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この世界に生きる僕ら  作者: くーる
始まりの街
1/43

導き合う心

 

「いゃぁ……まいったなぁ……」


聞き慣れない男性の声に俺はふと意識を取り戻す。

そもそもなんで意識を失っていたかもよく覚えてない。

とにかく今の自分の状況を確かめるために声のする方に顔を向けて重い瞼を開ける。


真っ白な……どこまでも白が続いてそうな空間。

そこにその男は立っている。


「気分はどう?」

いきなりそんな事言われても……。

なにがどうなってるかも分からないのに。

「いや……あの……」

聞きたいことは山ほどあるのに言葉にならない。

「あぁ……そうだよね、いきなりだもんね」

どうやらこっちの心中はある程度察してくれているようで少し安心した。

「突然ですが、あなたは死にました」


そんな事無かった。

俺だってこんな非現実な状況にあってもしかしてとは心の隅で思ってはいたけど……

まさかこんな直球、いや豪速球で来られるとは思いもしなかった。


「ざっくり行き過ぎたかな、えーっと、」

なんなんだこの男……。

「僕はアイル、一応神様ってポジションです」

ここで自己紹介?!まぁ……これも薄々思ってた事だけど。


「ミソラ タイヨウ君 享年16歳

君は学校の帰り道に通り魔に襲われ、その生涯を終えました」

そうだ……思い出した。

いつも通りの1日を終えて家に帰る途中突然ナイフを持った男に襲われた。一緒に帰っていた幼馴染みを……庇って……俺は……。

「あっ!あのっ!アオイ……一緒に居たアオイは無事なんですか?!」

物心着く前から一緒に居た女の子で家が隣同士で両親も仲が良く、家族ぐるみの付き合いをしていた俺の……幼馴染み。

「残念ながら、彼女も……」

「……くそっ!」

通り魔に襲われたあの時俺はアオイだけでも助けようと身を呈した……。


「じゃ、じゃぁアオイもアナタの所に……この場所に来たんですか?!」

「そうだよ、彼女はすごく悲しんでいた

 君が自分を庇って死んだ事にね」

「そんな……アオイ……こんなのあんまりだっ!」

頭の中が真っ白になっていた。

アオイが、いやアオイまでも死んでしまうなんて……。


「アオイは……いまアオイはどこにいるんですか?!」

「自分の状況よりも彼女の心配か……全く同じリアクションだね、まるでデジャヴだ」

一瞬で頭に血が登ったのが自分でわかった。

「……ッ!今はふざけてる場合じゃない!」

「安心して」

「えっ?」

「落ち着いて、彼女にはまた会えるから」


 ……会える?二人とも死んでいるのに?どこで?どうやって?アオイがどこにいるのかなんて聞いたのは俺だけど。


ここはおそらく死後の世界。

ある意味「異世界」ダメだ……全然分からない。

「逆に混乱している様子だね……無理もないか」

「あの……えっと……」

「まぁ順を追って説明するよ、諸々ね」

「……はい」


「まずはこの空間だね、ここは君が思ってる通り死後の世界だ

 君の居た世界で死んでしまった魂がここに来て僕と対峙する」

あれ?俺声に出てたかな?

「でも全ての人の魂ではなくて僕が担当するのは若くして他界した魂

 それも肉体の限界、つまり寿命とかじゃなくて不慮の事故とかそっち系」

なんかいちいち軽いな……

「寿命とか罪をおかして他界した魂はまた別の神が担当してるんだよ」

「はぁ……神様事情ですね、わかりません」


「まぁとにかくこれから君の魂の行き先を今ここで僕と君とで決めるわけだね

 この話の先に君の愛する彼女が何処にいるかそれがわかるんだよ」

「なっ?!べ、別に俺とアオイはそんな……」

「初心だねぇ、神である僕に隠し事は無駄だよ」

にっこりと微笑むその姿はどこか神々しい感じがした。


「神々しいかぁ、まぁ神ですから」

「もしかしなくても心読まれてます?」

「神ですから」

不敵にも思える微笑み。もうそれはいいよ……

「ごめんね」

「またしても心を読まれた……」

しかしアイルはどこかシュンとした表情だ。

「ぐっ、……それより、俺の魂の行き先って……」

「あぁ、そうだった、行き先については生前に君がおこなって来た善意によって決まるし、それによって新しい世界でのステータスが決まるんだ」


「善意……」

「どれだけ徳を積んだか……とも言えるね」

徳……どれだけ良い行いをしたかって事か……

改めて振り返ると…どうなんだろう。

「それにしても」

「はい?」

「自分が死んでしまって、これから何が起こるかわからないって状況なのに落ち着くのが早かったね」

「はぁ」


「大体の人はしばらくうなだれてたり発狂したりとか……まぁ色々いたもんだよ」

「まぁ…なんでしょう、正直自分の将来の姿とか想像出来なかったというか、なんかなんとなく俺は大人になる前に

死ぬと言うかそんな気がしてて……」

「ふぅーむ、この症状は中二病かな?お薬出しときますか?」

「結構です」

「つれないなぁ」

「中二病はともかく自分が死んだ事よりあいつを守れなかった、それだけが心残りというか……」

「確かに、君が取り乱したのは彼女の死を告げた時だけだったね」

「正直自分の死よりもアオイの事の方が受け入れられません、それより、そろそろ本題に……」

「あぁごめんごめん、話しが脱線するのは僕の悪い癖だ

 そもそも善意と結果だけじゃなくその過程も含まれるんだ」


「過程……ですか」

「そう、たとえば街端で苦しそうにしてる人が居て君はすぐに駆けつけようとした

 でもたまたま君より近くにいた人が先にたどり着いて救急車を呼んだ

この場合、君は迷わず人を助けようとして行動した

 けれど近くにいた人が先に助けた

 結果的に君は病人に対して何も出来なかった

 僕達は結果は残らなかったけど助けようと行動した事も評価するんだ」

「なるほど…」


「あとは善意の大小、たとえば 目の前に落ちている空き缶、コレを拾ってゴミ箱に入れたとする、

 たかが1個だけどされど1個、街中のゴミを1人で拾うなんて無理な話

 たしかにたくさん拾えばその分評価もあがるけど目の前で起きている事に対して、善意と言える行動をした場合は

事の大小は抜きにして評価するって事」

「じゃぁ、俺がこれまでの人生でしてきた良い行いがここで精算されるって事か」

「そうゆうこと」


アイルは俺にニッコリと微笑んだ。

しかしその直後表情が暗くなる。

「ただ……」

「た……ただ、なんです……?」

「僕が担当するのは基本若い子ばかりだから 徳を積むには少し時間が短いんだ」

そりゃそうだな…長く生きていればその分いい事をする機会も時間も多い。

「大小やら過程やら言ったけど結局は徳の積み重ねだからね」

もう終わった事だ……これからどうにか出来る事でもない。


「あとね」

「ま、まだなんかあるんですかっ?!」

「君の場合……その、なんていうか……」

なんだ……なんなんだ……

「君……結構な不幸体質じゃなかった?」

「ッ!」

「いやね、君の本質はすごく良いんだ

 困ってる人がいれば手を差し伸べるしゴミが落ちてれば拾う、その年齢ではなかなか善意を重ねてたんだ

 でもね君の行動は裏目に出る事多くなかったかな?」

「…」

確かにそうだ。

 困ってそうな人に声をかけて、道案内を頼まれ引き受けたらいつもの近道が工事中で通れなくて遠回りして、約束時間遅れたらしく逆ギレされたり。

公園に落ちてる空き缶を拾ってゴミ箱に捨てたら、実はゴミじゃなくて缶蹴りで遊んでた子供たちの空き缶で、捨てた事により缶蹴りが出来なくなって子供たちから大ブーイングされたり。


「もちろんさっき言った過程の部分で君の行動は評価されてる

 ただ結果が悪い方に転がった場合は……善意はあまり貯まらないんだ」

ここでさえ自分の不幸体質が関係してくるのかよ……。

「それでね……そのある影響って言うのは君の幼馴染みのアオイさんなんだ

君の不運に影響を及ぼしてるのは いつも近くにいる彼女だったんだよ」


……ある意味自分が死んだ事よりも衝撃的だった。

 運が悪い事に関しては誰のせいでも無い、そう思ってた。

 むしろそれを人のせいに出来る人間なんているわけが無い。

 それが…まさかアオイの影響だったなんて。


「彼女を…恨まないで欲しい

 もちろん彼女が君に影響を及ぼしていたのは完全に無意識だ

 むしろ君の運の悪さをどうにか出来ないかと君の分のお守りを作ってしまう程だ。

 だから、どうか……」


 正直、混乱はしていた。

 でも心の真ん中でハッキリしてる事はあった。


「恨む理由なんか……無いですよ」


アオイが居てくれたから、俺は今日まで腐らずに生きてこれた。

アオイの優しい笑顔に何度も助けられた。

俺よりよっぽど似合う太陽のような笑顔。


『タイちゃんは、タイヨウっていうなまえなのに

 おかおにいつも、くもさんがかかってるみたい』


小さい頃の俺は自分の不運を受け入れられなかった。


『ねぇねぇタイちゃん、わらおっ?

 タイちゃんの、タイヨウみたいなおかお、

 アオイもみたい!いっしょにわらいたい!』


そんな俺を笑顔にしてくれた。


『タイちゃんのおかおに、くもさんがきたら、アオイがふーってするね!』


アオイと居ると心から笑えた。

だから俺がアオイを守るんだって……

「俺は…アオイを守る為ならなんだって……」

はっ、と我に帰ると目の前のアイルが目を潤ませていた。


「やばい、声に出てた」

「声に出てなくても丸分かりですよぉぉ」

アイルの目からは決壊したダムのように涙が溢れた。

「しかも、もう死んでるしぃぃ」

俺はまさに絶句した。そんな俺を尻目にアイルはそのまましばらくダバダバと涙を流していた。

「だ、大丈夫ですか?」

アイルが少し落ち着きを取り戻したようだったから思わず言葉をかけた。

「はい、もう大丈夫です」

と言いつつも、まだ鼻をすすっている。

しかしこんな事で時間を無駄に出来ない。

「あの、アオイが影響してるのはわかったんですけど……」


「そうだったね、実は彼女は君の反対で幸運体質なんだ、

 近くにいて気付いていたでしょ?」


まぁ…困ってそうな人が居たから声かけて、道案内を頼まれ引き受けたらいつもの近道が工事中で通れなくて遠回りして、偶然通りかかった古いCDショップでその人がずっと欲しかった廃番のCDを見つけ大喜びされてお礼を貰ったり。


公園に落ちてる空き缶を拾ってゴミ箱に捨てたら、実はゴミじゃなくて缶蹴りで遊んでた子供たちの空き缶で、捨てた事により缶蹴りが出来なくなったけどアオイも加わり再開。

 アオイが勢いよく蹴りすぎて、公園の外に飛んでった空き缶がランニング中の人に当たって転倒。しかし実はその人は窃盗犯の犯人でそれが逮捕に繋がり警察から表彰。

とまぁ災い転じて福となす。というか災いを無理やり福に捻じ曲げるくらいの幸運。


「彼女はいつだって完璧超人でした」

「アオイさんは幸運を引き寄せる体質なんだね、だから一番近くに居た君に、彼女の幸運の反動が来たんだ」

「でも……それならアオイの家族の方が……」

「おそらく……彼女からの好感度に関係が……」

好感度……?

もしかして嫌われると悪い影響になるのか……?そうだとしたら……


「アオイさん、君の事大好きみたいだからなぁ」

「えっ?!」

「好意が高いほど何故か悪い影響になる」

なんだそれ……なんだそれ!


「アオイさんて根っからの不器用なのかな?」

 そうゆう問題じゃないと思います。

「まぁ、もう、この際いいですよ、もう」

「照れてるね、すっごい照れてるね、リア充なの?1回爆発しとく?」

「てててててて照れてなんか!」

「爆発するね」

あんたがするのかっ?!

「と、とにかく!アオイの影響で俺が不運が続くのはわかりました!本題に戻ってください!」


「あぁああ!」

あちゃー、と聞こえてくるかのようなリアクション。

「またやっちゃったね、ごめんごめん、君の人生の精算だったね」

他に言い方ないのか?それにここまでの道のりがやけに長がった気がする……

「ごめんねってばぁ、さて本題だね」


「……ッ」

思わず唾を呑んだ。

こうゆう時ほんとに唾を呑んじゃうんだな。

「アオイさんの影響により不運が続いた君の善意ポイントは……!ダララララララ……」

アイルは自分のクチでドラムロールを口遊む。

遊んでる場合かっ!

「100です!」


「ひ、低いんですか?!意外と普通なんですか?!」

「めちゃくちゃ低いです」

「そ、そんな……」

「君と同じ年齢の子で普通に生活していれば大体の3000くらいで、君がもし彼女の影響受けていなければ10000くらいだったかなぁ」

アイルは間違いなく遠くを見ていた。俺に目を合わせる気は無いようだ。

しかしそれにしても、アオイの影響力……しゅごい。


「って!そんな事言ってる場合じゃない!俺はどうなるんですか?!」

「本来はこのポイントを消費して今後の行き先とステータスを振り分けるんだけどね……」

俺には100しかないのに、選択肢なんてあるのか?

「ちなみにアオイさんは28000でした」

「にっ、28000?!!……なんか戦闘力みたいだな……」

「彼女にこの事を説明したら……」

『タイちゃんに全部あげてください!』

「って言われたけどポイントの共有は出来ないんだよね」


俺はアオイを守れなかったのに……

「あの……アオイに俺の不運についての説明は……」

「もちろんしたよ、聞かれたからね


 でも君が自分を守った事によって死んだ事は知っているからさ…… 」

『タイちゃんごべんなざぃぃ』

「ってしてた彼女に、彼の不幸は全て君のせいだったんだよ、なんて言え無かったよ……」

アオイ……お前のせいなんかじゃないのに……

「ポイントは低いけど彼の不運の理由はわからない、ってフワフワした感じにしといたよ。」

神様グッジョ…ブ?神様としてそれでいいのか?

「あ、ありがとうございます?」

「いいんだよ」

ここぞとばかりに後光を操るなぁ。


「それでね、君の件に関しては他の神からも色々意見があってね、今からポイント追加は出来ないけど、ある程度の優遇をしようってなったの」

「ほんとですかっ?!」

「っそ、まず最初に君の次の人生の行き先は2つあります

 もともと居た世界に新たな命として転生するか、君の知らない世界にこのまま召喚されるか」

転生……?召喚??生まれ変わる的なのと、このままニューゲーム……的な?

「そんな感じ」

当たり前のように心を読むな。


「あの、アオイは……」

「彼女は別世界に召喚される事を選んだよ、生まれ変わっても基本的に前世の記憶は消去させるし、召喚ならまた君に会えるかもしれないってね」

「じゃぁ俺も…」

「ただね、彼女の場合は規格外のポイントで別世界に召喚出来るうえに、さらに余ったポイントでステータス振りも

来たんだけど、別世界への召喚はそれだけで6000ポイント必要なんだ」

「た…足りない、つか足りないってレベルじゃねぇーぞ!」


「ここで神様チャーンス!テッテレー!」

効果音は常に自分で言うスタイルなのか……

「さっき言った君への優遇がここで発動!なんと彼女と同じ世界にご招待!!ただし条件付き」

おい待て最後をボソッと言うな聞こえてるぞ。


「条件付き?」

「そうなんだよね、条件付き、彼女と同じ世界召喚を選んだ時は君にある事をしてきて欲しいんだ」

条件……ま、魔王を倒せとかじゃないよな。

「そんな大層な事じゃないよ、ちょっといってそこの世界の神を救ってあげて欲しいんだ」

もう心を読まれるのにも慣れたな。

「って違う!逆にハードル高くないですか?!しかもちょっと行ってって……しかも神を救う?!そんな事俺に出来るんですか?!」


「んー、正確には……君たちにしか出来ない、かな」

「俺たち……?もしかして、アオイ……ですか?」

「そーゆーことー」

「ど、どうやって……と言うかなんで俺達が神様を…」

「それをこれから説明するよー、あっちの世界の神の名は

エリウスと言ってね、昔はいい子だったんだけど仕事に疲れちゃったのかなぁ、時々仕事しないで遊び回ってるみたいなんだよね」

神様って意外とやりたい放題なんだな……。


「それでね、その世界ではやれ飢饉やら干ばつやら疫病やらと、大変な事になってるんだよね

 さすがにヤバいって思ったのかたまに仕事するんだけど下界の信仰が薄れたりして彼自身の神力しんりょく

弱くなってしまって首が回らないんだってさ」

「うわぁ……」

「まぁ僕も見てた訳じゃ無いし話に聞いたんだけどね、そんでもって彼の神力を元に戻してその世界本来の状態に戻さないとなんだよね、それを君たちに手伝って欲しいんだ」


アオイと同じ世界に行けるならやるしかないか……。

「それで、どうやるんですか?」

「あっちの世界にある二つの宝玉、 それをそれぞれ手に入れてエリウスに……投げ付けて欲しい」

「投げる?!」

「オオタニ投手ばりに元気よくね」

……ふざけてる……のか?

「本気と書いてマジです」

「ふざけてやがる…っ!つかいい加減心を読まないでください。」

「まぁオオタニ投手どうのは別にあれだけど、とにかくだ!光の宝玉と闇の宝玉を君たちで集めて!エリウスに叩き込んでくれ!さぁ!行くんだ!勇者よ!」

「えっ?!ウソだろ?!色々回収してない話しがまだああああぁぁ…」


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