん、これも暇つぶしの一環だ」
そしてそれを見て思うレインズ。
(面倒な事になりそうだ、杞憂であればいいが)
「鐘が鳴ったら会場にいらしてください
あと、タイヨウ様に衣装をご用意しましたわ
お召になってください」
「ありがとう、フェアリス」
「では後ほど……失礼致しますわ」
フェアリスは、最後に可愛らしくお辞儀をして客室を後にした。
「さて、ゆっくりしている時間もないぞ
さっさと着替えてしまえ」
「そうですね、じゃぁ着替えてきます」
タイヨウが脱衣所に入るのを確認したレインズ。
「全く……どうしたものかな
ご令嬢との惚れた腫れたなんてのは、いい結果にならないだろうからな……、早めに注意しておくか」
「着替えました」
「馬子にも衣装だな」
「またそんな悪態つくんですから……」
「私なりの褒め言葉だ」
「俺はもっと優しいのが良いですっ」
「生意気な奴だな……」
ゴーン ゴーン ゴーン
「あれ?もう時間ですか?」
「まぁ明日にでも話すか……、行くぞ、タイヨウ」
「はいっ」
客室を出て廊下を歩く二人。
少し歩くと玄関ホールにたどり着く。
そこは既に多くの人で賑わっており、会場となるダンスホールに入るため、招待状の確認をしている所だった。
「うへぇ、人がめっちゃいる……」
レインズとタイヨウは、事前にフェアリスからの通達で通すように言われており、いわゆる顔パスだった。
ダンスホールに入ると、とにかく高い天井に大きなシャンデリアが吊るされている。
まるで大聖堂のような神秘的な空間だった。
「うわぁ、すごいな……」
「あまりキョロキョロするな、大人しくしているんだぞ」
「わ、わかってますよ」
「私は開会の挨拶の時に、壇上に呼ばれ剣を献上する予定になっている
その間お前はひとりになるからな」
予想はしていたが、早くも一人ぼっちが確定する。
「……隅っこでおとなしくします」
「賢明な判断だ
立食形式なのが幸いしたな」
「ほんとに、そう思います」
「開会の挨拶が終わり私が戻ってくるまで、少しかかるかもしれないが待っていてくれ」
「わかりました」
「では、呼ばれたらすぐに出れるよう私は、前に行っておくからな」
「行ってらっしゃい」
レインズが移動していまい一人になり、初めての空間で、見ず知らずの人ばかりで不安を隠せないタイヨウ。
「はぁ、レインズさんはやく戻ってくれーー」
タイヨウは自らも言った通りに、会場の隅に居た。
周りに居る他の領主と見られる者達は、何故か偉そうな態度でいる。
「アイガールさんが特別だったんだな」
おそらく自分より領地が少ない者に対しては大きな態度を取ったり、逆に自分より大きな領地を持ってる人には媚を売るのだろうと考えるタイヨウ。
「って言うか、目の前で今まさにしてるな」
「アイガール殿主催だと安い酒しか出てこんからなぁ」
「庶民が好む物を自らも好いて、
領地の民から好感度を得ようとしてるのでしょうな」
それを聞いていたタイヨウが心の中でつぶやく。
(髭のすごいおっさんと、髭が少しすごいおっさんがなんかムカつく事言ってな、何?髭がすごいと偉いの?)
「アイガール殿は生温いんだっ!
ワシは庶民が好む物なぞクチしとうないわ」
「おっしゃる通りですな」
(アイガールさんの人柄を知らないのか?
本当にいい人なのに)
「にしても、君は知っているかね?ガレリー殿が欠席の理由」
「ガレリー殿は、今いちばん大変な時期ですからな
こんな社交会に現を抜かす余裕などありますま
髭の二人の話を聞いていると、気になる話題になり耳を澄ます。
「……ん?」
「ストラトス家が落ちれば、あの鉱山や採石場は地に浮く、ワシが次の領主になれれば……」
「ーーッ?!」
「しかしストラトス家が落ちようとも、アイガール殿が先に手をまわすのでは……」
開会の挨拶はとっくに始まっていた
しかしこのふたりは、構うことなく話を続ける。
「……アイガールめ、ストラトスに近いからと援助体制を整え恩を売るつもりかっ」
「ストラトス家が落ち尚且つ、アイガール殿の統地を止められれば……」
「次に近いワシがストラトスを頂く事になるな」
ガハハッと下品な笑いをあげる髭。
「私個人としてはストラトス家のご令嬢だけでも、
手中に収めたい所ですな。」
グフフッと汚い声をあげる少し髭。
レイリーの街の事を話しているのは間違いない。
他人とは言え大変な事態になっているのに、助けるのでは無く、自分達の利益しか考えない。
「確かに素行に問題があるようだが美人だからな、ストラトス家が落ちていれば令嬢もただの奴隷だ
飽きた時は売女にでもすればよい」
「グフフ、今のうちに手を打っておかなければ他の領主に先を越されますな
もしや今回の援助でアイガール殿が先手を……?」
「ともなればアストフト家のご令嬢あたりを、誘拐監禁してアイガールの動きを止めるか……」
静かに膨らむ闇。
「そのうちにストラトス家を……ですかな?」
それはやがてタイヨウを包み込む。
「放っておいても落ちるだろうがなっ
こうゆう事は早いに越したことはないっ
ガハハハハ」
自らの衝動を抑える気持ちは、もう無い。
「是非私にも一枚かませていただきたい……グフフ」
タイヨウは、生まれて初めて人に殺意を向けた。
視界は暗くなり、周りの音も聞こえていなかった。
ただ目の前の下衆を殺してやろう、
タイヨウは、それしか考えてなかった。
「では、お主にはアストフト家を……」
静かに体が動き出す。
タイヨウの意志とは関係なく、本能のままに。
歩き出す。
テーブルの上のナイフを手に取って、そのまま喉元を貫いてやろうという殺意が強くなる。
「こんな奴らに生きてる価値なんて無い」
ナイフを掴んだタイヨウは、その勢いに任せ走り出す。
しかし
「ーーッ?!」
「何をしている……いや、何をしようとした」
掴んだはずのナイフが微動だにしない。
レインズがナイフの刃を強く握っていた。
「あ……ぁ、お、俺……」
レインズの手から出た血がナイフを伝って、タイヨウ手に流れた。
「騒ぐな、動くな……」
「れ、レインズさん、俺……」
「大丈夫だ、落ち着け
誰も気付いてない、このまま一度外に出るぞ」
「ぁ……は、はい……」
「話は後で聞く、外に出たらさっきの客室に行くぞ」
「……はい」




