〜双子〜
トゥルルルルッ トゥルルルルッ
「ちっ、出ねぇな」
部員たちがそれぞれ弓矢を準備したり、家族に電話したりしている中、知由は電話をかけ続けていた。
「ちー...」
か細く自分を呼ぶ声が聞こえて振り返ると、知由より少し背の低い女の子が知由を見上げていた。
「彩...。大丈夫だよ、彩」
先ほどまで厳しく口悪く言葉を吐いていた知由だったが、表情は穏やかになり安心させるように背の小さな少女ーーー町田彩の頭を撫でた。
「誰に、電話、かけてるの?」
声はまだ震えている。
「サクにね。けど、出ないや」
「ちーのお母さんとお父さんには...?」
「いや、きっとあの人たちは大丈夫だよ。今ちょうど由馬が帰ってきてるから。あいつに任せとけば大丈夫だと思う」
「そっか」
「うん」
知由は彩をもう一度撫でると、手元のスマホが振動し始めた。
「もしもし」
『おう』
「今さ」
『グシャアァ! ...どうした』
「いや、手間が省けた。サク、今どこにいる?」
『駅。その調子じゃお前も大丈夫だな。お前は道場か?残念だけどここで落ち合うのは無理だと思う。数が半端じゃない。どこがいい?お前に任せる』
「とりあえず様子を見たいかな。学校近くの公園にしよう。あと、警察署には近づかないで」
『分かった。じゃあ1時間後にそこで』
「りょーかい」
電話を切ると、道場内を忙しなく動き回る部員たちに声を張った。
「今から私は移動する。シャッターを閉めればここに篭ることもできるだろうけどそれは後々問題が発生すると思う。一緒に来たい人はついてきて。」
部員たちは決心がつかないのかその場を動く気配はない。
彩だけが知恵の手を握り一緒に行く意思を示している。
「それ、じゃあ。元気で。ありがとうね」
それは知由達が道場を出ようとした時ーーー
「きゃぁあぁぁあ!!!」
グラウンドで響く絶叫。
部室にある矢を取りに行った部員の声だった。
絶叫を聞いた瞬間に知由は飛び出していた。
部員たちがグラウンドに出ると、ゾンビに襲われかけている部員の姿が見えた。
そして、その後方ーーーちょうどゾンビと道場との間、部室棟の前に立てかけられていた野球部のものであろうバットを掴み取りゾンビと部員の元へ走り寄る知由の姿が。
「ちーー!!!」
彩が叫ぶと同時に知由はゾンビの元にたどり着き、後ろから、なんの躊躇いも無く、バットをフルスイングした。
血が舞い、頭が飛んだ。
目の前で繰り広げられた光景に、矢を取りに行った部員は嘔吐していた。
部員を連れ、みんなのいる道場に戻ってきた知由は返り血を浴びていた。
部員たちは、怯えていた。
ーーー知由に。
知由は困ったように笑った。
「うん、わかるよ。大丈夫。嫌なものを見せて悪かった。グラウンドまで入り込んでるし、やっぱり数が増えてる。気をつけて。私はそろそろ行くね。じゃあ、今度こそ、ばいばい」
「櫻田!」
呼び止めたのは田沼だった。
「俺も、連れて行ってくれ。できるだけのことはする」
田沼がそう言うと、怯えを隠しきれていない部員たちもしきりにうなづいた。
「....わかった。じゃあとりあえずみんなリュックだよね?中身はなるべく空にして。さっき電話してたから聞いてただろうけど、私はサクと合流する。けど、その前に食料調達と必需品を確保するためにコンビニとドラッグストアに行く。いいね? それと、弓でいいかと思ったけどバットの方が扱いが簡単だ。幸い人数分ありそうだしこっちにしよう。」
全員が頷いた。
「じゃあ、出発しようか」
「サクくん?って誰」
歩き始めて少しした頃、田沼は彩と知由の隣へ行き会話を始めた。
「友達。まぁ友達ってほど縁は浅くないかな?私の血の繋がってない双子みたいなもんだと思って。」
「双子?お前、双子だったのか!?」
「ちげーよばか、みたいなもんだってば。そんくらい関わりが深いっつーこと。兄弟は由馬だけ」
「彼氏、か?」
「違うよ。だから言ったじゃん、双子は双子。それ以上でも以下でもないから」
「梨蔵咲真でしょ?有名じゃん。まぁ有名なのは梨蔵くん単体じゃなくて知由とセットで、だけど」
話に入ってきたのは部員の一人ーーー国田律だった。
「そーなのか?」
「あったりまえでしょうよ。ベタベタしてるって印象はないけどいつもお互いが隣に控えてる、って感じじゃん。目立つわ。近しい人ならただの友達だって知ってるけど、ちょっとの知り合いくらいじゃ勘違いすると思うよ。まぁイケメンと可愛い子だってのもあるけどね」
「だれが可愛い子やねん」
知由は咲真との間柄は否定はしなかった。
実際、女子からなんやかんや言われることも多々あるし、咲真も男子に色々言われているようだった。
『双子』
それが2人をまとめた渾名だった。
実際血が繋がっているわけではないが、思考、発言、行動ーーーテストの点でさえ一緒であった。いつもお互いをバカにしあったり貶しあったりしているが、いざという時には誰よりも頼り、守りながら過ごしている。そういう印象を持たれていた。
印象ではなく、実際そうなのだが。
「まぁそれにあいつは使える。思考が一緒だしそれを行動にうつすことができる。ーーーまさにこんな世界で生きてくパートナーにはぴったりなんだよっ!と」
それだけ言うと知由は走り出す。
「櫻田?」
「ちー?」
3人が知由の行動を不思議に思っていると、知由は道の先の角を曲がったと同時にバットを振った。
グシャリと嫌な破壊音が聞こえ、血が飛んだ。
「影。ゆらゆらゆれながら道路に映ってた。」
返り血を浴びて血まみれになった知由が振り返って彩と田沼と国田、もとい部員に向かっていう。
「忘れるなよ。これは命がけの遠足だ」