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オーバーラップ  作者: ここたそ
君からのリターンパス
7/18

第3話


「……っくん、…いっせいくん!」



さや沙の力強い声で、やっと我に返ったときには、結婚式をおこなっているメインのガーデン会場からは少し外れた、裏庭のような場所に来ていた。


「とりあえず、その…手が……恥ずかしいです。」


さや沙の言葉に慌てて、手をパッと離す。先ほど連れ出すときから、繋いだままだった。



「……わるい。変なところを見せちゃったね。」



ううん、とさや沙は首を横に振った。


そして、2人の間に漂う重苦しい雰囲気を払拭するかのように、さや沙は口を開いた。



「わたしはね、一生くんのことをもっと知りたい。…うん、知りたい。何を抱えているのかを。」


「…っつ…。」


一生は言葉に詰まる。



「でもねっ、でも全部は知らなくていいと思ってるの。」



そんな一生の様子を見て、優しく諭すようにさや沙は話しかけた。


「誰にだって、言いたくないこと…言えないこと、あるもんね。踏み込まれたくないっていうか…そういうのはよく…わかってるから。無理にね、言う必要はないよ。」



「…ありがとう。」



さや沙の気遣いに、すっと心が軽くなる。優しく、自分のことを気にかけてくれるさや沙のことが、陳腐な表現だがたまらなく愛しかった。


「一生くん、あっち戻ろう!わたし…まだ食べ足りないもん。」


さや沙は、仕切り直すかのように言った。


そして2人は、再びパーティー会場へと向かった。




ーーーーーーーーーー


いつもの月曜日は、当たり前のようにやってくる。


この日一生が職場に着くと、すでに智大はコーヒーを片手にデスクに向かっていた。


「よっ、こないだは結婚式来てくれてありがとな〜。」


「タキシード似合ってたぜ。」


「よせや、照れるだろ〜。」


智大はニヤニヤ笑いながら、答えた。が、瞬間、智大の表情はやや神妙な面持ちへと変化し、再び一生に話しかけた。


「あのさ、あの結婚式の時…何かあった?おまえ、途中でさや沙ちゃんと抜けてただろ?何か、深刻そうな雰囲気だったから気になっててさ。」


さすが智大、目ざとい。


一生は、結婚式の日に起きた出来事の一部始終を、ゆっくりと智大に話した。


途中、智大は、相槌をうちながら、いつものおちゃらけた様子とは異なり真剣に聞いていた。



「おまえ、それ…ずりぃ〜なあ。」


一生が全て話し終えた、智大からの第一声はそれだった。


「自分の過去のトラウマのことは話したくない。でも、さや沙ちゃんとは仲良くしたい。そんな、都合のいい話があるかよ。」



図星すぎて、胸がチクリと痛んだ。


「おまえが心を開かないと、関係が深まるハズないだろ。」


正しすぎて、一生は反論のしようがなかった。


さらに、智大は続ける。


「話さなくていいって言ったのは、ただのさや沙ちゃんの優しさ。おまえは、それに甘えてるだけ。」


さすがに、智大に対しカチンときて言い返そうとしたその時だった。



「話しは聞いていたぞ。」


2人はその声に振り返る。後ろにいたのは、下山係長だった。


下山係長は、2人に名古屋出張土産のカステラを差し出し、お茶を片手に会話の輪の中に加わってきた。


「うむ、確かに真島の言う通り、表面的にはわかりづらいが黒崎には少々勝手なところがあるな。」


下山係長が、話を仕切り出す。


「もちろん、大前提として、黒崎は真島とは違い常識人だし、きちんとしているが…。」


「…ちょっ…係長…」


智大の突っ込みは無視して、下山係長は話を続けた。


「根本的に、黒崎は相手のことを考えていないきらいがある。全てとはもちろん言わないが。自分ひとりで生きてるわけではないんだ…相手のことを出来る限り知ろう、逆に自分のことを知ってもらおうとする努力は避けては通れないと思うぞ。」


「きちんと相手と向き合う、極めてシンプルでありながら、とても大切なことだ。」


下山係長は、付け加えた。


ふいに…


ふいに過去にも、同じようなことを言われた気がした。


そうだあれは…、一生の恩師である、高校のサッカー部の監督の言葉だった。



ーーー自分ひとりでプレーをしているわけじゃないんだ!相手のことを考えてプレーしろ!仲間がどんなことを求めているのか……理解するのは大切だぞ!ーーー



過去に言われたこの言葉を思い出すと同時に、一生は深く反省した。8年前と似たようなことを言われたということは…本質的に変わってなく、成長していないということだろう。



《まずはきちんと、自分自身と向き合おう。》


一生は過去のトラウマをきちんと払拭させたいという思い、そしてそれから、久しぶりにサッカー部の監督のことを思い出した懐かしさもあってか、自然とスマートフォンを手に取った。


そして、高校時代のサッカー部のチームメイトに連絡を入れた。

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