第1話
第3章スタートです‼︎
冬の季節に束の間の暖かさを取り戻したこの日。
一生とさや沙はいつものように、ランニングを楽しんでいた。
身体を存分に動かし、息も上がり疲れた頃、一生はさや沙を自分の家へと…誘ってみた。
「新婚旅行?」
「そう、智大が新婚旅行でバリに行ったんだって。それで、さや沙にも結婚式に来てもらったお礼ってことで、お土産を預かってるんだ。この後、俺の家に取りにこない?」
そう、智大のお土産をダシにつかい、誘ってみたのだ。
まあもちろん、玄関先でお土産だけ渡して、すぐ帰すつもりではあるが。
「わーい、お土産!バリなんて羨ましいなあ。あ、お家行きますっ。」
と、上機嫌にさや沙は返事をした。
いとも簡単に着いてくるのは、さや沙の良いところなのか悪いところなのか、よくわかんないな…そんなことを考えながら一緒に家へと向かった。
一生の自宅は、1LDKのアパートだ。一人暮らしも長くなり手狭になってきたため、今年1Kのアパートから引っ越しをしたのだ。
新居を探すにあたって、外観も内装もこだわって探したため、なかなか気に入っている。
毎日の通勤は大変なのだが、小高い丘の上に立地されているため、バルコニーからの眺めがよく開放感が広がる。
建物の入り口エントランス付近はコンクリート打ちっ放しで無機質な雰囲気なのだが、ところどころに配置された観葉植物がその雰囲気を和らげるよいアクセントとなっている。
一生は、自分の305号室の玄関前にさや沙を案内した。
お土産持ってくるからちょっとそこで待ってて…と言いかけたその時だった。
「わあ、お邪魔しますっ。」
と、さや沙が扉を開けて中に入ってきた。
「あ、あがる?」
一生が聞くと、さや沙は首を傾げながら、「うんっ。」と言い、靴を脱ぎはじめた。
………ちょろい、ちょろすぎるよ。これが智大の家だったらとんでもないことになってたぞ!
と思いはしたものの、ラッキーな展開であることには違いないので、中へ案内した。
「適当に、ソファーにでも座って。お土産持ってくるから。」
「はーい。」
手持ち無沙汰だと申し訳ないので、テレビのリモコンのスイッチを入れて、一旦リビングから離れお土産を置いておいた寝室に向かった。
お土産のチョコレートと、ココナッツオイルが配合されたボディーケア用品を手に取り、リビングに戻ると、さや沙はボーッと無表情でテレビを眺めていた。
何を観ているんだろうとテレビを覗くと、そこには今も忘れられないあの光景。
高校生の冬のサッカー大会の、告知番組が流れていた。
おそらく、来週から大会が開幕するからだろう。過去の大会の名シーンや、今年の注目選手などが取り上げられていた。
「さっき一瞬ね、チラッと一生くんが映ってた。」
さや沙は、後ろにいる一生を見ることなく、そう呟いた。
一生は、8年前、この大会で決勝戦まで勝ち進んでいる。過去の映像が流れれば、映っていても不思議ではない。
「よく、俺だって気づいたね。」
はい、とお土産を手渡しながら言った。
ありがとう、とそのお土産を受け取ると、
「本当はね、あの結婚式のときの話がずっと気になってたの。それで今、テレビで一生くんの高校の名前が流れたから…つい、食い入るように見ちゃった。」
伏せ目がちに答えた。
ここでこうして、自分のサッカーしている映像が流れたのも、きっと何かの運命だ。
一生はさや沙に、あの大会の決勝戦での出来事を全部話そうと決意した。
「さや沙、聞いてほしい話がある。」
さや沙は、コクリと頷く。
一生は、熱いコーヒーを2つのマグカップに注ぎ、1つをさや沙に手渡した。
そして、さや沙の隣に腰掛け、意を決するために、すぅっと一息ついた。
きっと、このコーヒーの熱が冷める頃には、今まで抱えていた気持ちが軽くなっていることだろう。