〜再会した奴は相変わらずウザい〜
知由達はドラッグストアでも無事に物資の調達に成功し、公園に着いていた。
「あー、くそっ。ねみぃ...」
知由がそう言い、大きな欠伸をすると、部員たちの緊張した面持ちが少し和らいだ。
「でも以外だったな。知由ちゃんって動くんだね」
「それ!俺も思った!櫻田がこんな動くのはじめて見た!体育もいつもいないし、運動できねぇのかと思ってたわ」
「あ"?」
みんな体の力が抜けたのか、思っていたことを口々に話し始める。
「てかお前行動力やばいな。いつも眠そうにしてるくせに」
「ばか、眠そうなんじゃなくて実際寝てんだろうが!」
「あぁ、そうか」
「おい、お前ら、私のことをなんだと思って...」
完全に知由がメンチ切り始めた時
「ちーは元々こういう子だよ。それはそうと、聞いてもいい?」
彩が知由を見上げて言う。
「どうしたの?彩」
「さっきさ、咲真君との電話で警察署はダメって言ってたでしょ?逆に安全なんじゃないの?なんでダメなの?」
そういえば、と先ほどまで知由にちょっかい出していた部員たちも黙って知由を見つめる。
「あぁ、そのことか。うーん、簡単にまとめると理由は3つかな。1つは、人が集まりやすいから。混乱の中でゾンビとは戦いにくいからね。2つ目は、まだ戦い慣れてないのに大きく且つ慣れてない構造の建物に行くのは危険だと思ったから。3つ目はーーーこれは確信はないんだけど、もし警官がゾンビになっていたら今の私ひとりの戦闘能力では勝てないと思ったから。あいつも同じ」
「あの、悪い、3つ目がよくわかんないんだけど。警官でもゾンビはゾンビだろ?変わるのか?」
戸塚が聞く。
「そこが分からないんだよ。私らがここに来るまでに出会ったゾンビは少なすぎる。サンプルが少ないんだ。まだ観察が足りないから、ゾンビがどういう性質を持ってるのかがわからない。でも、もしゾンビの強さが元々の人間の強さに比例するなら、警官・自衛官は最も危険だと思う。私達に比べて色んな訓練を受けてる」
「さすがゲーマー、だな」
後方の茂みから声が聞こえた。
田沼と戸塚は瞬時に身構えた。
「おー、すごいすごい、様になってるやん。けど大丈夫だよ。...サク、脅かすようなことはやめろよ。てかうるせえ私はゲーマーじゃねぇ、引きこもりだ」
「え?」
「やっぱ知由は驚かせらんなかったかー。つか引きこもりの方がダメだろ(笑)」
茂みから姿を現したのはゾンビでもなく、不審者でもなくーーーイケメンだった。
「よぉ、元気だったか」
「まぁな。お前は人数多いな。8人、か」
「部員。まぁ休みもいたし全員じゃないけどね」
「戦えるのは、見た限りお前含め3人、か」
「うん、そっちは単独だね。合計で4人。これだけいれば大丈夫でしょ」
「警察署、だな?」
「うん」
「そこで、だが。お前の予想は多分当たってる」
「...寄ったのか?」
「あぁ、交番前を通ってな。お前の忠告を思い出してやめようと思ったんだが...」
「その肩に関係あるのか」
咲真は上着を羽織っている。特に変わったところはないように見える。
部員たちはポカンッとした顔をし、咲真は苦笑いを浮かべた。
「やっぱ隠せなかったか」
咲真は公園に来るまでのことを話した。
それはそこにいた知由以外の全員を青ざめさせるのには十分な情報だった。
"男が廃る!!"
そう思って飛び出した咲真だったが、警官ゾンビは思った以上に早かった。
(人間だった時がどんなか知らないけど、俺様だって陸部のエースだぞ?早すぎるだろ)
幸いにも周囲を見る限り他のゾンビはいない。
危険だが、追いつきそうになく、手に持つ鉄の棒を投げようと身構えたその時だった。
「えっ、あ!?」
警官ゾンビは急停止し、そして振り返った。
「くっそ!!したらもうやけくそだろっ!!」
咲真は鉄の棒を持ち直し、力の限り振りかざした。走る速さを見る限り、向こうから攻撃を加えられる前にこちらから攻撃した方がまだ勝ち目があると思ったからだ。
しかしーーー
「避けた!?」
警官ゾンビは少し左に体をずらし、咲真が振りかざした鉄の棒を避けたのだった。
(反則だろ...!!!)
そして、警官ゾンビは
ーーー咲真の肩に思い切り噛み付いた。