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オーバーラップ  作者: ここたそ
仕掛けられたオフサイド
11/18

第2話


8年前、国立競技場ーー


冬の厳しさを象徴するような、肌寒さが身に染みる日だった。

天候は、くもり。薄暗い空がグラウンドを覆っていた。


高校サッカー部における、冬の大会は、高校3年生にとっては最後の大会となる。テレビでも取り上げられることから、一般的な知名度も非常に高い。


そのため、選手たちにとっては、この大会というのは特別なものだ。コンディションをこの大会に合わせて、これまで練習を重ねてきたといっても過言ではない。


一生は、高校1年、そして2年のときもこの大会にレギュラーとして出場した。

しかしながら、1年次は3回戦で、2年次には準決勝で敗北している。


そのため、初の決勝戦への意気込みは非常に高く、優勝したい思いでいっぱいだった。



かつて、清城学園のOBでもある一生の憧れのスター選手も、この大会で10番を背負いプレーし、そして優勝した。

そのスター選手は、今オフに海外のクラブチームへの移籍が報道されている。


《いつかは、自分もーーー》


この試合は、自分の将来の夢への足掛かりとなる、大切な一戦なのだ。



相手校は、成川高校というこちらもサッカーでは名門校だ。

これまでの両校の歴史では何度も対戦してきたものの、ここ数年は公式戦で当たっていない。

もちろん、隣県同士のため、練習試合ではこの年も数回ほど対戦はしていた。



試合開始のホイッスルがピッチ上に鳴り響く。


久しぶりの公式戦での対戦ということもあり、試合は序盤から、両校ともアグレッシブに、激しくせめぎ合った。


試合は進み、何度もお互いに相手ゴールを脅かすプレーが繰り広げられたものの、なかなかゴール自体は決まらない。


気がつけば、後半も35分が過ぎても、スコアレスドローだった。


正直、一生は苛立っていた。



相手の成川高校、背番号16のDFに、完全に攻撃を封じ込められていたからだ。



一生の攻撃を読み、抑え込んでいるこのDFは、今大会に同ポジションの進藤了しんどうりょうという3年の選手からレギュラーを奪い、はじめてスタメンとなった2年の選手だった。


年下相手にやり込まれているという理由もあったが、苛立ちの原因はそれだけではない。


実はこの、ポジションを奪われた3年の進藤という選手は、一生の小中学校の同級生なのだ。


幼い頃から一緒のチームでプレーし、高校こそ別になったが、共にサッカーをやってきた一生にとってよき友達でありライバルだ。



進藤と、この大会で再戦できるのを楽しみにしていただけに、彼ではなく、パッと出の2年のDFが自分のマッチアップ相手だということも、余計苛立ちを助長させた。


やすやすとレギュラーの座をあけわたし、ベンチに座っている進藤に対しても…失望とも落胆とも違う、言いようのない感情を抱きながら試合に挑んでいた。



「一生、熱くなるなよ。感情的になるな。相手の16番、2年だけど相当うまいぞ。」


「わかってる。」


プレーが途切れたとき、重孝が一生に忠告してきた。口ではわかってると答えたが、内心は冷静ではなく、何もわかってなかった。



まもなくして、重孝から、その日一番の出来である決定的なロングパスが、成川高校のゴール前に放り込まれた。


ーーーなにがなんでも、俺が決めてやる!


一生は無心で、ゴールに向かって駆け上がった。


相手の16番が自分をマークしていて、寄せてきているのはわかっていた。


自分が無理をしなくても、味方のFWがフォローに駆け寄っているのもなんとなく気づいてた。


しかし、冷静さを欠いていた一生は、状況判断をミスした。

無謀にも相手DFに身体ごと突っ込み、重孝からのパスを奪いとろうとした。



「黒崎!!無理をするな!」


遠くから、監督の声が響いた気がした。


瞬間、一生は相手の成川高校の16番と思いっきり接触した。


グキリッと、嫌な音が鳴り響いた。と、同時に、次の瞬間にはバランスを崩し、ピッチ上に倒れこんだ。


「……!いっせい!!」


味方選手が自分の名を叫ぶ声が、木霊した。


一生は立ち上がることができず担架で運ばれ、後半40分にピッチを後にした。


涙目の一生が、ピッチを立ち去る前に最後にそこで見たものは、相手の16番のDFの蔑むような眼差しだった。



結局、そのプレーは相手DFに無理やり突っ込んだ一生の危険プレーを審判にとられ、成川高校のキックオフで試合が再開した。


成川高校は、そのままカウンターで攻め込みゴールを決め、それが決勝点となった。


清城学園は、決勝で敗れた。


優勝を決め、喜ぶ成川高校の選手達を、一生はグラウンドの端、担架の上で簡単な治療を受けながら見ていた。


怪我した脚よりも、心の方が痛かった。


ポツポツと、小雨が空から落ちてきていた。頬を伝うのは、雨粒なのか自分の涙なのか、もはや分からなかった。







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