第4話
「もも肉、タレ3本追加で!ついでに生ビールもお願いします!」
「あ、俺砂肝も食べたい!」
「おい、その塩のねぎまは俺のだからな!」
その日、一生は都内ではちょっと有名な、焼き鳥がメインの居酒屋に来ていた。炭火焼のいい匂いが充満する店内は、ほぼ満席だ。
様々な来客の話し声が、ほどよい喧騒となり、店は活気あふれていた。
なぜこのようなことになっているのかというと、数日前。
一生が高校時代のサッカー部の仲間に連絡を入れたところ、同じ学年だった数人ほどが久しぶりに一生に会うために集結してくれたのだ。
一生は高校を卒業してから、このチームメイト達と距離を置いていた。にも関わらず、連絡を入れたらすぐに集まってくれるなんて、本当にありがたいな…と一生は胸の奥が熱くなった。
「でもさ、一生が元気そうで安心したよ。連絡くれて…嬉しかった。」
と一生に声をかけてきたのは、有馬重孝だ。
重孝は高校時代、一生と一番仲がよく、いつも一緒にいた。ポジションはボランチで、一生に絶妙なパスを出してくれる…頼りになる存在だった。
一生は高校卒業後、都内の大学サッカーで有名な学校へ進学した。プロ入りではなく、進学の道に進むことは、高校3年の夏前にはすでに決めていた。
憧れのスター選手の母校だったからだ。思えば、清城学園を選んだのも、その選手の出身校であるという影響が大きかった。
そして、重孝もまた、一生と同じその大学への進学を決めていた。2人でまた、コンビを組んで大学サッカーを制覇し、いずれはプロになる…当時の一生はそんな未来を思い描いていたのだ。
しかしながら、冬におこなわれる高校生の部活サッカーにおける頂点を決める、まさに集大成ともいえる大会での決勝戦…このときの『あるプレー』が原因でその夢は叶わないものとなる。
………結果としてこの試合で、一生は思いがけない怪我を負ったのだ。
怪我自体は完治こそ難しいものではなかったが、その時の怪我が癖になり、以降頻繁に怪我を繰り返す体質になってしまったのだ。
サッカー選手にとって、怪我が多いのは致命的である。
一生は大学サッカー部での居場所がなくなり、大学のチームからはわずか1年足らずで離れることになったのだ。
重孝は、一生が大学サッカー部を辞めた後もそこに所属していた。2人はキャンパス内で会えば挨拶くらいは交わしたものの、お互い気まずさからか少しづつ疎遠になってしまったのだ。
「重孝、ずっと気にかけてくれてたのに、避けたりして…わるかったな。」
一生は重孝に言った。
「一生の気持ちはよくわかってるから。だから気にするなって。今日は楽しく飲もうぜ!」
やはり、高校時代に同じ時を過ごしただけあるのだろう。ずっと会ってなかったのが嘘のように、居心地がいい。
怪我を負う前までは、共に同じ夢を、同じ目標を持って戦った仲間たちだ。
すぐに昔のような和やかな雰囲気が流れ、みんなそれぞれ食事や酒を楽しんだ。
この飲み会には、当時のマネージャーでもある小泉舞も参加していた。
実は舞とは、高校2年のときに、半年間だけ付き合っていたことがある。
もっとも、最後はサッカーだけに集中したいという一生の身勝手な理由で2人は別れることとなった。
とはいえ舞は、別れた後も部活の時には、以前と変わらず接してくれたため、互いに気まずさというものはない。
いわば、幼かった昔の…淡い思い出の一つだ。
そんな舞と、テーブル越しに目が会った。
2人は、久しぶりだね、と一声交わしたのち、どちらからともなく昔話に花を咲かせた。
しだいに酒は深まり、重孝と舞の3人で昔の突っ込んだ話へと会話は進んでいった。
「ほんっとあの時はショックだったなぁ〜!だってサッカーしたいから別れたいだよ?ひどくない?!」
舞がビール片手に絡んできた。整った顔立ちでふんわりとしたロングヘアからは想像もできないような酒乱だ。
「まあ…普通にひどいな。」
重孝が落ち着いた口調で言った。
「す…すみません。あの時はすみませんでした。」
さすがにこの話になると、一生にとって分が悪い。ひたすら謝り倒す他ない。
「あの頃の一生はサッカーバカでさ…。わたしと付き合ってるときもサッカーに夢中で…寂しかったなぁ〜!」
「どうっせ、わたしのことなんかさ〜、眼中になんてほとんどなかったでしょ!」
舞の酒のピッチは早く、その後も何かと一生に文句をつけてくる。
一生はたまらず、隣の重孝に小声で耳打ちした。
「なあ…こいつって酒癖悪いの?」
「ああ、基本的にからみ酒だ。」
重孝は慣れているのか、しれっと答えた。
「マジかよ…残念だな。」
「可愛いだけにな。」
奇しくも2人の意見は一致する。
舞は喋り疲れたのか、今度はテーブルに突っ伏してスヤスヤと眠りに落ちた。
それを確認すると、重孝は話し出した。
「まあ、許してやってくれよ。これでも舞は、おまえと別れた後しばらく引きずってたんだ。今日久しぶりに再会して…少し気持ちが高ぶったんだろ。」
「一生にはサッカーに集中して欲しくて、当時は言わなかったけど…それなりに落ち込んでたぞ。」
と、付け加えた。
「そっか…。俺、何にもわかってなかったんだなあ。」
一生の言葉を聞くと、重孝は少しだけ口角をあげ、微笑んだ。
「一生は?もう舞のことはいいのか?」
そして、一生に問いかけた。
最後までお付き合いいただき、ありがとうがざいます‼︎