願い
「紙細工?そんな物でいいのか?」
「紙細工がいいんですの」
「って言うか、俺が紙細工作るの得意って話しは、フェリアスにしてないよな?」
「……実は偶然見てしまいましたの
あなたが四つ葉のクローバーを紙細工で作っていたのを」
「あの時か、まぁ騒ぎ立てないでくれるなら頑張って何でも作るよ」
「本当ですの?!」
「もちろん、お礼だからなっ
なにかリクエストとかあるのか?」
唇に人差し指を当てて考えるフェアリス。
「えっと、小さい動物などで何か作れる物はありまして?」
「小さい動物?んー、ウサギとか、カメとか……
鳥とかも作れるけど、フェリアスが好きな動物はなんだ?」
フェアリスは少し抜が悪そうに話した。
「わたくしと言いますか、弟の為にと思いまして……」
「弟さん?」
辺りを軽く見渡し、周囲には人が居ない事を確認しつつ、なおかつ声を小さくして話す。
「あまり口外はしたくないのですが
わたくしの弟は身体が弱く、いつもベッドで過ごしておりまして……
ずっと元気が無いので、何か良い物があればと考えておりましたのですわ」
「そうだったのか」
「ですので、弟の好きな動物を紙細工にしてプレゼント出来たら、喜んで元気になってくれるかと考えまして……」
「なるほどな、そうゆう事なら任せろ!なんだって作ってやる!」
「あ、ありがとうございますわ!」
「そうだ、どうせならフェリアスも一緒に作ろうっ!」
「わ、わたくしは手先が器用ではありませんので」
「頑張って作ったって気持ちがっ伝われば、弟さんも喜ぶと思うぞ?」
「……ありがとうございますわっ
ではわたくしもやってみますわ!」
「幸い今日は他に人もいないし、ここで作るか?
手頃の紙なら売店にあるだろ」
いつの間にか館内は、タイヨウとフェアリス以外に人の姿は無くなっていた。
「そうですわね!わたくし購入してまいりますわ!」
フェアリスはそう言い切る前に、小走りで売店に向かって行った。
「誰かの為に頑張れるって、すごいなっ
……レイリーも俺のために頑張ってくれてたんだよな」
待っている時間を利用して、持って来ていた本を読んでいるとフェアリスが戻ってきた。
「見てくださいまし!こんなにたくさん購入出来ましたわ!」
両手いっぱいの紙を手にしたフェアリスは、年相応の可愛らしい笑顔をしていた。
「おお?!こんなにたくさん?!
あ、でも余った紙を持って帰って、フェリアスが弟さんに教えてあげても喜ぶかもな!」
「はいっ!よろしくお願いしますわ!」
「よし、じゃぁまずは簡単なウサギからだ!」
その後二人はたくさんの紙細工を作った。
ウサギ、カメ、魚に鳥、気が付けばテーブルは、俺達の作った紙細工でいっぱいになっており、それを見たフェリアスも大喜びをしていた。
「すごいですわ!わたくしにもこんなに可愛い紙細工が作れるなんて感動ですわ!」
「よかったな、フェリアス」
「あなたのおかげですわっ
本当にありがとうございますわ!」
「いやいや、フェリアスが頑張ったからだろっ
これで弟さんも元気になると良いな」
「はいっ!さっそく家に持ち帰って、弟に見せたいですわ!」
「そうだな、早く帰って弟さんを喜ばせてやってくれ」
「このお礼はいつか必ず致しますわ!」
「俺がフェリアスへのお礼で作ったんだから、さらにそのお礼なんていらないよ
気を付けて帰れよ?」
「それでもお礼させて欲しいのですわ!それにそろそろ迎えが来るはずですので……」
フェアリスの言葉のあと、すぐに聞こえてきたのは館内に響く足音。
「こんな所にいらしたのですね、お嬢様」
「あら、ログレス
今日はずいぶん遅かったですわね」
まさに執事と言った姿をしている男性がやってきた。
「まさか、またこちらにいらしてるとは思いもよらず
……そちらの方は?」
「わたくしの友人ですわ
ログレス、ご挨拶なさい」
「失礼致しました
私、フェリアス アストフト様の執事、
ログレス ファールスと申します」
その角度は斜め45度。見事なお辞儀だった。
「お嬢様の御友人とはつゆ知らずご挨拶が遅れました事、お詫び申し上げます 」
ごく平凡な家庭に育ったタイヨウには、この挨拶に応える術を知らなかった。
「え?!あ……いえ、すいません、ご丁寧に……
ミソラ タイヨウです……?」
フェアリスと変わらない位の容姿に反して、礼儀作法をわきまえた対応に驚くタイヨウだった。
「お嬢様と良きご関係をいただき、ありがとうございます
お嬢様は隙あらば邸宅を抜け出し、街を放浪しておりまして……ほとほと困っておりました
保護にご協力頂き、重ね重ねありがとうございます」
「ログレス、クチが過ぎましてよ
主の前で主の陰口を叩くとは、いい度胸をしておりますわね」
「お言葉ですがお嬢様、それはもはや陰口ではごさいません」
主従関係にしてはフランクだなと感じるタイヨウ。面白そうなので見守る事にしていた。
「友人の前で主に恥をかかせるとは、いったいどうゆうつもり?」
ログレスは館内に他の利用者が居ない事を改めて確認するとーー
「毎度毎度何も言わずにどっか行くなって事だよぉ!」「っな!いくら幼馴染みでも、ふたりきり以外でタメ口はダメよ!」
「申し訳ありませんでした」
聞こえるか聞こえないか位の音で下を鳴らすログレス。
「今舌打ちしたわね?!」
「しておりません、昼に食べたニラ玉のニラが歯に」
「どちらにしても!主の前で!する事じゃないでしょう!」
我慢の限界か、思わず吹き出すタイヨウ。
「はははっ!
お前らめちゃくちゃ仲良いんだなっ!」
「まったく……他に人が居ないからいいものを」
「ミソラ様、どうかお願いでございます
またどこかでお嬢様を見かけた際には、保護にご協力を」
「ははは、分かったよ」
「保護って言うなー!」
「お嬢様、素が出ております」
「もういいわ
タイヨウは信用できるし、アンタだってそれをわかってて言ってるんでしょ」
「はて、何のことやら」
「もしタイヨウが怪しい奴なら、とっくに捕らえて牢屋行きにしてたでしょ」
「牢屋?!」
「おや、ミソラ様
ご存知ありませんでしたか?こちらに御座すはこの街、アストフトの領主
アイガール アストフト様の御息女
フェリアス アストフト様でございます」
「なぁっ?!」
「やっぱり知らなかったのね
まぁ私自身、式祭典の時しか公に出ないし無理も無いわね」
「てっきりキャラ作りに必死な痛い娘なのかと思ってたよ……」
「ちょっと!タイヨウまで何て事言うのよ!?」
「ププッ」
「従者のあんたは笑うな!」
「ハハッ、冗談だよっ
どっかのお嬢様だろうと思ってたけど、まさかこの街の領主のお嬢様だとは思わなかった」
「表向きはお嬢様してないと、色々面倒なのよ……」
「だからこそ勝手にあちこち行って、厄介に巻き込まれたらヤバいって言ってんだろ」
ため息混じりに吐き捨てるログレス。
「ふん、アンタが私をしっかり守ればそれで問題無いのよ……」
「おー、これが本物のツンデレかぁ」
「どうゆう意味かわからないけど、バカにされてるのは分かるわ」
ログレスは、一通り戯れ終わって頃合と判断したのか
「さて、とっ
……ゴホン、そろそろお戻りになりましょう
ルクト様もご心配されております」
「そうね、……そういたしますわ
では、タイヨウさんまたお会いしましょう
それまでごきげんよう」
「失礼致します」
「じゃーなー」
フェアリスとログレスが去り、一人になったタイヨウ。
「いやぁ楽しかった
まさかフェリアスが超お嬢様だったとはな」
しかしその余韻はすぐに消え去った。
ローグファリアスのエルフ族は人間を警戒を警戒している。
さらには自分達の秘密に繋がる可能性がある、エルフ族の古原語を知りたいなんて言ったら、火に油を注ぐようなものだ。
「どうしたらいいんだろう
ローグファリアスがダメだったらアークセリアスに行くしか無いか……」
そもそもここからローグファリアスの距離、さらにはエルフ族のいる場所、まだ何も分かっていない。
ここにはもうしばらく通い詰める事になりそうだ。
「……ん?」
帰るために身支度を済ませていると、テーブルの下に紙が一枚落ちていた。
「フェリアスがいた時に落としたのか?……何か適当に折るか」
作ったのは流れ星の紙細工。
テーブルに常設されている羽筆で流れ星の尾を三本描いた。
「なんで流れ星なんか……帰るか」
図書資料館を出て帰り道を一人歩きながら今日一日を振り返っていた。
色んな人に会って、色んな人と話して、色んな事を知った。
我ながら結構充実した一日だったと悦に入る。
という気分には、ならなかった。
「そろそろ日が暮れるな……」




