フェリアス アストフト
「……え?なんでフェリアスがレイリーの事知ってるんだ?」
「あの方は……このアストフトの次に、大きいとされている街
『ストラトス』の領主様のご息女であられますわ
立場で言えばわたくしと同じですわね」
「れ、レイリーが……」
「数年前の社交会の時の事ですが、お見掛けしたのを思い出しましたわ
わたくしの父もですが……レイリーさんのお父様も、
とても大らかで優しい方でした」
その話から推測できる可能性をフェリアスにぶつける。
「じゃ、じゃぁ今日の社交会にレイリーも来るのか?!」
「もちろんお招きしてますので、いらっしゃるかと……ただ」
「ただ、ただなんだ?!」
突然険しい表情に変わるフェリアス。
「最近ストラトスでは、妙な事が起きていると噂されておりまして……」
「妙な、事?」
「あまり公に出来ないのですが……、あそこのカフェに入りましょう」
「あぁ…わかった」
時間帯が良かったのか、広い店内には客もほぼおらず、窓際の席に座った事で大きな声でなければ、他に声が聞こえることは無さそうだ。
「ふぅ、ここなら大丈夫ね」
「それで、妙な事ってなんだ?!」
「……約一ヶ月前の話しなんだけど、ストラトス領地の鉱山である鉱石が発掘されたの」
「鉱石?」
「そう、ストラトスは割と採石が盛んな街なんだけど、今まで魔物が多くて近寄れなかった場所を開拓している途中にねっ
黒くて気味の悪い鉱石だったらしいわ」
「そ、それで、どうなったんだ」
「ストラトスの領主、つまりレイリーさんのお父様はそれ以上の開拓、採掘は辞めさせたの
もちろん、発掘した鉱石も元に戻すよう指示したんだけど、物珍しさから高値で売れると思った行商人が勝手に持ち出してしまったらしくて……」
「ーーッ」
「その行商人は結局、ストラトスの領内で不慮の事故により絶命したわ
持ち出した鉱石の行方は不明のまま……ね
それ以来ストラトスでは、干ばつが続いたり謎の病気が蔓延したりと、不幸が続いているみたいなのよ
領地付近に魔物も増えたみたいだし……」
「そんな事が……、やっぱりその鉱石のせいなのか?」
「正直分からないけど、タイミングから考えたら無関係とは言えないでしょうね」
「そんな時に、なんでレイリーはこの街に来てたんだ……」
フェアリスには思い当たる節があった。
「それは恐らく、この街の図書資料館ね」
「レイリーは図書資料館に用があったのか?」
「なぜレイリーさん自身が来たのかは、私にはわからないけど……
少なくとも採石、採掘が盛んなストラトスに比べてアストフトは書物が多いのよ
お父様の趣味がこうじてね
だから何か、解決の糸口が無いかを調べに来たんじゃないかしら……」
「そうだったのか……」
(だから俺のハードラックに興味を?いや、俺のハードラックを知る前からレイリーは、俺に世話をやいてくれた……自分の街が大変な状態にあるのに)
「だから恐らくだけど、今回の社交会には来ないと思うわ」
「……そうか」
「……レイリーさんとの間に何があったのか知らないけど、レイリーさんはきっと、タイヨウには頼れなかったんじゃないかしら」
「ッ!? ……なんでだよっ」
「その様子だと、タイヨウが納得の行く別れ方をしなかったんでしょ?」
「なッ?!なん……で」
「タイヨウを巻き込みたくない、心配かけたくない
理由を話せばタイヨウは首を突っ込む
そうしたく無かったからきっと、レイリーさんは話さなかったんじゃない?」
「……くそっ!」
タイヨウは、頼られなかった事に対しても、話してくれなかった事に対しても、そして何より
「仮にタイヨウに話した所で……、言い方は悪くなるけど、何も解決しないでしょ?」
どこまでも無力な自分に腹が立っていた。
「……あぁ、そうだな」
時間だけが過ぎてゆく。
事情を知った所で、タイヨウがレイリーに出来ることなど、何も無いと分かっていたから。
「それで?」
「は?」
「タイヨウはどうするの?」
「どうするったって……」
「はぁ……あきれた」
「なんだと?」
「レイリーさんは、本当は助けて欲しんじゃないの?
それでも、巻き込めないから言わなかった、それだけの事
去り際のレイリーさんの表情はどんなだった?」
「そ、それは……」
タイヨウは鮮明に覚えていた。
悲しそうに、辛そうにしながら、それでも心配を掛けまいと無理に笑うレイリーを。
「女の子はいつだってね、ピンチの時に白馬に乗った王子様に、助けてもらいたいって思うのよ?」
「で、でもさっきフェリアスが言った通り……、
俺はレイリーのピンチを助けられる力なんて……」
フェアリスのタイヨウを見る目が明らかに変わった。
そして今まで揃えていた足を組み直し腕を組む。
「つくづく情けない」
「っんだと?!」
「わたくしが一目を置いた方は、この程度の者だったのかって事ですわ」
「ーーッ!言わせておけばっ!」
タイヨウの逆上に対し、フェリアスは更に強気だった。
「何故助けに行かぬのです?」
「くっ!言ったろ!……俺ひとりじゃ何も……」
「何故助けを請わないのです?」
「なっ?!俺には、この世界で頼れる人なんてっ!」
声を張り上げるタイヨウ。
それに対してフェアリスは静かに語る。
「……病弱でずっと塞ぎ込んでいた弟
そんな弟に今までで一番の笑顔をもたらしたのは、
あなたが手掛けた紙細工ですわ
それがわたくしに……いえ、わたくし達にとってどれだけ嬉しくて、どれだけ幸せだった事か」
「……ッ」
「言った筈ですわっ
このご恩は必ずお返しする……と
あなた、わたくしを誰だと思っていらして?」
「フェリアス……おまえ、まさかっ」
「ログレス」
指をパチンと鳴らすフェリアス。
「ここにっ」
どこからともなく現れたログレス。
「わたくしは誰かしら?」
「この街アストフトの領主
アイガール アストフト様のご息女、フェリアス アストフト様にございます」
「よろしい
さて、タイヨウ様?
この後どうするべきなのか、まで……わたくしから言わなくてはダメかしら?」
「ーーッ!……助けて、くれっ!レイリーは大切な……仲間なんだっ!」
その言葉を待っていたとばかりに、フェリアスが勢い良く立ち上がる。
「合点承知之助ぇー!ログレス、話は聴いてたわね!
大至急お父様の所に戻るわよ!」
「畏まりました、お嬢様」
「ま、待ってくれ!フェリアスのお父……様?が、動いてくれるわけないだろうっ!」
「あら、ルクトの一件に関して、誰よりも一番に喜んでらしたのはお父様ですわよ?
この紙細工を作った者には、出来うる限りの事をしたい
そう涙ながらにおっしゃってましたわ
そのタイヨウ様の願いとあらば、アストフト家はどんな協力も惜しみません」
「くっ……ッ!」
「丁度良いですわっ
タイヨウ様、あたなも屋敷いらしてくださる?一緒にお父様に事情を説明していただけるかしら?」
「えっ?!俺なんかが……いいのか?!」
「少なくともタイヨウ様は、この街一番の紙細工職人と言っても決して過言ではありません
それだけでもお招きするに値しますわ」
「フェリアス……ありがとう」
「とんでもございませんわっ
さて、話は纏まりました
ログレス、行きますわよ!」
「畏まりました
参りましょう、ミソラ様」
「あ、あぁ、よろしく頼む!」
カフェを出ると、ログレスが用意していた馬車が店の前に横付けされていた。
タイヨウ達は、その馬車に乗り込みフェアリスの父が居る屋敷に向かった。
「で、でかい……」
タイヨウが泊まってるホテルの数倍はある、大きな屋敷。
「なんか緊張してきた……」
「来賓の方々はまだお見えになりませんわっ
今のうちにお父様の所へ参りましょう」
「……わかった」
馬車を降り、豪華な正面玄関を通り屋敷内に入る。
入るとすぐに広い玄関があり、その奥にもう一つ大きな扉。
社交会の会場となるダンスホールになっており、たくさんのメイドや執事が、忙しなく準備を進めている。
タイヨウとフェリアスは、玄関を入ってすぐ脇の通路から屋敷の奥へと歩いて行った。
しばらく歩くと、ひときわ豪華な装飾が施された扉を両側で挟むように、ふたりのメイドがお淑やかに立っている。
フェリアスが扉の前で立ち止まると、メイド達は深々とお辞儀をした。
「お父様、わたくしですわ」
三回ノックをして呼びかけるフェリアス。
「通してくれ」
奥から男性の声が聞こえた。
それと同時に部屋側に居たのであろうメイド達が重そうな扉を開く。
「ただいま戻りましたわ、お父様」
「フェリアス、また勝手に抜け出したようだな
……ん?お客人かな?」
部屋の中はタイヨウが思っていた程派手派手しい装飾や、高そうな壺などは見当たらず
代わりに部屋の壁いっぱいに本が並べられていた。
「は、はじめまして」
「お父様、ルクトの件で……」
「む、そうか
……あぁ、メイド達よ少し外してくれ」
「畏まりました、失礼致します」
「して、フェリアスよ、そちらの方は?」
「ルクトの紙細工を手掛けた、ミソラ タイヨウ様ですわ」
「ご、ご紹介に預かりました、ミソラ タイヨウと言います」
「おぉ!そなたがあの紙細工を!いやぁ会いたかった!どうだ?
とりあえずアワアワで一杯やるか?!」
フェアリスの父とは言え、貴族や金持ちと言えば、凄く肥えた肉体でふんぞり返っているイメージが強かった分、呆気に取られてしまった。
「えっ?!あの、ま、また今度……」
「むむ、そうか……残念だ」
アイガール アストフト
この街アストフトの領主にして、支配人に負けず劣らずのナイスミドル。
「お父様、アワアワなら夜までお待ちください
それに今日ミソラ様がいらしたのは、お話があるからですわ」
「ふむ、あの紙細工のおかげでルクトに笑顔が戻った
毎日ベッドの上で大した娯楽もなく、外でも遊ばせてやれなかったからな……
本当に感謝している、ありがとう
願いを聞こう、なんでも言ってくれ」
「お、お役に立てて光栄ですっ
あの……ですね」
「そう畏まらなくていい、話にくいならフェリアスからでも構わないぞ?」
「いえっ、僕の言葉でお話したいです!」
「ふむ、良い顔だ」
「あの、ストラトスと言う街が今、かつてない危機にさらされて居ると聞きました
その街の領主の娘さんのレイリーさんは、僕の大切な人、大切な仲間なんですっ」
「ふむ、続けてくれ」
「でも僕ひとりでは何も出来なくて、それでもレイリーさんの力になりたくて……、
だから、無理は承知していますがお願いします!どうか力を貸してください!
僕に出来ることならなんでもします!」
「……なるほど」
「お願いします!」
「……フェリアス」
「うんっ」
「むっ、タイヨウ君……と、言ったかな?」
「はいっ!」
「フェリアスが君に心を開いている
ともなれば私の信頼するログレスもまた、君を認めているのだろう……
さらにはルクトの一件で大変な恩がある」
張り詰めた空気に、タイヨウは息を呑む。
「断る理由はどこにも無いな
出来る限りの協力をさせて頂こう」
「ーーッ!ありがとうございます!」
「良かったね、タイヨウ!」
「あぁ!ありがとうフェリアス!」
「むむ?」
「あっ、いえ……すみませんっ」
この街で一番偉い領主の前で、ご令嬢を呼び捨てた事に気付き畏まる。
「あぁ、いや違うんだ
フェリアスが素の方で話しているのを久しぶりに見て驚いたたげだ」
「今じゃもうログレスとタイヨウの前でしか、素にならないからね……、
パパ、ありがとう!」
「ふぃ~やっほぅ~久しぶりのパパ呼び、たまらんなぁ……、タイヨウ君には、またしても感謝だな!」
「あの、ありがとうございます?」
「さて、本題に戻ろうかね
ストラトスに関しては、近々アストフトからも人員の派遣や物資の提供など、何かしらの援助をするつもりだったのだが、タイヨウ君の頼みとあれば本腰を入れよう」
「ありがとうございます!」
「ストラトスからは、今回の社交会に欠席との届けも来ている
しかし、今日は人手が足りないからな……明日にでも部隊を編成してその後、ストラトスに向かわせよう」
「あの、何か僕に出来る事はありますか?!」
「私もパパも忙しくなるし……」
「そうだよな……」
「タイヨウには、出来れば情報収集とかしてもらえたらって思うけど、紙細工職人として社交会に招くのも難しいわね……」
頭を悩ませているとフェリアスが妙案をはじき出した。
「そうだ!いい事は思いついた!」
本日二度目のパパ発言に酔いしれていたアイガールが我に帰る。
「ーーハッ!んん?なんだフェリアス?」
「ちょっと待ってて!たぶんもう来てるはずだから連れてくるわっ!」
部屋の扉まではダッシュ。扉を開けてからはお嬢様モードで小走りに去っていった。
「行ってしまいましたね」
部屋に残されたタイヨウとアイガール。
「フェリアスも最近になって、とても元気になってくれた
公の場に慣れされるために無理をさせてしまい、相当なストレスを感じていたはずだ」
「そうだったんですね……」
「だがある日突然、見た事も無い程に精巧な紙細工を作る人が居ると、嬉しそうに話をしてくれたんだ
それがタイヨウ君の事だったのだな」
「そんな、僕なんか……」
「私も、フェリアスもルクトも、君に感謝しているよ
ありがとう」
「いえ、こちらこそ……本当にありがとうございます」
すると扉の外からフェリアスの声が聞こえて来た。
「お早く、こちらでございますわ!」
「そ、そんなに引っ張らないで頂きたい……ッ!」
誰かを連れてきた様子のフェリアスが、勢いよく部屋の扉を開ける。
「お待たせ!……いたしましたわっ」
「いったい何だと言うのですかっ?」
「あれ?レインズさん?」
「ん?タイヨウ?!ここで何をしている!」
「ビンゴっ!ですわっ♪」




