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この世界に生きる僕ら  作者: くーる
始まりの街
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子守り唄


リップルとローレルと別れたタイヨウ達は帰り道を歩いていた。日中の子供たちの声が混じる喧騒とは違う、一日の疲れを労う大人達の笑い声が店を抜け、通りを行く二人にも届いてくる。


「リップルちゃんとローレルさんはそろそろ家に着いたかな?今日は何食べるのかなー♪ローレルさんも優しそうな人だったし、きっとリップルちゃんの好きなご飯とか作ってあげてるのかなー♪」

上機嫌なレイリーにタイヨウはある事を伝えようとする。「なぁ、レイリー」

「分かってるよ」

「え?」

「あんまり積極的にリップルちゃんとは遊べない……でしょ?」

まさにタイヨウが言おうとしていた事だった。

「あ、あぁ……」

「リップルちゃんにも危険がぁ!って?」

「なんだよ……分かってるなら……」

「心配しすぎっ」

「でも……」

「確かにキミはハードラッカーだけど、アタシは歴史上の人達とは全然違うものだって思ってるよ?」

何も言えなくなってしまうタイヨウ。

「それにね、今日調べてわかった事もあるんだよ?少しだけ話そっか」

辺りを見渡して何かを探すレイリー。

「ここだとあれだから場所を移そう?」


ふたりが訪れたのはベンチが二つあるだけの小さな公園。

「さっきの話って……」

公園の周りは木に囲まれており、通りからも離れているため他に人は居なかった。

「うん、キミと歴史上の人達との違い、それは『死神』についてなの」

ベンチに腰掛け話を始める二人。

タイヨウ 「死神……そうだ、スキルの解説には死神が見えるようになるってあったな」

「実はね、歴史上の人物のスキル解説には『危険が訪れやすくなる』と『闇属性の付与』しか書かれて無かったの」

「本当か?!」

「うん、どの本を見ても同じだった、キミのスキルの『死神が見えるようになる』なんてのは確認されて無いんだよ」

「確かに……俺が読んだ文献にもそんな事は一言も無かった……」

「それで思ったんだけど、キミ……『死神』って見えたの?それとも……今、見えてるの?」

タイヨウはこの世界に来てからの数日間の事を思い返す。「見えて……は無い、……そう言えば!初めてレイリーに助けられた時に襲ってきた魔獣!レイリーが攻撃する少し前から背後にぼんやり黒い影というか、もやが見えてたんだ……」

「やっぱりね……たぶんそれが『死神』なんだと思う」

「確かに、そう言われればそう納得出来るかも知れない……

実際にそれを感じた後に魔獣は死んだし、その後から一度も見てない、だから忘れてたんだ……」

あの時魔獣に見たものを死の予兆と考える二人。


「そこでキミに質問!今、君の目の前に超ラブリーな女の子が居ます!」

「えっ?!どこ?!」

超ラブリーと聞いて辺りを見渡すタイヨウにレイリーが一撃。

「おりゃ」

「ゴフッ」

「その超メガトン級の美少女に死神は見えますか?!」

思いの外重い一撃にタイヨウは声を震わせる。

「わたくしには超メガトン級の美少女しか見えません」

「よろしい」

満面の笑みを受けべ満足気のレイリー。

「続いて質問!この鏡に映っている君の後ろにその死神は見えますか?」

レイリーが持っていた手鏡を向けられ自分の姿を確認する。次にふざけたら殺られると直感したタイヨウは真面目に答えた。

「み、見えません……」

「さらに質問!リップルちゃんやローレルさんに死神は……見えた?」

レイリーは今にも泣いてしまいそうな、しかし真っ直ぐな瞳でタイヨウを見つめる。

「……見えなかったよ」

「それならひとまず誰かに死に直面するほどの危険は迫ってないって、そう考えるのはダメかな?」

レイリーの目尻からは一粒の涙が零れた。

「…そうだな、そう考えられれば俺も少し気が楽になるな……レイリー、ありがとう」


しかしタイヨウは楽観的に考える事など出来なかった。

死神が見えると言う謎の現象。それが及ぼすであろう危険性。だがそれに関しては恐らくレイリーも分かっているであろう。前向きな言葉は並べるが表情は浮かばれないタイヨウ。その時

「ねねっ、笑おっ?」

瞳にまだ涙を浮かべたままのレイリーが精一杯笑った。

「……ッ!」

タイヨウはすぐに自らの為を思い、無理をして笑っているのだろうと気付き言葉を失う。

「キミあんまり笑わないじゃん……?ずっとくちムーってしてたもっと辛くなるよ……だからさっ、笑おっ!」

「クッ……」

その瞬間タイヨウの頭の中を様々な記憶が駆け抜けた。前の世界で命を落とし、守るべき幼馴染みを救えなかった事……。タイヨウはこれまで本当に心の底から笑う事など出来なかったのだ。

そして涙は、自然と頬をつたっていた。

「えぇ?!なんで泣くの?!どうしようごめんねっ?!」「いや、違うんだっ…、なんかレイリーの言葉ですごく安心して……ッ?!」

「大丈夫だよっ」

流れた涙を腕で拭うタイヨウは、気が付けばレイリーに抱きしめられていた。

口では強がりながらも心の中は不安しかなく、ハードラックの影響で周りの人も危険な目に合わせるかもしれない。しかしこの世界は……レイリーは優しかった。

「うっ……くっッ、」

「大丈夫、泣きたい時は泣いていいよっ……キミ君がアタシに言ってくれたみたいにさ、辛かったら泣いていいんだよ」

今まで胸の内に秘めていた気持ちが、言葉と一緒に溢れだす。

「ッ、俺……ほんとはすげぇ不安で……ずっと、すげぇ怖くて……くっ、」

「よしよし……」

「俺に関わったらみんな、危ない目に会うからって……ひとりになろうって……でも俺ひとりじゃなにも…ぅッ、」

「大丈夫、大丈夫だよ……」

時間が……止まっていた気がした。この世界に来て数日。

そのたった数日でも、何も知らない世界で常に孤独を覚悟するの事は頭で考える以上に心を潰していた。

「うっ……くぅッ」

レイリーの優しさが、温もりがこの世界で生きている事を感じさせる。今は一人じゃないとそう、感じさせる。

「きーみがー、わらーえばーせかーいはー、かわーるよー」

初めて聞いたはずのその歌は、タイヨウの心の痛みを溶かしていった。

「きーみがー、ないーたらーぼくーと、わーらおー」

その優しい歌声はまるで、幼いころ聞いた母の子守唄の様に意識を遠ざける。

「きーみがー、わらーったらー ぼくーも、わーらおー」


どれくらいの時か経ったのだろうか。タイヨウは最後の記憶を手繰り寄せながら意識を取り戻す。

「あ、目が覚めた?おはよーっ」

「あっ、あれ?俺いつの間に……って、ええっ?!」

驚き飛び起きここまでの事を思い出した。

「……今日だけ、特別だぞ?」

タイヨウは記憶が無い間、頭をレイリーの膝に預けていた事を悟った。

「ご、ごめん……足痛くなかったか?」

「ごめんは嫌だなー」

「うっ……ありがとう……」

「大丈夫だよっ、十分くらいだったしっ。」

「そんなに……」

「今日一日で色んな事があったし最後の最後で泣き疲れちゃったんだね」

「面目ない……」

気恥しさからレイリーを直視出来ないタイヨウ。

「……大丈夫?」

「あぁ、めちゃくちゃスッキリした、ありがとうレイリー」

「なら良かった♪」

「散々泣いて寝たら腹減ったぁ!肉食いたい!」

「お肉!いいね!行こ行こ!」

「よっし!行こう!」

恐らくこれからもこの悩みが無くなる事はないだろう。しかし、一緒に泣いて、一緒に笑ってくれる仲間が居る事に気付いたタイヨウの足取りはほんの少し、軽くなっていた。


爆安焼肉 ギューギュー


二人が居た公園の割と近くにあった焼肉店に入り、早速肉を焼きながら気になっていた事をレイリーに問うタイヨウ。

「なぁレイリー」

「なーにー?」

「あの、なんか話したら思い出して恥ずかしくなるから言いづらいんだけど、さっき歌ってのって……」

「ふふっ、お母さんがね、よく歌ってくれたのっ」

「そうなのか、だからなんか安心したのかな……」

「代々歌い継がれて来た子守唄なんだよっ」

「そっか、すごい優しい歌だな」

「うん、大好きな歌なんだっ♪」

「俺もあの歌好きだなー、また歌ってくれるか?」

「えっ、それって……」

「ん?」

単純にもう一度聞きたいタイヨウと、それはつまり同じベッドで寝かしつけて欲しいと懇願しているのかと深読みするレイリー。

「い、いい、一緒に寝るって……コトデフカ……」

「えぇ!?あ、いや、違うんだっ!」

「ちょ、ちょ、ちょっとお花摘んできまふぅ!」

あっという間にいなくなってしまったレイリー。

「あぁくそ、子守唄ならそうなる……か?」

自らの発言を反省する傍ら、テーブルの上である物を見つけた。

「おっ、コレは使えるぞっ」


数分後、席に戻ってきたレイリーは落ち着きを取り戻していた。

「いきなりゴメンねっ、いゃぁ我ながら有り得ない勘違いしちゃってお恥ずかしい……」

「俺の方こそ紛らわしい事言ってごめんな、あっそうそう、これ作ってみたんだ」

「んん!なにこれ可愛いっ!フーちゃんにそっくり!」

タイヨウが作ったのはレイリーの霊獣を模した折り紙だった。

「なかなか上手く出来てるだろ?」

「すごいすごい!あっ!ちゃんと立てられるっ!」

「喜んで貰えてよかったよ、あとこれ良かったらレイリーから支配人さんに渡してもらえないか?」

「あっ、鶴二号!」

「逃げ号ってお前……」

「でもキミが渡した方がいいんじゃないの?」

「いや、なんかお礼を渡すからって言われて断ったんだけどなんか押し切られそうでさ……レイリーからなら回避出来るかなって」

少し困った様子で頬を掻く。

「んーでも、お礼ってその人に対する感謝の現れだから無下に断るのも……じゃぁアタシが渡すけどお礼出されたら、

ちゃんとキミが受け取ってねー?」

感謝される程の事では無いと思いながらも、レイリーの言うことに一理あると感じたタイヨウ。

「……そうだな、じゃぁその時は有難く受け取るよ」

「よろしいっ♪」

折り鶴とフクロウの折り紙をテーブルの上に置いて話をしていると、近くに居た他の客が偶然見かけ少し話題になっているのが聞こえた。

「ねぇねぇ、あの紙細工すごくない?」

「え?どれ? あ!ほんとだ!」

「なになに?紙細工?わー!すごい!」


「ヤバい、なんか騒がれてるな……」

「ね?やっぱり凄いんだよこれ!」

「今はそれどころじゃないだろっ、下手に目立つのは避けなきゃ面倒だ」

「そうだった!丁度食べ終わってるし……逃げるべしっ!」

「逃げるわけじゃないけどな、行くぞッ!」


迅速に支払いを済まし店を出た二人はホテルに向かって歩きだした。

「ふぅ、危なかった!だから言ったでしょ?キミの紙細工は凄いのだ!」

タイヨウ自身、ただの折り紙がこんなにまで評価されるとは先程まで信じられなかったが

「金が尽きたら、おり……紙細工で一儲けするかっ!」

冗談で言った言葉をレイリーが間に受けてしまった。さらに

「鶴はもうダメだからねー」

しっかりと、目と口で釘を指されてしまった。

「わ、分かってるって」

「よしよし♪ふんふふーんふふーん♪」

「ふたつも両掌に乗せて歩くとは……喜んでくれてるしまぁいいか」



レイリーは支配人を驚かせようと、二つの紙細工を持っている手を後ろに回しタイヨウが扉を開けホテルに帰ってきた。

「帰りましたーっ!」

「おかえりなさいませ」

「どもっ」

「地図はお役に立ちましたか?」

「はい、助かりました」

実際タイヨウは、リップルの霊獣を探すのにも利用していた。

「その地図は差し上げますので、今後もお役立てください」

「助かります、あっそうだ、レイリーいいか?」

「はいはーいっ!支配人さんはいコレ!」

後ろ手にして隠していた折り鶴を差し出し支配人に手渡す。

「おぉ、コレはお願いしていた鶴ですね!こんなにも早く頂けるとは……ありがとうございます」

「いえいえ」

「それにお客様のような超メガトン級の美少女の方に手渡しで頂けるとは」

「なにそれ流行ってるの?」

「エヘヘそれほどでもぉ……ちなみにその鶴は二号ですよっ!」

「承知しております、一号はお客様がお持ちのですね」

「世界にふたつだけの鶴の紙細工ですっ!」

「ミソラ様、急な申し出にも関わらず、老輩のわがままを聞いて頂きありがとうございます」

「まぁ喜んで貰えて良かったです、ていうか支配人さんそんな歳じゃないですよね?」

「乙女に同じく紳士に歳を尋ねるのはナンセンスでございますよ」

「そうですね、失礼」

タイヨウと支配人、そしてレイリーを和やかな笑い声が包み込んだ。

「なにやら雲が晴れたような……スッキリした表情をされていますね」

思いもよらなかった言葉に呆気にとられた。

「そうですか?」

「ずっと思い詰めたような顔をされていたので、勝手ながら心配しておりました」

タイヨウを元気付けるための冗談だってのかと考えるタイヨウ。

「とりあえず……がんばれそうです」

「私に出来ることがあれば、なんでもお申し付け下さい」

「ありがとうございます」


一通りのやり取りが終わるのをそわそわしながら待っていたレイリーが、ついに支配人に自慢を始めた。

「ねねっ!コレ見てくださいっ!今度はフクロウの紙細工なんですよっ!」

またしても後ろ手に隠していた紙細工をフロントのテーブルの上に立てて見せた。

「おやおやコレは、また会心の出来でございますな……それにフクロウとは」

「フクロウだと何かあるんですか?」

作った張本人はやはり気になっている。

「私の故郷ではフクロウを束縛の象徴として伝えられています」

「束縛?!」

例外無く二人の声が重なる。

「獲物を捕らえる様子からそう言われておりますな、また夜行性で時に獰猛な事から『夜の狩人』つまり夜の営みを意味しておりまして……」

「よ、夜の……イトナミ」

茹で上がったタコのように顔を真っ赤にするレイリー。

「し、知らなかったんです!」

「ミソラ様……ここはやはり、ダb 「結構ですからっ!」

最後まで言わせまいと言葉を被せた。

「行くぞレイリーっ!」

「あっ、そんな強引に……優しく……して……」

「誤解を生みそうなこと言うなっ!」

気が抜けたかの様に立ち尽くすレイリーの手を取り走り出す。

「おやおや、少し戯れが過ぎましたかな……、それにお礼をお渡しし損ねてしまった、明日にでもお渡しするとしますか」


レイリーの手を引いたまま自室に戻ったタイヨウ達。

「くそーっ!あの支配人め!やっぱりただの変態紳士じゃねーかっ!」

「あ、あの……」

「あぁごめんなレイリー、急に引っ張ったりして……あれ以上あそこにいたらろくなことにならない気がして」

「だ、大丈夫……デス」

「しおらしいですねぇ、なんででしょうねぇ……。

なんかデジャヴですねぇ、っと違う、あの人の故郷での話だしそんなつもりじゃなくてだな……」

「っハッ! そ、そうだよねっ!いきなりあんな事言われたかびっくりしちゃった!」

どうやら正気を取り戻した様子のレイリーだが、今度は逆にタイヨウが取り乱していた。

「誰だってびっくりするよな!部屋一つにしてダブルベットにしますか?なんて言われたらなっ!」

「そうなの?!アタシ達って支配人さんからそうゆう風に見られてるの?!」

「ああいや違うんだ!」

レイリーには聞かれないように今までやり過ごして来たのを自ら吐露する大失態。

「えっと……その……」

「あああああの人の悪ふざけだから気にしなくていいぞ?!」

「う、うん……」

そして訪れる静寂、タイヨウは時間が止まってる気がしていた。そして思う。

「今度あの人に椿の花でも折って投げつけてやろうかな……」

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