第1話
とても久しぶりに投稿してみました!久しぶりすぎて、投稿するのにも悪戦苦闘です(笑)お見苦しい点が多いかと思いますが、暖かく見守っていただければと思います!
味方にボールが渡り、チャンスと見るや否や、速攻でグランドを駆け上がり、試合を決定づけるゴールを華々しく決めた。
今日の朝は、他に大きなニュースもないせいか、ほとんどのテレビ局が昨日おこなわれたサッカーの試合を報道していた。
派手にゴールを決めたその選手は、日本では誰もが知っているスター選手で今年34歳になる。
テレビを何となく眺めていた黒崎一生も、かつてはこのスター選手に憧れを抱いていた。
《本来ならば、自分もこの選手と同じような人生を歩むはずだったのにな。》
そんな嫉妬にも似た羨望は、とうの昔に捨て去った。
「やっべ、仕事遅れる!」
一生はテレビを消し去り、仕事用鞄を急いで用意し、家を後にした。
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「よっ!月曜の朝の憂鬱感は何とかならないもんかね〜。」
朝っぱらから気の抜けたテンションで話しかけてくるのは、同期の真島智大だ。
「おまえのそのテンションが、余計憂鬱感を助長させるよ。」
「ヒュー、言うねぇ。」
「そんなことより、さっさと今日のプレゼン仕上げないと、また下山係長に小言言われんぞ。」
「だなー、ほんとダルいわ。」
月曜の朝は、智大とこんな風に他愛もない話をすることから始まる。
一生にとって、智大は社会人になって唯一できた、友人だ。
軽いノリが妙に自分と波長が合い、付き合いやすい。
「真島!プレゼンには余計なアレンジを加えず、シンプルに先方にわかりやすい言葉で仕上げるようにと伝えただろうが!!」
「や、余計なアレンジなんかじゃなくて、料理を美味しく調理するための、スパイスみたいなセンテンスなんですよ!!」
「ほんっと、お前は一言も二言も余計だな!」
始業と共に、下山係長と智大のバカみたいな会話が繰り広げられられるのは、デジャブと言えるくらいに見飽きた光景だ。
そんないつもの光景を横目に、一生は山積みになった資料の山をため息を吐きながら確認した。
嫌気がさして、途端に窓の外に広がる快晴に視点を合わせた。
《このまま、毎日毎日、同じことをただ何となく繰り返して過ごしていくのだろうか…。ボールをひたすらに追いかけていたあの頃描いていた未来から、随分遠くに来てしまったな。》
連休明けの月曜日というのは、得てして感傷に浸ってしまうものだ。
時折物思いにふけながら、仕事をこなしていると、あっという間に、お昼休憩の時間になった。
「一生〜、今日は飯何食いに行く?」
この男は相変わらず気だるそうに、少しだけ伸びた焦茶色の髪を掻き上げながら話しかけてきた。
「この間迷ったさ、あの落ち着いた雰囲気の蕎麦屋行こーぜ。」
一生は、デスクの椅子に乱雑にかけておいた背広に袖を通しながら、答えた。
毎日、同じ仕事を機械のようにこなさなければいけないサラリーマンにとって、同僚とのランチは唯一の楽しみだった。
幸いにも、一生と智大が勤める企業は、都内でも有数のオフィス街であるため、必然的にリーズナブルなランチを堪能できるお店も多い。
二人は、時間があるときには、いろんなジャンルの飲食店を巡っていた。
その日行ったのは、以前カレー屋と天秤にかけて、結局勝者とはならなかった蕎麦屋だ。
門構えは、老舗ならではの伝統を感じさせる…とまでは言わないが、そこそこ落ち着いた雰囲気の店だった。
入り口のすぐ脇には、小洒落た黒板風のキャンバスが置いてあり、わかりやすく目玉メニューが書かれてあった。
一生は、その中でも一際目立つように書かれていた、1日30食限定の鴨ネギ蕎麦に心が惹かれた。
「一生何にする〜?俺は天ぷら蕎麦で決まり〜。」
「俺は鴨ネギ蕎麦、お願いします。」
入り口からすぐ横の、レジカウンターで注文をすると、いかにも気の良いおばちゃん店員が愛想よく答えた。
「天蕎麦と、鴨ネギ蕎麦、受け賜わりました!鴨ネギ蕎麦、今日ラストですよ〜!お兄さん、ツイてるね。」
笑みを浮かべる店員に、一生が愛想笑いで返そうとしたその時だった。
「えっっ、うそっ?!鴨ネギ蕎麦終わっちゃったあ…」
すぐ後方から、何とも間抜けな声が聞こえて、振り返った。
そこには、華奢な体型で、澄んだ眼差しが印象的な、セミロングヘアの女性が唖然と突っ立っていた。
ーーーそれが彼女、浅野さや沙との出会いだった。
お読みくださりありがとうございました!