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オーバーラップ  作者: ここたそ
未来へのオーバーラップ
18/18

第4話


一生はひたすらスタンドを駆け回った。


いるかどうかすらわからない、さや沙を探すために。



ーーーどこだ?どこにいるんだ…。


観客席から、「おおっ」というどよめきが沸き起こる。

どうやら、ピッチ上で惜しいプレーが繰り広げられたらしい。


息を切らした一生は、一旦立ち止まった。上着のコートのポケットに手を突っ込むと、先ほどの舞から受け取った手紙があった。



「そうだ…手紙……」


聖火台付近の壁にもたれかかり、徐ろに封筒の中の便箋を取り出し、そして8年前のさや沙からの手紙を読みはじめた。



『 黒崎一生さんへ。

あなたは覚えていないだろうけど、夏の練習試合のときわたしを助けてくれたこと…すごく嬉しかったです。

きっと、もうあの瞬間に、一目惚れしてました。

そしてサッカーしているあなたの姿を見たら、プレーの格好良さに目が離せなくて、どうしようもなくときめいている自分がいます。

決勝戦…あなたが活躍するのを、敵だけど心の中で応援してます。

サッカーが好きだと言ったあなたの夢が…いつの日か叶うといいな。叶いますように。

浅野さや沙 』



文章の最後に、控えめな字で連絡先が書かれていた。



8年前のさや沙の想いを、やっと受け取った。


ーーー8年前のこの日、さや沙は確かにここにいた。



スタンドから、空を仰げば、東京の街並、高層ビル群が広がる。

いつの間にか、雲間から日差しが差し込んでいた。



一生は便箋を封筒にしまおうと手を動かした時、はずみで足元に何かが転がった。


どうやら、それはお守りだった。


さや沙からの手紙に同封されていたようだった。


一生は拾いあげ、それを見ると、そこには赤い文字で『学業成就』と書かれてある。



「……………………。」




再び、脇目もふらず全速力で走り出した。



ーーー学業成就って何だよ?!この日に渡すつもりだったなら、必勝祈願系のとか他にいいのがあったんじゃねえの?



つよく、つよく、全速力で。




ーーーだいたい、手紙託す相手間違えてんだよ!元カノに預けるなよ!




ひたすらに、君のことを想いながら。




ーーー他にも、校内で道に迷うし、蕎麦屋で親子丼食わすし、男の部屋にのこのこ上がりこむわ、自ら誘ったデートの行き先考えないし……ほんと、なんかいろいろもう……




《でも、結局そんなところだ。…そんなところが、たまらなく可愛くて…そしてたまらなく愛しい。》



瞬間、グランドに強い風が流れた。選手は風を味方につけて、ひたむきにボールを追いかける。ボールはゴールに吸い込まれ、ゴールネットを激しく揺らした。


場内からは、この日1番の、割れんばかりの歓声が巻き起こった。



と、同時に少し遠くの10番ゲート付近に……やっと、追い求めてた姿を見つけた。


さや沙は、10番ゲートからスタジアムを後にし、出口へと向かうところだった。


一生は必死に後を追いかけた。




「……さ、……っやさ!さやさ!」




逢いたくてたまらなかった姿が…そこにはあった。


さや沙は一生の方に、ゆっくりと振り返った。



「……さや沙……」



ーーーやっと、見つけた。今度はもう、迷わないし、絶対に…間違えないよ。



「さや沙、話しを…」



話しをしよう。そう言いかけた時、さや沙の方から先に口を開いた。



「やっぱり……受け取ってなかったのかぁ…。」


さや沙の視線は一生の手元にあった。


思いっきり握っていた、8年前のさや沙からの手紙だ。


さや沙は瞬時に、全てを悟ったらしい。




「8年前、ひたむきにボールを追いかけている…あなたが大好きだった。遠くから、ずっと見てたの。」


涙声で、一生に向かって大声で喋った。



ーーーもう、ダメだ。ただただ、愛しさがこみ上げてくる。




「でも8年前の今日、決勝戦でわたしのお兄ちゃんと…あんなことになって…。自分のことのように辛かった。」



一生は、一歩前に踏み出した。



「あの試合の後、あなたがサッカーを辞めたって聞いて、もうわたしグチャグチャだった。」



ーーーそう、君の全てが愛おしいんだ。



「あなたのこと、忘れようと思ってずっと生きてた…そしたら、あの蕎麦屋で偶然出会うんだもん…。こんな偶然ってあるのかなぁ…!そう思ったの。」


「……うん。」



一生は、さや沙の声を、一言一句逃すまいと、耳を傾けた。



「でもね、あなたに踏み込めなかった。8年前、返事が来なかったから振られたと思ってたし、わたしのこと覚えてもないようだったから…どこまで近づいていいのかわからなかったの。」



「………うん…。」



「そしたら、今度はランニング中にまた出逢うんだもん…。もう、これは運命だって思ってもいいよね…。わたし、どんな一生くんでも、きっとーーーーーきゃっ………」




言い終える前に、一生はさや沙を力強く抱きしめた。




スタジアムの方から、試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。そのホイッスルの音は風にのって、余韻を残す。


観客席から、両校の選手の健闘を讃える拍手が、心地よく耳に届いた。




ーーーピッチの向こうに君の姿が見えれば、きっと強くなれる。ゴールを目指して、駆け上がるんだーーー


いろいろとツッコミどころは満載ですが……(笑)今話で終了となります!無事最後まで書ききれて嬉しいです。最後までお読みくださりありがとうございました…!

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