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オーバーラップ  作者: ここたそ
はじまりのホイッスル
4/18

第4話


緩やかに秋の訪れが感じられるようになってきた頃、一生の休日の過ごし方といえば、決まってランニングだった。



都内にしては、やや大きめの近所の公園には、休日ともなると多くの人が利用するランニングコースがある。


季節折々で様々な植物の変化を見てとれるのも、この公園の魅力だ。



サッカーを辞めて以来、長らく運動からは遠ざかっていたものの、身体は正直だ。昔の鍛えていた身体とはほど遠く、メタボなお腹周りが多少気になるようになってきた。



このままでは健康に影響が出そうなので、時間がある休日には走るようにしていたのだ。


この日も一生は園内で1番アップダウンの激しいランニングコースを走り終え、目の前に噴水が広がる抜群のロケーションを楽しめるベンチに腰かけた。


自販機で購入したミネラルウォーターを、コクコクっとゆっくり口に運ぶ。



秋が近づいているとはいえ、まだ日中の気温は高い。冷たくひえた水が、なんとも言えず美味しい。


一生は呼吸を整え、目の前に広がる噴水をぼんやりと眺めていた。



視界の奥の方から、ついさきほどまで一生が走っていたコースを辿って近づいてくる人影を捉えた。


その影はこちらに近づくにつれて大きさも増し、次第にピントも合ってくる。



目の前に現れた、その女性はさや沙だった。



以前会った時のOLのスーツ姿とは違い、ランニングウェアを身に纏い、ポニーテールに束ねられた髪が印象的だった。



さや沙は一生の前で立ち止まると、自分の両膝に手を当て前屈みになり、ハァハァと肩で息を吸う乱れた呼吸を落ち着かせながら、こっちを向いた。



「ハァ…ハァ……、やっぱり、黒崎さん…だっ…」


さや沙は一生を見て、悪戯な笑顔を覗かせた。



会いたいと思っている時には会えることはなく、会うのを諦めかけていた途端に再開できるのだから、やはり神様というやつは、些かイジワルなのだろう。



「こっち、座りますか?」


一生は、空いている自分の隣を指差した。


さや沙は、「はい。」と呟き腰を下ろした。



「意外だな。」


一生のその言葉に、さや沙は何が?と言わんばかりの顔でこっちを見つめてきた。


「スポーツとか、するタイプに見えなかったから、浅野さん。」


「あ、ひどい。」



さや沙はプクッと頬を膨らませた。


「スポーツはね、確かにあまり得意ではないんだけど…観るのは好き…です。」


「そういう感じだね。」


一生の言葉に、ふふっと笑った。


「スポーツマンは無理だから、いっそスーパーマンでも目指してみようかな。」


そう戯けながら話す、さや沙に少なからず心が動いている自分がいるのを、一生はハッキリ自覚した。



この日は快晴の下という天候の恵みもあってか、以前はじめてさや沙と会ったときよりも会話が弾んだ。



最寄駅が隣同士なこと、洋楽にハマっていること、絶叫マシンが得意なことーーー



どれくらいの時間、話をしていただろうか。


気がつけば時刻は夕刻、太陽が沈み、空の色合いは落ち着いた藍色へと変化し始めていた。



「今度、一緒に走らない?時間があるときにでも。」


さりげなく誘ったつもりだったが、胸の鼓動はバクバクと波打っていた。



これまで幾度か女性を誘った経験はあるものの、それはそこまで深い気持ちで、ではない。


酷い言い方をしてしまえば、適当に誘った、これに尽きるだろう。


だが、今回ばかりは違った。



《さや沙に、会いたい。》


心に芽生えたその気持ちを、大切にしたかった。



「う〜ん、一緒には走らないです。」



さや沙の口から発せられた返答に、一生の胸の内に落胆が広がった。


「おそらく、黒崎さんの方が足速いので…。同じペースで走るのは難しいんしゃないかな。」



「なので、ウォームアップと途中休憩を一緒にしましょう!」



なんだそういうことか、と一生の肩の力がガクッと抜けた。



「じゃあ、ウォームアップと途中休憩、……それから走り終わった後のお茶でも一緒にどうですか?」


「はい、喜んで。」



さや沙の頬に、小さなえくぼ。


今この一瞬が、一生にとってたまらなく愛しい時間だった。


この回で第1章最後になります‼︎最後までお読みくださりありがとうございました。第2章も、引き続きよろしくお願いします!

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