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オーバーラップ  作者: ここたそ
未来へのオーバーラップ
17/18

第3話


空模様は8年前の決勝戦の日と同じく、どんよりとした雲が覆っていた。


にも関わらず、国立競技場には多くの人がかけつけていた。

両校の応援スタンドには、特大のフラッグがかかげられ、まるでプロの試合さながらの雰囲気だ。


一生は千駄ヶ谷門側から、サイドスタンド付近に足を運び、場内を眺めた。


試合開始を告げるホイッスルと同時に、周囲の観客は湧き上がり、非日常的な空気感をつくっている。



結局、一生のメールに対し、さや沙からの返信はなかった。


それでも、僅かな可能性にかけ、ここまでやってきた。



《きっと、きっと…来てくれるはず。》


一生は、場内の通路を観客の邪魔にならないように移動しながら、さや沙の姿を懸命に探した。


しかしながら、どこを見渡してもさや沙は見当たらず、一生は焦りを感じた。



その時、ちょうどジーンズのポケットに閉まっておいたスマートフォンのバイブが振動した。


一生はさや沙からかと思い、慌てて手に取った。


そこに表示されていた名前は、さや沙からではなく重孝からのものだった。


若干、落胆したものの、すぐに電話に応じた。



「もしもし、重孝?」


「一生…やっぱり今、国立にいるな?来る気がしてたんだ。」


重孝は、受話器から聞こえる音から、一生がスタジアムにいると判断したらしい。

一生も、耳を凝らすと、受話器の向こうから、同じような雑音が聞こえる。どうやら、重孝もこの国立競技場にいるようだ。



「重孝も、来てたのか?」


一生は尋ねた。


「そう、母校の応援にな。…それよりも、今ここにいるなら話が早い。見せたいものがあるんだ。」


「見せたいもの?」


「ああ、大事なものだ。悪いけど、清城学園側の応援スタンドら辺にこれるか?」


「…わかった、今から行くよ。」


一生は、一旦電話を切った。本当は、今それどころではないのだが、重孝の声が真剣なものだったため、向かうことにした。


再び通路を横切りながら、清城学園の応援スタンドに辿り着くと、端の方で応援している重孝の姿が目に入った。


その横には舞もいて、2人で応援している最中だった。



「よ。」


「悪いな、こっちまで来てもらって。」


「よく俺が今日来てること、わかったな。」


「…8年前と同じ組み合わせでの決勝戦だし。まあ、元相方としての勘だよ!」


重孝は、ニカッと歯茎を覗かせて笑った。


「…そうか。ところで、見せたいものって何だ?」


一生が尋ねると、重孝は隣にいた舞に対し、「ほら、出せよ。」と促した。


そして、舞は一生の目の前に、スッと手を出した。その手元には、綺麗な花柄の封筒の手紙があった。


「……これは手紙?」


一生が問う。


「……そう、一生への。」


舞が静かに話し始めた。


「8年前の、この決勝戦が終わった後…預かってた。一生には渡さなかったけど。」


「………預かってたって…誰から?」


「…マネージャー。向こうの。成川高校の。」



さや沙からのものであることは、名前を聞くまでもなくすぐに分かった。


「俺が舞に問い詰めたんだ。」


重孝が、口を挟んできた。


「あの試合が終わったあと…、この前うちのレストランに来てくれたあの子が、一生に渡して欲しいって舞に頼むのを、俺見てたから…。なんで一生が、マネージャーだってこと知らないんだろうって思って舞に聞いたんだ。やっぱり受け取ってなかったんだな…。」



ーーーなんでっ


「なんで渡さなかったんだ?」と一生が聞くよりも先に、舞がその理由を言ってきた。



「別れた後も、ずっと好きだったから。」


「ずっと好きだったから…一生の眼中にわたしがないのが悲しくて悔しくて…受け取った手紙、渡さなかった。いじわるしたの。」


「……舞………」


なんと声をかけていいのかわからなかった。手紙の件はさておき、舞を知らず知らずのうちに傷つけていたのかと思うと、罪悪感を覚えずにはいられない。



ーーー今自分にできるのは…精一杯誠意のある言葉で伝えるだけ…か。



「舞、ごめん。あの頃、確かにサッカーでいっばいだったけど、付き合っていた時、舞を好きだった気持ちも…嘘じゃないよ。」


ふうっと大きく、息を吸い、ゆっくりと吐き出した。


「俺、行かなきゃいけないところがある。」



一生は、駆け出した。



後ろから、重孝の「後は任せろ!」という声が聞こえた気がした。




「……行っちゃったな…一生。」


舞は、隣の重孝に向かって話し始めた。


「あの頃からずっと一生を見てきたけど…結局わたしの想いは通じなかったか。」


「……そんな、一生を追いかけている舞を俺はずっと見てきたけど?……いちばん、側で。」


重孝は、そっと舞の手を繋いだ。


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